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第六章 竜人世界ドラゴニア編

第10話 竜人の村1

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 森の中に作った土の家で夜を明かした史郎達は、さらに森の奥へと進んだ。

 竜人の女に上空から撮った写真を見せ、進むべき方向を確認してあった。
 俺達が今いる大陸は、中心から5本の半島が伸びたヒトデのような形をしている。転移してきた台地は、その半島の内、最も北に位置する「足」の中ほどにあった。

 竜人が住むのは、大陸中央部から南に掛けてらしい。だから、俺達は、ヒトデのような大陸の中心に向かって進んでいるわけだ。
 昨日の度重なる魔獣の襲撃が嘘のように、今日は平穏である。ときどき出てくる魔獣も、性格が穏やかなのか、こちらに気づくと逃げだすものばかりである。
 竜人の女は、ボードの上で寝ているが、顔色が昨日より良くなっているから、なんとか持ちなおしたようだ。
 森の木々が次第にまばらになり、やがて前方に山が見えてきた。ゴロゴロした石がそこら中に散らばっている。足場が悪くなってきた。

 森が途切れると、左側に海が見えた。地球の海より色がずいぶん濃く、黒っぽい色をしている。潮の匂いはしないようだ。

 この世界に来て初めての人工物が現れる。前方の岩山に刻まれたそれは、紛れもなく階段だった。
 歩くのは諦め、岩山の上を飛ぶことにする。3m×2mくらいのボードを作り、その上に乗る。竜人の女は、ボードのまま載せた。
 風防を付け、空に上がる。

 「うわー! 海だー」

 ポルが歓声を上げる。俺達がさっきまでいた場所は、左右を海に挟(はさ)まれていた。どうやら、ここはヒトデの足が細くなっている部分に当たるらしい。
 地峡の山を飛びこすようなコースでボードを進めていく。山の上には小さな砦のようなものが見える。人影は無かった。
 山を越えると、再び森が始まる。ボードを森の脇に降ろし、それを消した。
 再び森の中を歩きだす。
 切り株が見られるようになる。人家は近そうだ。

 史郎達が、最初に会ったこの世界の住人は、背中に柴を背負った少女だった。

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 少女は、質素な萌黄色の服を着ていた。

 身長160cmくらいで、青い髪に整った顔だちをしていた。
 やはり、こめかみから頬にかけて青色の鱗が生えている。肌も、やや青みがかった色をしている。足元で細くなったズボンのようなものを履いていた。靴は竹のような素材で編んでいるように見える。
 俺が捕らえている女が黒髪であることを考えると、竜人にもいろいろな髪の色があるのだろう。
 こちらに気づいた少女が、驚いた顔をして立ちどまる。

 「こんにちは」

 とりあえず、声を掛けてみる。多言語理解の指輪が、竜人の言語までカバーしていることを祈る。

 「あ、あなた達は?」

 どうやら、大丈夫だったようだ。

 「他の世界から転移して、森の向こうの台地に出ました。
 ここは、竜人の世界ドラゴニアでまちがいありませんか?」

 「え、ええ。あなた達は、竜人では無いわね」

 「俺は人族、こっちが狸人族です。
 怪我をしている竜人を休ませたいのですが、宿屋のような所はありますか?」

 「やっぱり、竜人では無いのね。宿屋は無いわ。あったとしても、竜人でないなら使えないでしょうね」

 「なぜですか?」

 「なぜでもよ。こうして、話しているのを見られるだけで、最悪、『追放』されるかもしれないの」

 「分かりました。食べ物だけでもいただけませんか。交換するものは、色々持っています」

 「無理でしょうね。村の若い男達に見つかったら怪我どころじゃ済まないわよ」

 「俺達が何だって?」

 間が悪いことに、その「村の若い男達」が現れたようである。なめし革の服を着た大柄な竜人の青年が三人、木立から出てくる。
 全員、青い髪を耳の上で切りそろえている。
 ここに来て坊ちゃん刈り?

 「パニア。お前、後で村長に裁(さば)いてもらうからな」

 まん中の特に大柄な一人がせせら笑うように言う。

 「わ、私は何も……」

 「そいつらは、俺達が相手をしてやる」

 そう言うと、男は拳を握り、胸の前に構えた。
 俺が一歩前に出る。

 「まず、お前が俺の相手をしてくれるのか?」

 男が小馬鹿にしたように言う。
 男は身長190cmはあるだろう。腕も胴も俺より遥かに太い。

 「威勢だけはいいが、負けた時のことも考えておいた方がいいぞ」

 「なにをっ!」

 小柄な格下の相手から馬鹿にされたと思ったのだろう。男はまっ赤な顔で、突進してきた。まさに、こちらの思うつぼである。
 奴が思いきり振りかぶった拳が、俺の頭部を襲う。

 ガキッ

 ボキっ

 「ぐあっ」

 あー、そうなるよね。岩を殴ったようなものだもの。拳の骨を折った竜人の男が、腕を抱えて転げまわっている。
 残った二人が、同じように掛かってきて、同じように転がった。
 最初の男がどうなったか、見てたはずなんだけどね。

 騒ぎを聞きつけたのだろう、何人かの竜人が近づいてくる。全員青い髪をしている。

 「こりゃ、何があったんだ?」

 落ちついた雰囲気の、やや背が低い一際がっちりした体格の男が、パニアと呼ばれた少女に話しかけた。少女は、何があったか説明している。

 「この三人を、この人族の少年が?」

 男は信じられないという顔をしたが、俺と目が合うと話しかけてきた。

 「人族の少年、君はどこから来たんだ?」

 「ある事情で転移したら、向こうにある台地の上に出た」

 「台地って、そこからここまでには森があっただろう」

 「ああ、あったな」

 「あれを抜けてきたのか?」

 「ああ、そうだが」

 「ありえない。『終(つい)の森』を人族の身で越えるとは」

 「その『終の森』というのは何だ」

 「……そんなことより、お前達の目的は何だ?」

 「さっき言ったように、俺達は予期せぬ転移に巻きこまれてこの世界に来ている。
 竜人の国があるなら、その都(みやこ)に行きたい」

 「度胸があるやつだ。そんなことをすればどうなるか分かってるのか?」

 「どうなる?」

 「竜闘(りゅうとう)で裁かれるぞ」

 「竜闘?」

 「お前のような者が現れた時に行う儀式だ。ドラゴニアを代表する戦士達と戦うことになる」

 「で、負けたらどうなる」

 「さっき言ってた『終の森』に放置される」

 「じゃ、俺には意味が無いな。勝ったらどうなる?」

 「竜人の世界で認められることになる。もし、勝てたらの話だがな」

 なるほど、ここでは強いことに価値があるみたいだな。分かりやすくていい。

 「すまんが、こいつらを運ぶのを手伝ってくれるか?」

 ああ、地面でジタバタしてる三人を忘れてた。
 潰れた拳に、治癒魔術を掛けてやる。落ちついた三人を、木材のような模様をつけたボードの上に乗せる。

 「こ、これは、何だ?」

 「俺の魔術だ。どこに運ぶ?」

 「すまない。着いてきてくれ。俺は、ルンド。君の名前は?」

 「シロー、こっちがポル」


 こうして、史郎達は、竜人の村に向かうことになった。
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