172 / 607
第四章 聖樹世界エルファリア編
第37話 前夜祭
しおりを挟むエルフ国の建国祭二日前、つまり、ダークエルフが大攻勢を仕掛けてくる二日前、王城では、前夜祭が開かれていた。
大広間に、ほとんどの王族、貴族が集まっている。人数が多いから立食の形を取っていた。
うちの家族からは、俺だけが参加している。
エルフ王が姿を現すと、部屋は静かになった。
「皆のもの、今夜は前夜祭だが、その前に大事な知らせがある」
陛下は、部屋の中をゆっくり見まわした。
「二日後、建国祭の日に、ダークエルフ達の攻撃がある」
すでに静かだった部屋の雰囲気が凍りつく。
「ダ、ダークエルフの攻撃!?」
「陛下! どういうことでしょう?」
「奴らは、一体どこにいたんだ!?」
部屋が騒然となった。
「静かに!」
陛下の威厳のある声が響く。部屋には再び静けさが戻った。
「ワシは、ダークエルフの侵攻を退け、彼らと対等の同盟を結ぶつもりじゃ」
国王の衝撃の発言に、先ほど以上に場が荒れた。
「陛下! 一体なぜ!」
「気でも狂われたか!」
不敬罪に問われてもおかしくない言葉が飛びかう。それが貴族達の動揺を如実に表していた。
「すでにこの国は、ダークエルフの人々と無縁ではない」
陛下の声が続く。
「この場にも、肌の色が違う同胞がいるはずじゃ」
陛下が大侵攻の話をしてから、何人かの貴族が懐に手をやっている。
通信用魔道具を触っているのだ。まあ、点魔法で全て機能を止めてあるけどね。
陛下が両手をパンと打ちならすと、部屋の中に悲鳴が起きた。
俺が点魔法で、貴族達に掛かったモーフィリンの効果を解いたからだ。
「ダ、ダークエルフ!!」
エルフとして、長年つきあってきた貴族の肌が急に黒褐色に変わって慌てている者、ダークエルフに恐怖して腰を抜かす者、反応は様々である。
近くに立っていたエルフが、隠していた短剣を陛下の首に突きつける。
「皆のもの、動くな! 動くと陛下のお命はないぞ!」
「マーシャル卿、お主は肌の色も違わぬのに、なぜダークエルフにくみするのじゃ?」
陛下は、落ちついた口調で男に話しかけた。
「私の娘は褐色の肌を持って生まれた。それが、どれほどあの子を苦しめたか……
娘が自由に暮らせる国を作るためなら、毒でも喰らおう」
俺は、二人の方にゆっくり近づく。
「き、貴様! 陛下が死んでも構わぬのか!」
俺は、黙ってそのまま歩みよった。
マーシャル卿は、剣を陛下の首に突きたてることはせず、俺の方にそれを突きだしてきた。
剣は俺のシャツを貫いただけに終わった。
ガキッ
「ぐうっ」
マーシャル卿の痛めた手から短剣が床に落ちる。騎士達が、彼を取りおさえた。
「シロー殿、言われた通りしたが、どうじゃ?」
「ありがとうございます。ダークエルフに通じた者が、だいたい分かりました」
俺は、通信機を隠していたエルフ達を点魔法で吊りあげ、部屋の隅に集めた。
ほとんどが、褐色の肌をしているが、中にはマーシャル卿のように白い肌の者もいる。
俺は、彼らの所に行くと、痛烈な言葉を浴びせておいた。
「あなた達は、肌の色が違っても差別されずに生きていく社会を作りたかったのだろうが、愚かにも程がある。
陛下こそ、その立場をものともせず、そういう社会を作ろうとされているお方だからだ。
あなた達は、自分の希望を殺そうとしたんだ」
褐色の肌の貴族達が、がっくりと座りこむ。
俺が騎士に合図をすると、全員を引きたてて連れていった。
陛下のことだから、極刑にはすまい。むしろ、ダークエルフとの友好に利用するかもしれない。
まあ、全ては大侵攻を凌いでからの話だけどね。
史郎は、一仕事終わってほっとしていたが、二日後の事を考えると、くつろげる気がしないのだった。
---------------------------------------------------------------------
中庭の点ちゃん1号に戻った史郎は、前夜祭で起こったことを皆に説明していた。
「隠れダークエルフは、もういないってこと?」
コルナが訊いてくる。
「いや、何人かはいるだろうね。ただ、クーデターを起こす力はもう無いだろう」
「シロー、ダークエルフの陣容は、分かっているのですか?」
「ああ、ルル。もう、分かっているよ」
俺は、上空から撮った王城周辺の映像を壁に映した。
「まず、南から魔獣を先頭に、2万人のダークエルフの兵士が来る」
ポルが、ゴクリとつばを飲みこむ。
「東からは、100人のグリフォン・ライダーが空から攻めてくる。
俺は、地図上を指さす。
「最後に、大型の魔道兵器を持った200人の魔術師が南東から来る。
彼らの魔術が、ダークエルフ侵攻の要だ」
「どのような魔術ですかな?」
リーヴァスさんの質問に答えるために、ダークエルフの地下施設で録画した映像を壁に映した。
巨大な火の玉がぶつかり、山が半分姿を消す映像は、現実とは思えぬほどである。
「これは……」
さすがのリーヴァスさんも絶句している。気が弱いポルは、耳がぺたりと垂れている。
「この魔術は、俺が対処します。皆さんには、むしろ、暴走したエルフ兵への対処をお願いします」
「お兄ちゃん、魔獣と2万人の兵士、それからグリフォン隊は?」
「グリフォン隊は、ワイバーンに任せようと思う」
「でも、100匹ものグリフォンを5匹のワイバーンでどうにかできるものなの?」
「うん。 計画があるから大丈夫」
「魔獣と2万人の兵士は?」
「それは、敵の魔術を利用しようと思ってる」
「敵の魔術って?」
「さっき見せた、『メテオ』っていう魔術だよ」
「あ、あれを何とかしようっていうの?」
「ああ、そうだよ」
「はー、相変わらずお兄ちゃんのやることは、凄すぎてよく分かんないわね。
とにかく、敵の魔術、魔獣、2万人の兵士はお兄ちゃんが一人で相手するってことね」
「まあ、そうなるね」
ルルは、俺を見て微笑んでいる。ま、信じてくれている人が居るからやれるでしょ。
「問題は、ダークエルフを抑えこんだ後に、エルフたちの行動を制御できるかだね」
「エルフが、降参したダークエルフに襲いかかるってこと?」
ミミが心配そうな顔で尋ねる。
「ああ、そうだ。ダークエルフへの偏見があるからね。恐らくそうなると思うよ」
「厄介ね」
「ああ、ダークエルフ達より厄介かもしれない」
「我々の出番は、そこですな」
「ええ。リーヴァスさん、頼りにしています」
その後、史郎とルルは、ナルとメルと一緒に二日後の打ちあわせをした。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
称号は神を土下座させた男。
春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」
「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」
「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」
これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。
主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。
※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。
※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。
※無断転載は厳に禁じます
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる