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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第23話 暴露

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スクリーンに映し出された老人は、ぼそぼそとしゃべり始めた。

「ワシは、犬人族じゃが、猿人族に捕らえられて、この世界に送られた。それが、30年前のことじゃ。
故郷についての記憶を失わせる首輪のせいで、この30年ずっと捕えられたことすら忘れておった。
ここは、どこじゃ。ワシを故郷へ、帰してくれ」


涙を流す老人の映像が終わり、猫人の小さな女の子が映った。

「ママ、パパ、どこ?  お家に帰りたいの」

少女は、しくしく泣き出した。 
その首には、首輪が付いている。


次は、犬人の女性だった。

「人族に首輪を付けられてから、故郷のことも子供たちのことも忘れてたの。
首輪が壊れなかったら、あのままだったはずよ。
私をここにつれて来た人族よ。 娘はどこ?  息子はどこ?
エイミー、テッド! ママは、ここよっ!」

悲痛な叫びが、人々の耳を打つ。


やっと我に返った、司会役の男が叫び出す。

「切れっ! 早く映像を切れ!」

大スクリーンには、獣人の姿が次々と映し出されていく。
会場からは、咳一つしない。
ただ一人叫んでいる男のことなど、気にも留めていない。

だいたい、この男は知らなかった。
今ここで流れている映像が、都市全域に映っていることを。

映像が会場で流れ始めると同時に、都市に林立する、全てのビルの壁面にもそれが映っていた。
屋外にいる人々は、白いビルに映される映像を目にした。
屋内にいる人々は、マジックミラーになっている壁に映される映像を見ていた。

それだけではない。
人通りが多い広場を選ぶようにして、首輪がない獣人たちが、自分たちの実情を訴えだした。

故郷に帰して。 
愛する人を、家族を返して。 
失われた時間を戻して。

もちろん、治安維持隊が駆け付け、彼らを排除しようとした。
しかし、獣人の周囲に張り巡らされた見えない壁に阻まれて、どうしても獣人に触れることができない。
壁ごと排除しようともしたが、見えない壁が少しでも動いた気配は無かった。

それもそのはずである。
彼らを守っている円筒形のフィールドは、地下500mにある硬い岩盤に固定されているのだから。

公園で訴えかける獣人の周りには、次第に多くの市民が集まりだした。

こうなると、治安維持隊は、悪者である。
市民から、白い眼と罵詈雑言を浴び、早々に退散した。

泣いているのは、獣人ばかりではなかった。
知らず知らずのうちに、獣人を使っていた人、つまり、学園都市に住むほとんどの人が、涙を流していた。

許されない罪を犯した者の涙を。


行政府の建物の前にある、広大な前庭が、どこからともなく集まって来た市民に埋め尽くされるまで、それほど時間はかからなかった。

俺と加藤は、流れ続ける獣人の映像を背に、会場を後にした。


史郎達を呼び留める声は、一つも無かった。

-----------------------------------------------------------------

都市の全域に、点を行き渡らせるのは容易ではない。


そこを史郎は、工夫で乗り切った。

式典開催の1週間前の夜中、彼は、点ちゃん1号で学園都市上空にいた。

あらかじめ点ちゃんを小さな円盤状に広げ、それに風魔術を付与した。

それを、2、4、8、16……という風に、コピーしていく。

十分な数になったところで、上空からばら撒いた。

小さな円盤は、それ自体意思があるもののように動き、都市中のビルの壁面にくっついていった。

透明な円盤は、くっつくと壁一面に広がるように設定してある。

こうして当日を迎えるわけだが、史郎がわざわざ会場に入ったのは、巨大スクリーンに細工するためである。

スクリーン表面に、点を透明に展開し、万一スクリーンが攻撃を受けた時に守るのと、パルチザンの通信を妨害されたとき、点魔法で映像を流し続けるという二段構えにしておいた。

だから、会場で叫んでいた男は、全く無駄なことをしていたわけである。

結局、最後までパルチザンの放映が妨害されることはなかった。



史郎は、ここからが本当の闘いだと、気持ちを引き締めるのだった。
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