上 下
124 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第26話 証拠

しおりを挟む


巨大な半球状の建造物は、円形の底面をゆっくり広場に接触させた。


膨大な質量が動いたはずなのに、地面がピクリとも揺れない。

ここにきて、法廷内の他の人々も、その建造物に気付き始めた。

「な、何だ、あれは!」

賢人たちは、それが何か知っているので、顔色(がんしょく)を失っている。

そ、そんな馬鹿な!  どうやって?

五賢人は、その知性が邪魔をして、余計にこの光景を信じることが出来なかった。

「あなたが、求めていた証拠です」

ポルナレフは、証拠を求めていた賢人の顔を、突き刺すように指を向けた。

その時、裁判長の後ろの壁に、突然、巨大なスクリーンが現れた。

「えー、テス、テス。 
あれ? これ、もう音が入ってるの?」

法廷内の緊迫した状況に似合わない、間が抜けた大きな声がした。
スクリーン上に映ったのは、猫人族の少女だった。

「えー、こちら、猫人のミミです。 獣人世界のギルドからの依頼で、この放送を行っています。 
え? そんなに大きな声でなくても大丈夫? 失礼しました。  では、音量は、このくらいで」

法廷内の人々は、あまりのことに、あっけにとられてポカーンとしている。

自分のことをミミと名乗った少女は、マイクを右手、何かの魔道具を左手に、後ろの壁の方を向いた。

映像が、広角に切り替わる。

少女は、半球状の建造物の前にいた。

「では、これから、この秘密施設の中に入って行きますね」

どうやったのか、半球状建造物の壁の一部が切り取られ、外に倒れた。

「さあ、お見逃しなく」

ミミは、どんどん建物の中心に向かって進んで行く。
5分ほどで通路が終わり、やはり半球状の空間に出た。
底面をぐるりと取り囲むように部屋の窓が見える。

「では、こちらの部屋から、見ていきましょう」

ミミは、左回りに施設を回るようだ。

「おお! これは、なんということでしょう。 沢山のカプセルが置かれています。」

最初の部屋には、ずらりとカプセルが並んでいた。

「では、部屋に入ってみましょう」

クリスタルガラスが、ドア型に綺麗にくり抜かれる。 ミミは、そこから中に入っていった。
カプセルを見下ろす映像が映し出される。
一部、透明なカプセルから見える顔は、さっき証言をした少年と同じ種族の様である。

「まあ! 何ということでしょう。 狸人がカプセルの中に捕らえられています。
このパイプは……なんと、狸人の血が流れているようです」

映像は、カプセルに横たわる狸人を、次々に映し出していく。

「さあ、次の部屋に行ってみましょう」

少女は、次々と部屋を回っていく。
そこに映される衝撃の映像は、人々を驚愕と恐怖に陥れた。
耐えきれず、大法廷の隅で吐いている者までいる始末である。
しかし、誰もそれをとがめる者はいない。

少女は、足早に実験室を回ったが、それでも一時間以上はかかった。
最後の部屋を出ると、画面に向かって挨拶をした。

「さあ、いかがでしたでしょうか。 提供は、獣人世界、ケーナイのギルド。協力は、獣人議会の皆様でした。
あ、忘れてた。 お伝えしたのは、ケーナイのギルド所属、ミミでした。
目下、売り出し中のパーティ「ポンポコリン」も、どうかよろしく。
では、またお会いしましょう。 さよなら。 さよなら。 さよなら」

ミミがこちらに手を振る画像を最後に、スクリーンが暗くなる。
凍り付いていた人々が、動き出した。
それは、賢人も同様だった。

「その施設と我々が関係あるという証拠はあるのか?」

「正式な手続きを踏まない証拠など、無効だ!」

被告人席から飛び出して、裁判長に食って掛かっている。
そのとき、また法廷内が静まり返った。



再び、スクリーンに映像が映し出された。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...