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第三章 学園都市世界アルカデミア編
第30話 帰郷 - 点ちゃん2号登場 -
しおりを挟む史郎と加藤は、学園都市世界を立ち去る準備を始めていた。
俺と加藤が学園を去ることを告げると、学長のターランはショックで倒れかけた。
すぐに、スーシェ先生に支えられていたが、涙を流して残念がっていた。
スーシェ先生と話して分かったことは、成績優秀者、それも超が付くほど優秀な者は、賢人となる可能性がある。
この世界で、賢人の力は絶対である。 いや、絶対だった。
だから、そういう生徒は、どこまでも優遇されていたそうだ。
俺は、タイタニックの謎が解け、ちょっと納得した。
加藤退学の知らせには、多くの女子生徒が涙を流した。
まあ、どこにいてもモテる奴だよ、お前は。
史郎は、学園を立ち去る前に、仲間へのお土産に、大量のタイタニック料理を確保した。
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その後、史郎と加藤は「共生会」に立ち寄った。
「共生会」は、政府の肝入りで作られた、人族と獣人の橋渡しをする組織である。
トップと副会長には、それぞれ、ダンとドーラが就任している。
「おい。 もう帰るのかよ」
ダンは、俺を肩を掴んで、ちょっと寂しそうに言った、
「忙しいときに、悪いな。 こちらにも、いろいろ事情があってな」
「まあ、お前さん達がいなけりゃ、この世界は、地獄のような場所のままだったわけだからなあ。
無理は言えんよな」
「本当に、お世話になったわ。 獣人を代表して、お礼を言わせて欲しいの」
ドーラはそう言うと、俺と加藤に向かって深々と頭を下げた。
「ドーラさん、やめてください。 俺達は、自分がやりたいことをしただけですよ」
「なるほどねぇ。 コルナが、言ってたことも頷けるな」
ダンがあごを撫でながら、感心したように言う。
「コルナが、何って?」
何のことか分からない俺は、聞き返した。
「ま、それは、いいだろう。 それよりな、俺たちに、あの、その……」
「フフフ、頼りないパパね」
「えっ!? パパっていうと……もしかして?」
「そう。 私たちの子供ができたの」
「おお! そりゃ、めでたいな!」
加藤が、ダンの背中をバンバン叩いている。お前、誰かに似てるぞ。
「それでね、シロー。 あなたの名前をもらいたいのよ」
「え? 俺の名前って?」
「ホープ=シロー=サイトウ。 いいかしら?」
「それは構いませんが、俺の名前なんかでいいんですか?」
「あなたの名前だから、いいんじゃない。絶望的な状況をくつがえし、獣人を救った英雄の名前だもの」
「え、英雄……それは、ちょっと……」
「ははは。 ボー、観念しろ。 それだけの働きはしてるぞ」
「加藤。 お前までそんなことを言うなんて」
「シロー、なに情けない顔してんだ。 獣人の移送を手伝ってくれるんだろう?」
その話は、俺達が帰ると決めてすぐ、ダンと打ちあわせてあった。
「ああ。 人数は、それほど連れてかれないけどな」
「それでも、助かるぜ。 今、うちは、とにかく人手不足だからな」
ダンが持っているシートが、音を立てる。
彼は、送られて来たデータを読むと、そのままシートを俺に渡してきた。
そこには、学園都市が新しく掲げる憲章が、書いてあった。
送り主は、メラディス首席である。
『獣人憲章』
・全ての獣人を、元の故郷へ帰す。
・武器および魔道武器の、他世界への輸出を禁ずる。
・獣人世界には、関税無く生活魔道具を販売する。
・「時の島」中央の森を再生する。
最後の項目は、その後の調査で、獣人世界の森が、学園都市による木の伐採で消失したと判明したことで、付け加えられた。
何年後か、何十年後かには、その森でウサ子達の姿が見られるかもしれない。
俺は、その光景を思い描くと嬉しくなった。
憲章には書かれていないが、捕えられていた獣人の生活は、学園都市が援助する。
また、獣人捕獲に関わった者たちは、首輪を着けられ、獣人世界で村の復興や森の再生に協力させられることが決まった。
この首輪は、記憶を失わせる機能はないが、敵意や差別意識を持つたびに、弱い電流が流れるようになっている。
骨の髄まで差別意識で染まった連中だから、初めの内は、さぞや苦労するに違いない。
とにかく、一応の区切りはついたな。
それにしても、執政部は思い切った決断をしたものである。
魔道具の輸出に頼っているこの世界が、それを制限すると、生活水準がかなり下がることが予想される。
それでも、この憲章を作らねばならなかったところに、学園都市の苦悩が見えた。
「シロー。 いつでも戻って来な。 歓迎するぜ」
「ああ、こちらも世話になったな。 残った獣人達のこと、頼むぞ」
ダンと俺は、挨拶を交わすと固く握手した。
「じゃ、またな。 次は、三人に会いに来るよ」
俺がそう言うと、ダンは赤くなり、黙ってしまった。
「ええ、この子と一緒に歓迎するわ」
ドーラがお腹に手を当てて、そう言った。
俺と加藤は、共生会を後にした。
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ポータルを渡る前夜、史郎達は、貸し出されている住居で小さな打ち上げパーティをした。
食事は、勿論、タイタニック料理である。
食事の前、俺は、みんなの顔を見渡した。
加藤、コルナ、ミミ、ポル。 一人も欠けずに、目標を達成できた。
俺は、運命の神に感謝した。
「かんぱーい!」
ミミの合図で始まったパーティは、和(なご)やかな楽しいものだった。
途中で、モリーネとコルナが、部屋の隅でコソコソ何か話し合っていたが、まあ、ガールズトークということで、放っておいた。
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出発の日、朝早くから荷物を積み込み準備をする。
何に積み込むかって?
新しく完成した、点ちゃん2号だよ。
これは、大型バスを想像してくれると分かりやすい。
ただ、タイヤが着いていない。
『付与 重力』を使い、少し宙に浮いている。
これを点で牽引するわけだが、実験段階では、スピードが出過ぎて困った。
その辺をなんとか調整して、低速で走行できるようにした。
低速って言っても、すぐに時速300kmくらいになるから、注意が必要である。
全員が乗り込んだのを確認した俺は、家の中に戻る。
居心地が、いい家だった。
史郎は、家に感謝の気持ちを伝え、カギを閉めた。
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途中、獣人を保護している政府の施設に立ち寄る。
20人の獣人を、移送することになっている。
これは、政府からパーティ・ポンポコリンへの指名依頼として受けた。
施設の前では、荷物を持った獣人たちが既に待っていた。
俺は、シートで全員の名前をチェックすると、点ちゃん2号に乗ってもらった。
肩を叩かれて振りかえると、驚いたことに、メラディス首席だった。
「首席、おはようございます。 今日は、どうしてこちらに?」
「英雄のお帰りと聞き、改めて、お礼に参りました」
あなたまで、そうきますか。
「首席、『英雄』は、やめていただきたい」
「まあ、呼び方はいいのですが、今回の事では、この世界を救っていただき、本当にありがとうございました」
「ははは。 適当にやりたいことをやってただけなんで、気にしないで下さい」
「勇者様も、ありがとうございました。 どうか、お元気で」
「あー、また、泳ぎに来ますよ」
「泳ぎに?」
「加藤、もう時間が無いから。 それでは、メラディス首席もお元気で」
どこで泳いだか聞かれたら、点ちゃん1号の話をするはめになるからね。ここは、スルーしておこう。
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ギルドまでの道では、点ちゃん2号に驚いた通行中のカプセルが急停止したりして、かなり町に迷惑を掛けた。
ポルは、今回輸送される20名に入っているお母さんと並んで座り、談笑している。
お母さんの反対側には、ミミが座っており、なにかとお母さんの世話を焼いている。
モリーネは、コルナと打ち解けたようで、話に花を咲かせている。
隣の加藤は、いびきをかいて寝ていた。
まあ、昨夜は、打ち上げパーティで遅くまで起きていたからね。
点ちゃん2号は、程なくギルドに到着した。
荷物を下ろし終えたとたん姿を消した乗り物に、獣人達は驚いていた。
ポータルがある部屋は、俺達と二十人の獣人で、すし詰め状態だった。
人をかき分けて、ギルドマスターのマウシーがやって来た。
「では、シロー様。 お気をつけて」
「世話になったね。 元気でね」
そのとき、空中から「ぺっ」と何かが飛び出して、マウシーの額にくっついた。例の口髭である。
あれ、点ちゃん。 もう、お髭(ひげ)はいいの?
『うん。 もう、飽きちゃったー』
ああ、そうなの。
『(・ル・)』
おっ! 確かに。 お髭を極めてるね。
『(^ル^)ゞ へへへ』
マウシーは、なぜか、おでこの口ひげに気付いていないようだ。
周囲の獣人が、彼を見てクスクス笑っている。
まあ、緊張しているよりはいいよね。
最初に、加藤がポータルをくぐる。
次に、コルナとモリーネが、踏み込む。
ミミとポルは、お母さんと手を繋いで入って行く。
獣人が全員渡ったのを見届けて、史郎はポータルを踏んだ。
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