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第四章 聖樹世界エルファリア編

第5話 エルフ国へ向けて - 点ちゃん3号登場 -

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神聖神樹と会話した次の日、史郎達は、エレノアから、「聖樹の島」をはじめ、この世界のあらましについてレクチャーを受けていた。


まずエルファリアは、三つの大陸と神聖神樹があるこの島からなる。

この島、「聖樹の島」を中心に、東に「東の島」、北に「北の島」、西に「西の島」がある。

「島」という名前がついてはいるが、「聖樹の島」以外はそれぞれが大陸で、広さが北米大陸くらいある。

地図上で言うと、中心に「聖樹の島」、上に「北の島」、右に「東の島」、左に「西の島」という配置である。

「聖樹の島」、「東の島」、「西の島」は、緯度が大体同じで、地球で言うと温帯の気候になっている。

「北の島」は、緯度が高く気温が低い。 地球なら寒帯ということになる。

地軸の傾きが殆ど無いのか、四季の違いがはっきりしない。

これからモリーネを連れて行くのは、「東の島」である。
エルファリアで最も人口が多い大陸で、エルフ王城もここにある。

「北の島」は、もともと住んでいた先住民が住む町と、犯罪を犯したエルフが送られる監獄がある。

「西の島」は、かつて多くの先住民が住んでいたといわれるが、彼らはある時期を境に急に姿を消した。
今では大型の魔獣が多数生息する、危険な場所となっている。

伝説では「南の島」というのがあったそうだが、大規模魔術の失敗で大陸ごと姿を消したらしい。

エルフは、礼節を非常に重んじる種族で、一度礼を失しただけで生涯の汚点とみなされる。
また、彼らは戦闘力も高く、特に弓と魔術に適性が高い。
魔術については風魔術が一般的で、他の魔術を使う者はほとんどいない。

弓と風魔術を組み合わせて使う「風弓」は特に強力で、達人になると遠方から大きな魔獣を一撃で仕留めることも可能である。


レクチャーの内容は、このようなものだった。 俺は、全てを点ちゃんノートに記録しておいた。
まあ、録画してもいいのだが、そんなことをすれば、話に集中できないし、話し手に失礼だからね。


史郎達は荷物の最終チェックをすると、「東の島」に向けて出発することにした。

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「聖樹の島」から「東の島」までは、船旅となる。 


大陸間の移動は、帆船を使って行われる。
エルフは風魔術が得意なので、風を操るのはお手のものである。
無風状態でも高速で進むから、帆船が発達したのも頷ける。
スピードが出るなら、エネルギー効率は地球の船より遥かに高いはずである。
自然を汚すことを禁忌と考えている彼らとしては、当然の選択だろう。


ポータルがある神樹から島の南東へ向かうと、高い塀に囲まれた港町がある。
人口が二千人程のこの町は、セント・ムンデと呼ばれている。
普通は、「東の島」と「北の島」、非常に稀ではあるが、「東の島」と「西の島」を結ぶ中継地点の働きをしている。
物資の補給などは行えるが、一定期間以上の滞在は許されていない。
これは、神聖神樹を守るためだろう。

俺、ルル、ナル、メル、リーヴァスさん、コルナ、そして、モリーネの七人は、見送りに来た、エレノア、レガルスの二人と町の門のところで別れた。


レガルスさんがルルとの別れに納得できず、駄々をこねて、またスパーンとされたのは言うまでもない。

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門番にギルドの許可証を見せ、町に入る。


町は石造りで、そのほとんどが平屋である。
時折、嵐が襲って来るそうで、それを切り抜けるための工夫らしい。

獣人が珍しいのか、みんながコルナに注目している。
いつもは堂々としているコルナが、俺の後ろに隠れる。
転がったボールを拾いに道に出てきたエルフの子供が、コルナにボールを渡してもらうとき、目を丸くしていたのが印象的だった。

俺達は、言われた通り、町の行政機関に行った。
行政機関と言っても、小さな二階建ての家である。

エルフの老人が出てきて対応してくれる。
なんと、彼がこの町の長であった。
フーガという名のこの老人は、この島で生まれ、ずっとここで暮らしているそうだ。

「では、許可証は全て拝見しました。 よい風を」

風についてのセリフは、この世界で旅の幸いを祈る言葉だそうだ。

「あなたにも、よい風が吹きますように」

俺は、点ちゃんノートから、定型の返事を選んで返した。
フーガは、ちょっと驚いた顔をしたが、それから俺たちを見る目が変わった。

「食べ物、水は十分お持ちですかな?」

「ええ、ありがとうございます」

「通常で、10日から15日くらいの船旅となります。 水は、特に十分お持ちください」

「お心遣い、ありがとうございます。 ところで、船は自前の物を使ってもよろしいか」

「自前ですか?」

フーガ老人は、一瞬いぶかしげな顔になったが、何かに気付いたようだ。

「ああ、この町で船をお雇いになるということですかな?」

「いいえ、違います」

「まさか、船をお造りになるとは言いませぬな?」

「いや、それが、船を造るつもりです」

「しかし、この島は木の伐採が一切禁じられておりますから、材料がございませんよ」

「そうですね。 見てもらった方がいいでしょう。 港まで案内してもらえますか?」

彼が部屋の奥に声を掛けると、精悍なエルフの男性が姿を現した。
人族の見かけだと30歳くらいだろう。

「ネモよ。 ワシを港まで連れていってくれ」

「はい、すぐに」

男は一度部屋の奥に入ったが、すぐに座布団のようなものに大きな羽が付いた道具を担いで出てきた。
ネモが呪文を唱えると、座布団がすこし床から浮きあがる。
羽の様子をみると、下から風が吹きあがる仕組みになっているらしい。

「どうぞ」

彼が言うと、フーガ老は、座布団の上に座った。
座布団は少し沈み込んだが、また元の位置まで浮かび上がった。
ネモが、座布団に結んである紐を肩に担ぐ。

「では、向かいましょう」

俺達は、宙に浮いたフーガを引きつれて港に向かった。
15分ほど歩くと、港に着いた。

港には、いろんな形をした帆船が並んでいた。
胴体は、木ではない素材で作られている。
恐らく、土魔術の作品だろう。

潮風が肌に心地よい。 
潮の香りは地球と変わりがない。
天日干しにした魚からの匂いも、少し混ざっているようだ。

海の色は、地球に比べ、やや青みが強い。
晴れているので、遥か水平線まで見わたせる。
優美な形の帆船が数隻、遠くに見える。

桟橋に降りると、適当な海面を探す。

「ここに船を出してもいいですか?」

俺が尋ねると、フーガは首をかしげていた。

「それはよいが。 『船を出す』とはどういう意味じゃ?」

それを許可と見なした俺は、一つの点を開放した。
いきなり、目の前に大型の船が浮かんだ。
形は、地球のクルーザーを参考にしている。
全長30メートルくらいの白銀の船体である。

驚きの余り、フーガとネモが口をポカーンと開けている。

「シロー、これは?」

ルルが訊いてくる。 まあ、これは初公開だからね。

「これは、点ちゃん3号だよ。 点ちゃんボードのアイデアを元に作ってみたんだ」

俺達は、驚きの姿勢で固まっているエルフ二人を放っておき、クルーザーに乗りこんだ。

甲板から二人に手を振る。
やっと、驚きから覚めた二人が手を振ってくる。
俺たちも手を振りかえしてから船の中に入った。

この舟は、下層、中層、甲板と、三層構造になっている。

甲板部分には、運転席のような風防付き座席がある。
中層は海の上に出ている部分で、壁を透明にすれば周囲の海上が見渡せるようになっている。
下層は海の中に入っている部分で、平底になっている。
点魔法で物を作る利点は、バランスを考える必要がないことだ。

底を透明にすれば、居ながらにして海中散歩が楽しめる。

お風呂は、下層と中層、両方に設置してある。

船は湾内を出るまで大人しく動いていたが、周囲に他の船がいなくなると、すごい勢いで進みだした。
今は急ぐので、点ちゃんボードの要領で、船自体を海面から少し浮かせてある。
時速500km程度で海上を進んでいく。

点ちゃん、どうだい?

『珍しく、ご主人様が約束を守ってくれましたね。 楽しー!』

まあね。 船がひっくりかえらない程度にお願いしますよ。

『はいはーい』



史郎達を乗せた点ちゃん3号は、東の島目指して海洋上を疾走するのだった。
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