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第四章 聖樹世界エルファリア編
第42話 エルフ王族の秘密
しおりを挟むベッドに横たわるコリーダに馬乗りになったメイドが振りかざした短剣が、勢いよく振りおろされた。
グサッ
メイドが大きく目を開く。
それはそうだろう。今まで第二王女が寝ていた場所には誰もいなかった。ナイフはその根元までベッドに刺さっている。
「お前、ダークエルフだな」
俺は両手をパンと合わせた。メイドに掛かっていたモーフィリンの効果が切れる。そこには、黒褐色の肌を持つ、まぎれもないダークエルフがいた。
「ちっ!」
メイドは、吐きすてるように言うと、呪文を詠唱する。
それより早く、俺の点魔法が発動する。
彼女の体が一瞬で浮かびあがり、頭を天井に強くぶつけた。
「ぐっ」
床に倒れた彼女は、首を左右に振り、意識をはっきりさせようとする。
俺は後ろから彼女の首に腕を回し、意識を刈りとった。
ふう、やっと終わったか。
ドアを開け、大声で異常を知らせる。
すぐに女騎士が駆けつけた。
俺は彼女にメイドを任せると、モリーネに連絡する。パーティが終わったら、家族だけで点ちゃん1号まで来てもらうように頼む。
あ~あ、せっかく大侵攻をしのいだのに、今夜は休めそうにない。
史郎は、ブツブツ言いながら、城の廊下を歩きはじめるのだった。
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パーティが終わると、すでに深夜だった。
コケットに寝ている娘達を起こすわけにもいかないので、陛下達には別の場所に移動してもらうことにした。
誰にも聞かれる恐れが無い場所ということで、『西の島』ベースキャンプを選んだ。
陛下、王妃、五人の王女を点魔法で一人ずつ送る。一度に送ることもできるはずだが、危険は冒せないからね。
最後に俺自身が移動する。陛下と彼の家族は、まっ暗闇な場所に連れてこられたのでパニックを起こしかけていた。
魔術で小さな光を灯す。
それほど明るくないが、話をするだけなら十分だろう。
一応、壁の上部にもうけた小窓も開けておく。
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「シロー殿、ここは?」
「ここは、『西の島』を調査するときに作ったベースキャンプです。
ここなら、他人の目も耳もありませんよ」
俺は意味あり気に言った。
「どうやって、一瞬でそんなところへ?」
陛下の問いかけには答えずにおいた。
第二王女コリーダは、俺が彼女の部屋に踏みこんでから、ずっと点魔法で治療中だ。急きょ作ったコケットに、闇魔術で寝かせてある。
俺は、まず彼女を起こすことにした。
「ううう、こ、ここはどこ?」
俺が以前会った時より、彼女はさらに痩せていた。
王妃が優しく話しかける。
「コリーダ、お加減はどう?」
コリーダは、王妃を一瞬冷たい目で見た後、黙っている。
俺は話を進めるため、両手をパンと合わせた。
コリーダの肌が白色から褐色に変わったことが、暗がりの中でもハッキリ分かった。
「な、何ていうことを!」
王妃が俺をとがめるような目で見る。
「彼女は、あなたの実の娘さんですね」
俺の言葉に、王妃はぶるぶる震えると、がっくり膝をついた。
「嘘よ! 私がこの女の娘であるはずがない! 私には、本当の母親がいるもの!」
「陛下、王族に褐色の肌を持つ者が生まれたのを隠すために、第二王妃をめとりましたね?」
「ど、どうしてそれをシロー殿が……」
「最初は、コリーダ様の顔かたちが余りにモリーネに似ていたこと。
つまりは、王妃様、あなたに似ていた。しかし、確信を持ったのは、耳の形です」
「耳の……形?」
モリーネが、言葉を漏らす。
「この世界に来て初めのころ、俺にはエルフの人が、みんな同じに見えていました」
俺は、ことさらゆっくり話をする。
「顔の特徴が分かるようになると、あることに気づいたのです」
モリーネの方を向き、頷く。
「耳の形は個々でかなり違うというとこを」
俺は、そこで少し間を置いた。
「特に、耳の内側、その凹凸は、非常に特徴的なものでした。
多くのエルフと会ううちに、耳は母親の形を受けつぐことに気づいたのです」
俺は、コリーダの方を見た。
彼女は、首を左右に振り、プルプル震えていた。
俺は話題を変え、彼らに別の視点から見てもらうことにした。
「陛下、コリーダ様を殺そうとしたメイドは、彼女が生まれる前からお城にいませんでしたか?」
「ああ、その通りだよ」
「そして、コリーダ様が生まれてすぐに、第二王妃が現れた」
「ど、どうしてそこまで分かるのだ。
確かに、彼女はコリーダが生まれた直後、城の前に倒れておったのを、あのメイドが見つけてきたのだ……」
陛下の顔色が変わる。
「も、もしかして、そのこと自体が、奴らの計画だったのか!」
「そうです。褐色の肌を持つ王女が、実の父親である王を殺す。
エルフに恨みを持つダークエルフ達が、これほど望む結末は無いでしょう」
「そ、そんな……母は、エルフに殺された。 エルフに殺されたんだ!」
コリーダが、悲痛な叫びをあげる。
「あなたにそう思わせるのが、彼らの狙いだったのでしょう。
第二王妃は、その任務のために、命がけであなたをだましたのです」
「シロー殿、なぜメイドは、今になってこの子の命を狙ったのだ?」
「メイドは彼女を殺そうとする前に、コリーダ様に陛下を毒殺させようとしておりました」
「なにっ!」
「和睦が成った今、彼らの任務が取りけされるのは確実です。
だから、その前にケリをつけようとしたんです」
「ワシだけで無く、コリーダにも、毒が盛られていたのはなぜだ?」
そう、それで惑わされちゃったんだよね、こっちも。
「母親と同じように、誰かが彼女を狙っていると思わせるためでしょう」
その誰かが陛下、王妃と他の姉妹だとは言わずにおいた。
「なぜ! なぜなの! 私は一体何のために……ううう」
コリーダは、うめくように言葉を漏らす。
幼いポリーネがそんなコリーダに近づく。姉の頭を優しく撫でながら、こう言った。
「お姉ちゃん、早く元気になって」
それを聞いたコリーダは、泣き崩れてしまった。
シレーネ、モリーネ、マリーネ、ポリーネが彼女を撫でている。
王妃は、コリーダの足元にすがりつく。
「ああ! 私達が世間体のために、あなたを辛い目にあわせたのね」
そう言うと、彼女は、床に両手をついた。
「お前達のせいではない。ワシが、王としての立場を守ろうとしてやったことじゃ。
すべてワシの、ワシの責任……だ」
陛下も立ちつくしたまま、滂沱の涙を流している。
「でも、でも、私はお父様の命を狙ったのよ。もう、妹とも、姉とも呼んでもらう資格はないわ」
コリーダの発言を、俺の言葉が断ちきる。
「ふざけるなっ!!」
皆がギョッとして俺の方を見た。
「あんたは、母にも父にも姉妹にも、これほど愛されているじゃないか。
そういう愛をもらえずに生きている者は沢山いる。甘えるのも、いい加減にしろ!」
「この子を許してやって」
「シロー、姉さんをいじめないで」
「お姉ちゃんを許してあげて」
「シロー、嫌い! お姉ちゃーん」
四人が俺からコリーダを守ろうとする。
ひとまず、彼女達は、これで大丈夫だろう。後はコリーダ次第である。
陛下は、じっとこちらを見ていたが、やがて俺だけが聞こえる声でぼそりとささやいた。
「シロー殿、かたじけない」
もしかすると、陛下には見破られるかもしれないと思っていたけどね。
俺は、さっと後ろを向くと、二階に上がった。
家族の語らいが終わったら、『東の島』に送ってやろう。
『ご主人様ー、不器用ですね』
点ちゃん。まあ、器用じゃないのは間違いないね。
史郎は、長いこと思いださなかった自分の過去が頭をよぎるのだった。
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