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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第13話 臭撃(しゅうげき)

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 『ご主人様ー、誰か来るよ』

 どのくらい寝ただろうか。点ちゃんの声で目が覚める。確かに、足音が聞こえてくる。俺は少し考えて、部屋をそのままにすることにした。

 「どうなってるんだ。今まで、地下牢の匂いが上がってくることなんて無かったのに」

 「もしかすると、どこかに隙間ができたのかもしれません」

 「隙間っていっても、地下だぞ。それで、風向きが変わるか?」

 「まあ、だからこうして調べに来たわけですし……」

 男の声が、石造りの壁に反射する。牢の前で足音が止まった。

 「な、なんだ! これは!?」

 「誰がこんな物を持ちこむのを許したんだ」

 見ると、青竜族の男達二人が外で騒いでいる。
 俺は、彼らを放っておいて、目覚めのお茶の用意をする。

 「おい、お前! 何してる?」

 「何って、お茶を沸かしているんだが」

 「き、貴様! ここがどこか分かってるのか?」

 「いや。『迷い人』専用の宿泊施設じゃないのか?」

 「ふ、ふざけるな! これのどこが宿泊施設だ!」

 「えっ!? 何の罪もない俺達を泊めてくれてるんだから、宿泊施設だろう」

 男が警棒の様なものを腰から外し、それでお茶セットを攻撃しようとした。テーブルは、鉄格子ぎりぎりに置いてあるからね。

 カキッ

 甲高い音がする。俺が張ったシールドに、警棒が弾かれた音だ。
 俺は、風魔術に少しアレンジを加えた。

 「く、くさっ!」「こ、これはたまらん!」

 二人が鼻を摘まんで逃げていく。部屋の隅にある排泄孔の奥から勢いよく空気を送りだすようにしたから、すぐに建物中が悪臭に満たされるだろう。


 間もなく、複数の足音が近づいてきた。

 「な、なんだこの臭さは!」

 「やはり、あいつらが原因かっ」

 部屋の前に竜人が現れる。俺とポルは、ちょうどお茶を口にするところだ。全員が鼻を摘まんだ男達が七、八人、部屋の前にいる。さっきの二人もいるようだ。俺は、匂いがさらに強くなるように風魔術を書きかえる。

 「く、臭っ!!」

 竜人の一人が、うっかり鼻から息を吸いこんでしまったようだ。しゃがみこんで、吐いている。
 おいおい、こっちはお茶をしているんですよ。

 ついでだから、全員の手が鼻から離れるように点魔法で操作する。

 「て、手が勝手に!」

 「「く、臭いっ!!」」

 全員が、床に座って吐きだした。見苦しいから、黒いシールドで覆っておく。
 少しすると、さらに大人数の足音がする。お茶を飲み終えたので、竜人達にかぶせた黒いシールドを外しておいた。
 うはっ。全員気を失っていますか。どんだけ臭いんだよ。だけど、それだけ臭い場所に人を押しこむってどうよ。
 俺は、彼らに何の同情心も湧かなかった。

 鼻と口を布のようなもので覆った、大勢の竜人が、倒れた者を運んでいく。やがて、俺達を面接したハゲた竜人が、マスクをして牢の前に現れた。

 「こ、これはお前らの仕業か?」

 「これって何?」

 「この匂いじゃ?」

 「ああ、このお茶の匂いね。なかなかいいでしょ。エルファリア産の上物だよ」

 「いや、そうじゃない! この臭いひおいだ」

 あちゃー、鼻が馬鹿になってるのかな。

 「におい」じゃなくて「ひおい」になっちゃってるよ。

 「いや。俺は、この部屋でくつろいでるだけだよ」

 「分かった。もう分かったから、止めてくれ」

 「え? 何を止めるの?」

 「ええいっ! きちんとした部屋を用意するから匂いを止めてくれ」

 「いや。俺、この部屋、結構気に入ってるんだけど」

 「すまん。ワシが悪かった。この通りだ」

 竜人が、ハゲ頭を下げる。

 「まあ、そこまで言うなら部屋を変わってあげてもいいけどね」

 俺は、風魔術を「一旦停止」モードにする。ハゲおじさんが開けた鉄格子から外に出た。
 こめかみに青筋を立てたおじさんが、黙って歩きだす。俺達も黙ってその後を追った。黒竜族の女はボードの上に寝かせてある。


 史郎達は、一階にある、おそらく来客用であろう豪華な部屋に通された。
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