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第四章 聖樹世界エルファリア編
第11話 四人の王女
しおりを挟む史郎は、城内を散策したり、王城自慢の庭を見せてもらったりしながら過ごしていた。
ナルとルルは、エルファリア製の木で作ったおもちゃで遊ぶのに夢中である。
コルナは、子供達に付きあったり、モリーネとお茶したり、楽しそうである。
ルルとリーヴァスさんは、エルフ製の将棋のようなものに、はまっている。
俺も参戦したが、あまりに二人が強いので、すぐに脱落した。
豊かなお茶文化があるエルファリアであるから、俺はそちらに走ることにした。
王様が何か食べたり飲んだりするのは、一日の決まった時間に行うようにしてもらっている。
その時間帯、俺は寝室にこもって遠隔で食事や薬のチェックをしている。
距離に関係がない点魔法だからこそできる芸当なんだけどね。
点ちゃんは、毎日活躍する機会が多いから機嫌がいい。
毒が盛られなくなって一週間、俺はミーネ王妃に、あるお願いをすることにした。
それは、モリーネを含め、五人の王女と一度に会わせて欲しいというものである。
最初、お后様は良い顔をしなかったが、俺が重ねて頼むと、仕方ないという風に、許可を出した。
ただし、病床の第二王女とは、一人だけ別に会うこととなった。
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会見当日、俺は家族と共に、王城の庭にいた。
広大な庭の片隅に石造りのあずま屋があり、その屋根の下で王女達と会うことになっていた。
あずま屋の周りには、何人かの騎士が待機している。
突然、背後の植え込みが、ガサガサ音を立てたかと思うと、白い塊が飛びだした。
リーヴァスさんにぶつかっていく。
「リーちゃん!」
フリル付きの白いドレスを着たエルフの少女がリーヴァスさんに抱きついている。
「マリーネ様。 大きくなられた」
リーヴァスさんが、少女の頭を撫でている。
彼の左右にいたナルとメルは、驚いた顔でマリーネ姫を見あげている。
「マリーネ、お行儀が悪いですよ」
落ちついた声が聞こえてくると、三人の王女が姿を現した。
最も背が高い王女はきらきら輝くエメラルド色のドレスを着ている。
彼女の美貌がそのドレスの美しさでさらに引き立っていた。
お后、つまりはモリーネに、とてもよく似ている。
「リーヴァス殿以外は、初めてお目にかかります。 シレーネです」
先ほど少女をとがめたのは、彼女だったらしい。
「同じく、初めまして。 マリーネです」
先ほどリーヴァスに飛びついた少女が、白いドレスを軽く持ちあげて挨拶する。
こうして見ると、まるで別人のようである。
シレーネの後ろに隠れるようにしているのは、第五王女だろう。
「ポリーネ、挨拶なさい」
シレーネに言われて、渋々と言った風に姿を現す。
薄桃色のドレスを着た大人しそうな少女である。
ナル、メルより、少しだけ年長に見える。
「初めまして」
それだけ言うと、またさっと、シレーネの後ろに隠れてしまった。
「もう、ポリーネは」
モリーネは、眉をひそめたが、そのままコルナの手を取って植えこみに消えた。
ナルとメルも、年が近いポリーネの手を引いて、木立に入っていく。
シレーネの案内で、俺とルル、リーヴァスさんは、あずま屋に上がった。
あずま屋には、壁沿いに円形にベンチがしつらえてあり、中央にはテーブルもある。
本当は、四人と一度に話したかったのだが、こうなれば仕方がない。
史郎は、目の前の二人の王女、シレーネとマリーネとの会話に集中することにした。
-------------------------------------------------------------------
「まず、モリーネを助けてくれたことに対してお礼を言わせてほしいの」
シレーネが俺の目をまっ直ぐに見る。
「妹を助けてくれて、本当にありがとう」
彼女は、少し頭を下げる。
「お気にせず。 成りゆきでそうなっただけですから。それより、陛下のことについて、お后様からお話は?」
「ええ、聞きました。 妹に続き、父まで助けてくださり、本当にありがとう」
今度は、リーヴァスさんにもたれ掛かっていたマリーネも居ずまいを正して、頭を下げた。
「たまたま毒に気がついただけです。それより、お后様から毒の話を聞いたのは、いつのことでしょう」
シレーネは、少し頭をかしげてから答えた。
「ポリーネの治療があった日だから……10日前になるわ」
10日前というと、毒の件が明らかになった翌日である。
「他に、このことを知っている人はいますか?」
「家族と、ほんの一握りの側近だけだと思うわ。 公になっているなら、今頃お城は大騒ぎよ」
それもそうだ。
「その側近の名前を、うかがってもよろしいか?」
「ええ、いいですよ。 シローは、犯人を捕まえたいの?」
俺は、慎重に言葉を選んだ。
「俺は、この国の人間ではありませんから、誰かを裁こうなどとは考えていませんよ。
しかし、モリーネさんの関係者が命を狙われて、黙っているわけにもいきません。
犯人を見つけたら、後はお国に任せるつもりです」
「ふーん、そうなのね」
彼女は、しばらく何か考えているようだった。
「妹達を狙う一連の事件が起きて、一番疑われているのは私なの」
シレーネは、溜めていたものを吐きだすように言葉にした。
「このマリーネが乗った馬車が崖から落ちた時も、私のアリバイが無い時間だった。
ポリーネの時もそう。 皆、はっきりとは言わないけれど、私を疑っているの」
「私は違うわ! お姉様が、そんなことをするはずないもの!」
マリーネが興奮して、おもわず家族内での口調になっている。
「ありがとう。 マリーネ。 でも、多くの人が私を疑っているのは間違いないわ」
「シレーネさんだけ、何も起きていないんですか?」
「ええ、私は一度も襲われたことも、狙撃されたことも無いの」
シレーネは、暗い顔で俯いている。
「念のため確認しておきますが、王位継承権は、どのようになっていますか」
「第一位は母、次が私、次が二女のコリーダ、次はモリーネね」
「なるほど」
俺は次にしたい質問を口に出そうとしたが、それを騎士の警告がさえぎった。
「姫様! お気を付けください!」
俺が、あずま屋の外に走りでると、地面を大きな影が横ぎった。
空か!
見あげると、巨大なはねを持つ、とかげのようなものが数匹、空を舞っている。
騎士が叫ぶ。
「ワイバーンです! そこから出ないでください!」
俺は、一旦、あずま屋の中に戻った。
しかし、それは襲撃者の思うつぼだったようだ。
ワイバーンが、足に掴んだ何かを落とす。
それが、あずま屋の屋根にぶつかったとたん、閃光を上げ爆発した。
あずま屋がぺしゃんこにつぶれる。
つぶれたあずま屋の上に落ちてきたものが、次々と爆発した。
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