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第四章 聖樹世界エルファリア編
第24話 幻の島
しおりを挟む史郎は、驚くべき予想と、それが恐らく事実であることを家族に伝えた。
リーヴァスさんが驚愕したほどだから、他の家族の驚きはさらに凄かった。
コルナなど、首を左右に振って、「信じられない」と繰りかえし言っていたほどである。
昨夜ばら撒いた点からは、次々と新しい情報が入ってくる。
点ちゃんノートがなかったら、頭がパンクするほどの情報量である。
相談の上、俺とリーヴァスさん、ルルが調査に出ることになった。
今回は、戦闘が予想されるので、このメンバーとなった。
雑用係として、チョイスも連れていく。
出発する前に、気がついたことをやっておく。
土魔術による井戸造りである。
フェアリス広場の片隅に土魔術で穴を掘っていく、固い岩盤の掘削には点魔法も使う。
すると、30分も掛からずに井戸が出来た。
構造をうろ覚えだったので、ポンプの作成には1時間ほどかかった。
レバーを下ろして水が出ると、子供達が歓声を上げて水浴びを始めた。
この集落の水は、ある種のツタの茎から得られるものと雨水だけだった。
そのため、水が非常に貴重なものだったそうだ。
水浴びするフェアリスの子供達を、長が涙を浮かべて眺めている。
他の大人達も、感無量の様子である。
俺は、それを見てから集落を後にした。
集落のシールドを抜け、点ちゃん1号までボードで上がる。
こうして、史郎、ルル、リーヴァス、チョイスの調査行が始まった。
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点ちゃん1号は、昨夜通った空路を再び南東に向かった。
ばらまいた点から入った情報を元に、停止する位置を決める。
外壁は透明にしてあるから、下方の海もよく見える。
「シロー、あれが本当に?」
ルルがこちらを見る。
俺は頷いて、点ちゃんに合図を出した。
点ちゃん、お願い。
『はいはーい』
まあ、歴史的瞬間って言っても、点ちゃんには、ただのお遊びだからね。
さっきまで海だったところが、一瞬にして広大な陸地に変わる。
大陸の北部は森林が広がり、町らしきものもあちらこちらに見える。
南部は白く雪に覆われている。
幻の『南の島』が姿を現した。
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点ちゃん1号は、大きな町の上空に浮かんでいた。
俺は、郊外のドーム型施設の真上に来るように、1号の位置を調整する。
チョイスには待機を指示し、俺、ルル、リーヴァスさんは三人用ボードで降下した。
ドームの屋根を点魔法で円形に消し、そこから中へ降りる。
俺達三人の姿は、敵から見えないようになっている。
フェアリスが使っていた魔術である。
解析した点ちゃんによると、闇魔術だそうだ。
ボードが、通路のようなところに着陸する。
俺を先頭にルル、リーヴァスさんの順で通路を進む。
前方から足音がする。
俺は、念話で二人に壁際でじっとするように指示する。
現れたのは、エルフの男性が二人だった。
しかし、肌の色が黒に近い褐色で髪もこげ茶色である。
恐らく、彼らがダークエルフだろう。
二人は、俺が見慣れた服を着ていた。
アルカデミアの秘密施設で研究者が着ていた服である。
「今までに見たことが無い数値なんだ」
「上に報告する必要があるか?」
「馬鹿。 きちんと調べてから報告しないと叱られるだけだぞ」
「それもそうだな」
二人は、こちらには気づくことなく通りすぎていった。
俺達は、また通路を進みはじめた。
『このドアだよ』
点ちゃんの合図で壁を見ると、金属製の頑丈そうなドアがあった。
丸ごと消すこともできるが、念のためロックを解除してドアを開ける。
中は広大な空間になっていた。
工場を思わせる空間の床には、おびただしい数のカプセルが置いてあった。
カプセルは金属製で中は見えない。
点ちゃん、なんとかなりそう?
『前に、モリーネさんに使った方法を試してみる』
そういえば、カプセルに入っていたモリーネを目覚めさせたのは点ちゃんだったね。
頼むよ、点ちゃん。
一番手前のカプセルに点がいくつか入っていく。
治癒魔術の光がカプセルから外に漏れだす。
『うまくいったよー』
じゃ、次はカプセルを開いてね。
『はーい』
カプセルの蓋がゆっくり持ちあがる。
白いもやの中に、ぼんやりした表情で上半身を起こしている女性がいる。
紛れもなく彼女は、フェアリスだった。
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史郎は、カプセルの中のフェアリスが話せるようになるまで少し待った。
その間に、点ちゃんは部屋に残る全てのカプセルを開放に掛かっていた。
無数のカプセルが治癒魔術の光で包まれる光景は、こんな時でなければ、幻想的で美しいものだったろう。
カプセルが次々に開きはじめた。
俺は、自分達を見えなくしていた魔術を解除した。
「大丈夫ですか?」
「なぜ人族が? ここは、どこ?」
考える力は失われていないようだ。
「あなた方は、ダークエルフにさらわれて、『南の島』に連れてこられています」
「え? 『南の島』って、伝説の?」
「実在しました。 どうぞカプセルから出てください」
俺は、彼女の手を取り、カプセルの外に出す。
筋力が弱っているのか、彼女は立っているのがやっとのようだ。
ルルとリーヴァスさんも、フェアリスの人々がカプセルから外に出るのに手を貸している。
『ご主人様ー。外の人が、気づいたみたいだよ』
点ちゃんが、そう報告したとたん、大音響で警報が鳴りだした。
点ちゃん、ドアが開かないようにロックしておいてね。
何か所かあるこの部屋の入り口が、大きな音を立て始めた。
外からドアを壊そうとしているらしい。
やっと全員がカプセルから解放される。
急いで3m四方くらいのボードを10枚ほど作り、フェアリス達がその上に乗るように指示した。
よろめきながら、なんとか全員がボードの上に乗る。
俺はボードに風防をかぶせると、すぐに上空へ誘導した。
すでに、屋根は大きめに切り取とってある。
ボードが次々と空に上がっていく。
透明化の魔術も付与しておいた。
俺、ルル、リーヴァスさんは、一つのハッチ型ドアの前で、それが開けられるのを待つ。
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ドアが大きな音を立てて、こちら側に倒れる。
武装したダークエルフが、なだれこんでくる。
俺は、前もって自分達に透明化の魔術を付与しておいた。
リーヴァスさんとルルが、一瞬で全員を無力化する。そして、手際よく全員を縛りあげた。
このやり方で、他に2つある入り口も制圧した。
武装したダークエルフが12人の他、研究者が4人いた。
ここでぐずぐずしていても、始まらない。
俺は、捕えた16人を一辺4mくらいの点魔法の箱に入れる。
もちろん、一人一人に点を着けておくのも忘れない。
自分達のためのボードも出して、三人で乗りこむ。
捕虜を入れた箱を引きつれて、一気に上昇する。
上空では、点ちゃん1号と、フェアリス達が入ったボードが待機している。
史郎、ルル、リーヴァスは、点ちゃん1号に乗りうつり、『西の島』へと向かった。
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捕虜はともかく、体力を失っているフェアリス達は、一刻も早く休ませなくてはならない。
俺は、点ちゃん1号と引きつれたボード、両方のスピードを上げ、1時間ほどで瓦礫の町に着いた。
ここには、土魔術で作ったベースキャンプがある。
着陸した俺は、捕虜を入れる牢を塀と家の間に3つ造り、2つに武装解除した警備兵、1つに研究者達を入れた。
一人一人点ちゃんで調べているから大丈夫だと思うが、万が一のための予防措置である。
彼らをフェアリスの集落に連れていくと、復讐目的で住民から危害を加えられる恐れがある上、何かの拍子に集落の位置が『南の島』に伝わるかもしれないからね。
フェアリスも、家とその周囲で休息してもらったが、何分人数が多い。
俺は仕方なく、あまり時間を置かずに集落に向かうことにした。
体調が特に優れないフェアリスは1号に乗せる。
他の人は、大型のボードを数個作り、それに乗ってもらった。
これなら、飛行中に調子が悪くなっても、お互いに助けあうこともできるはずである。
人数分の椅子と簡単な食事、水を載せたテーブルも備えつけておいた。
リーヴァスさんとチョイスをベースキャンプに残し、俺とルルは点ちゃん1号で集落へ向かう。
フェアリス達に発信機の類が付けられていないか、改めて点ちゃんに調べてもらった。
集落のすぐ近くの上空で点ちゃん1号を待機させ、ボードで木々が頭を並べる高度まで降りる。
そのまま広場の真上まで横移動する。
コルナに連絡してあるので、下では受けいれ態勢が出来ているはずである。
木を痛めないように、あらかじめ点魔法で円筒形の通路を確保してある。
俺は、フェアリスを乗せた大型ボードを一つ、広場のまん中に下ろしていった。
着地したのを確認すると、ボードを消す。
集落のフェアリスが大勢で出てきて、歓声を上げながら、よろめく仲間を介抱している。
俺はコルナと連絡を取りながら、降下地点が空くごとにボードを下ろしていく。
全部のボードを下ろすのに、1時間近く掛かった。
最後に、俺とルルが乗ったボードが下に降りる。
集落の人々から拍手と歓声が上がる。
長が、まっ赤な顔をして駆けよってくる。
「シロー殿! 何とお礼を言っていいか……」
彼は、そこで絶句してしまった。
「あの中には、ワシの孫娘もおりましたのじゃ」
やっと、そう言うと顔を両手で押さえてうずくまってしまった。
あー、こりゃ、困ったな。
ルルが長の肩を抱いて、彼の家まで連れていく。
ナルとメルがその後を追いかけていった。
娘達は、マンマが大好きだからね。
コルナが、手を上げて近寄ってくる。
俺達は、ハイタッチを交わした。
「また、やったわね!」
その言い方だと、なんか悪いことしたみたいじゃない?
「ああ、まだ何も解決してないけどね」
「あれ見てごらん」
コルナが、涙を流して再会を喜ぶ人々を指さす。
「まだやることがあるのは分かるけど、今だけは喜んでいいんじゃない?」
ま、そうかもね。
「ここからは、君の力が必要だからね。 頼りにしてるよ」
「もう、お兄ちゃんたら……」
コルナが抱きついてくる。まあ、コルナが言う通り、今だけは喜んでおこうか。
史郎は、歓喜に満ちた広場を眺めて、そう思うのだった。
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