上 下
128 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第30話 帰郷 - 点ちゃん2号登場 -

しおりを挟む


史郎と加藤は、学園都市世界を立ち去る準備を始めていた。


俺と加藤が学園を去ることを告げると、学長のターランはショックで倒れかけた。
すぐに、スーシェ先生に支えられていたが、涙を流して残念がっていた。

スーシェ先生と話して分かったことは、成績優秀者、それも超が付くほど優秀な者は、賢人となる可能性がある。
この世界で、賢人の力は絶対である。 いや、絶対だった。

だから、そういう生徒は、どこまでも優遇されていたそうだ。

俺は、タイタニックの謎が解け、ちょっと納得した。       

加藤退学の知らせには、多くの女子生徒が涙を流した。
まあ、どこにいてもモテる奴だよ、お前は。


史郎は、学園を立ち去る前に、仲間へのお土産に、大量のタイタニック料理を確保した。

------------------------------------------------------------------

その後、史郎と加藤は「共生会」に立ち寄った。


「共生会」は、政府の肝入りで作られた、人族と獣人の橋渡しをする組織である。

トップと副会長には、それぞれ、ダンとドーラが就任している。

「おい。 もう帰るのかよ」

ダンは、俺を肩を掴んで、ちょっと寂しそうに言った、

「忙しいときに、悪いな。 こちらにも、いろいろ事情があってな」

「まあ、お前さん達がいなけりゃ、この世界は、地獄のような場所のままだったわけだからなあ。
無理は言えんよな」

「本当に、お世話になったわ。 獣人を代表して、お礼を言わせて欲しいの」

ドーラはそう言うと、俺と加藤に向かって深々と頭を下げた。

「ドーラさん、やめてください。 俺達は、自分がやりたいことをしただけですよ」

「なるほどねぇ。 コルナが、言ってたことも頷けるな」

ダンがあごを撫でながら、感心したように言う。

「コルナが、何って?」

何のことか分からない俺は、聞き返した。

「ま、それは、いいだろう。  それよりな、俺たちに、あの、その……」

「フフフ、頼りないパパね」

「えっ!?  パパっていうと……もしかして?」

「そう。 私たちの子供ができたの」

「おお! そりゃ、めでたいな!」

加藤が、ダンの背中をバンバン叩いている。お前、誰かに似てるぞ。

「それでね、シロー。 あなたの名前をもらいたいのよ」

「え?  俺の名前って?」

「ホープ=シロー=サイトウ。 いいかしら?」

「それは構いませんが、俺の名前なんかでいいんですか?」

「あなたの名前だから、いいんじゃない。絶望的な状況をくつがえし、獣人を救った英雄の名前だもの」

「え、英雄……それは、ちょっと……」

「ははは。  ボー、観念しろ。 それだけの働きはしてるぞ」

「加藤。 お前までそんなことを言うなんて」

「シロー、なに情けない顔してんだ。 獣人の移送を手伝ってくれるんだろう?」

その話は、俺達が帰ると決めてすぐ、ダンと打ちあわせてあった。

「ああ。 人数は、それほど連れてかれないけどな」

「それでも、助かるぜ。 今、うちは、とにかく人手不足だからな」

ダンが持っているシートが、音を立てる。
彼は、送られて来たデータを読むと、そのままシートを俺に渡してきた。

そこには、学園都市が新しく掲げる憲章が、書いてあった。
送り主は、メラディス首席である。


『獣人憲章』
・全ての獣人を、元の故郷へ帰す。

・武器および魔道武器の、他世界への輸出を禁ずる。

・獣人世界には、関税無く生活魔道具を販売する。

・「時の島」中央の森を再生する。


最後の項目は、その後の調査で、獣人世界の森が、学園都市による木の伐採で消失したと判明したことで、付け加えられた。
何年後か、何十年後かには、その森でウサ子達の姿が見られるかもしれない。
俺は、その光景を思い描くと嬉しくなった。

憲章には書かれていないが、捕えられていた獣人の生活は、学園都市が援助する。
また、獣人捕獲に関わった者たちは、首輪を着けられ、獣人世界で村の復興や森の再生に協力させられることが決まった。

この首輪は、記憶を失わせる機能はないが、敵意や差別意識を持つたびに、弱い電流が流れるようになっている。
骨の髄まで差別意識で染まった連中だから、初めの内は、さぞや苦労するに違いない。


とにかく、一応の区切りはついたな。

それにしても、執政部は思い切った決断をしたものである。
魔道具の輸出に頼っているこの世界が、それを制限すると、生活水準がかなり下がることが予想される。
それでも、この憲章を作らねばならなかったところに、学園都市の苦悩が見えた。

「シロー。 いつでも戻って来な。 歓迎するぜ」

「ああ、こちらも世話になったな。 残った獣人達のこと、頼むぞ」

ダンと俺は、挨拶を交わすと固く握手した。

「じゃ、またな。 次は、三人に会いに来るよ」

俺がそう言うと、ダンは赤くなり、黙ってしまった。

「ええ、この子と一緒に歓迎するわ」

ドーラがお腹に手を当てて、そう言った。


俺と加藤は、共生会を後にした。

------------------------------------------------------------

ポータルを渡る前夜、史郎達は、貸し出されている住居で小さな打ち上げパーティをした。


食事は、勿論、タイタニック料理である。

食事の前、俺は、みんなの顔を見渡した。
加藤、コルナ、ミミ、ポル。 一人も欠けずに、目標を達成できた。
俺は、運命の神に感謝した。

「かんぱーい!」

ミミの合図で始まったパーティは、和(なご)やかな楽しいものだった。


途中で、モリーネとコルナが、部屋の隅でコソコソ何か話し合っていたが、まあ、ガールズトークということで、放っておいた。

-----------------------------------------------------------------

出発の日、朝早くから荷物を積み込み準備をする。


何に積み込むかって?
新しく完成した、点ちゃん2号だよ。

これは、大型バスを想像してくれると分かりやすい。
ただ、タイヤが着いていない。
『付与 重力』を使い、少し宙に浮いている。

これを点で牽引するわけだが、実験段階では、スピードが出過ぎて困った。
その辺をなんとか調整して、低速で走行できるようにした。
低速って言っても、すぐに時速300kmくらいになるから、注意が必要である。

全員が乗り込んだのを確認した俺は、家の中に戻る。

居心地が、いい家だった。

 
史郎は、家に感謝の気持ちを伝え、カギを閉めた。

-------------------------------------------------------------

途中、獣人を保護している政府の施設に立ち寄る。


20人の獣人を、移送することになっている。
これは、政府からパーティ・ポンポコリンへの指名依頼として受けた。

施設の前では、荷物を持った獣人たちが既に待っていた。
俺は、シートで全員の名前をチェックすると、点ちゃん2号に乗ってもらった。

肩を叩かれて振りかえると、驚いたことに、メラディス首席だった。

「首席、おはようございます。 今日は、どうしてこちらに?」

「英雄のお帰りと聞き、改めて、お礼に参りました」

あなたまで、そうきますか。

「首席、『英雄』は、やめていただきたい」

「まあ、呼び方はいいのですが、今回の事では、この世界を救っていただき、本当にありがとうございました」

「ははは。 適当にやりたいことをやってただけなんで、気にしないで下さい」

「勇者様も、ありがとうございました。 どうか、お元気で」

「あー、また、泳ぎに来ますよ」

「泳ぎに?」

「加藤、もう時間が無いから。 それでは、メラディス首席もお元気で」


どこで泳いだか聞かれたら、点ちゃん1号の話をするはめになるからね。ここは、スルーしておこう。

-----------------------------------------------------------------

ギルドまでの道では、点ちゃん2号に驚いた通行中のカプセルが急停止したりして、かなり町に迷惑を掛けた。


ポルは、今回輸送される20名に入っているお母さんと並んで座り、談笑している。
お母さんの反対側には、ミミが座っており、なにかとお母さんの世話を焼いている。

モリーネは、コルナと打ち解けたようで、話に花を咲かせている。

隣の加藤は、いびきをかいて寝ていた。
まあ、昨夜は、打ち上げパーティで遅くまで起きていたからね。

点ちゃん2号は、程なくギルドに到着した。

荷物を下ろし終えたとたん姿を消した乗り物に、獣人達は驚いていた。

ポータルがある部屋は、俺達と二十人の獣人で、すし詰め状態だった。

人をかき分けて、ギルドマスターのマウシーがやって来た。

「では、シロー様。 お気をつけて」

「世話になったね。 元気でね」

そのとき、空中から「ぺっ」と何かが飛び出して、マウシーの額にくっついた。例の口髭である。

あれ、点ちゃん。 もう、お髭(ひげ)はいいの?

『うん。 もう、飽きちゃったー』

ああ、そうなの。

『(・ル・)』

おっ! 確かに。 お髭を極めてるね。

『(^ル^)ゞ へへへ』

マウシーは、なぜか、おでこの口ひげに気付いていないようだ。
周囲の獣人が、彼を見てクスクス笑っている。
まあ、緊張しているよりはいいよね。


最初に、加藤がポータルをくぐる。
次に、コルナとモリーネが、踏み込む。
ミミとポルは、お母さんと手を繋いで入って行く。



獣人が全員渡ったのを見届けて、史郎はポータルを踏んだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

処理中です...