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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第22話 カウントダウン

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加藤が、式典に招かれている日まで、史郎は点ちゃん1号で、原生林地下の秘密基地の調査を行った。


調べれば調べるほど、その研究内容の非人道性、残虐性が浮かび上がってくる。

それは、食べ盛りである、俺の食欲を失わせるほどであった。

ソネルを逃がした方法は、いまだにばれていないようだが、これだけ長期間調べても見つからないとなると、外に逃げたのではないかと疑う者が出始めていた。

もし、賢人会がそれを確信したら、秘密施設を抹消しにかかるだろう。


全てのタイマーが、カウントダウンを始めていた。

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複数あるパルチザンの施設には、非戦闘員の獣人が数名ずつ配置されていた。


決行当日、彼らが行う行動の予行演習が繰り返し行われていた。

ダンは、各施設を回り、そのチェックをするとともに、戦闘員が行う、その次の行動についても準備を始めていた。

パルチザンは、今回の行動に全ての資金、人員を投入している。

もし、失敗するようなことになれば、組織として継続することは難しいだろう。

まあ、成功しても、その存在意義は失われるのだから、この組織の寿命もあとわずかということになる。


ダンは、自分の居場所が失われる心細さを感じるのだった。

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決行前日、史郎は、加藤とコルナに最後の指示を出していた。


当日、俺は加藤と共に行動するが、コルナはパルチザンの本部に詰めることになっている。

これには、人質としての意味合いもある。

今回の計画で、恐らく最も危険な部分にコルナを配置したくはなかったが、コルナ自身がその役を買って出た。

彼女には、点ちゃんを複数付けてあるから、万が一もないだろうが、油断すると何があるか分からない。

マスケドニア国で起こった出来事で、俺は、そのことを嫌というほど思い知らされていた。

そのためにも、今回は、ありとあらゆる部分に点を付けてある。

頼りにしてるよ、点ちゃん。

『(・シ)ノ は~い』

ま、点ちゃんは、いつもの調子だよね。


史郎は、そのことに、なぜか安心を覚えるのだった。

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学園都市成立300年の祭典に先駆け、式典が開催される日が来た。


史郎は、頭に羽根付きの幅広帽子をかぶり、サングラスを付けている。

怪傑ゾ〇っぽいイメージにしてみた。

パルチザン本部に向け、出かけるところだったコルナには、口ひげまで付けるのは、やり過ぎだと叱られた。

『ご主人様とお揃い~♪』

点ちゃんが、喜んでくれてるんだから、いいんじゃない?


住居前に、金色の縁取りが付いた、大きなカプセルが着く。

加藤と俺は、首席秘書ロイの案内でカプセルに乗り込んだ。


カプセルは、振動もなく、すごい勢いで走行した。
どういう仕組みか知らないが、他のカプセルは、道の端に避けて止まっている。

まるで無人の野を行くように、カプセルは、一気に中央区までやって来た。

一時間も、掛かっていない。
ということは、時速200km以上、出ていたことになる。

この辺(あたり)は、さすが学園都市である。

カプセルは、馬鹿げた広さの前庭を持つ建物の前に止まった。

俺たちが降りると、ドレスを着た、エスコート役の女性が二人立っていた、

それぞれに腕をとられ、加藤、俺の順で、建物への階段を上がっていく。

通り道には、金色で縁取られた、黒いカーペットが敷かれていた。

黒のカーペットとか、地球の式典では絶対に無いな。

そんなことを考えているうちに、大きな白い扉の前に来た。

中で音楽が始まると、その扉が開き、俺たちが中に招き入れられる。

円形のホールには、正装した多くの人が座っていた。
きっと、この都市の支配層であろう。

ただ、賢人は一人もいないようだ。

彼らに付けた点には、タグがついている。
賢人であることが、その人物の頭上に表示されるから、俺にはすぐ分かるのだ。

胸に多くの飾りを付けた初老の男が、中央の演台に立っている。
その男がこう言うと、会場が一斉に拍手をした。

「黒髪の勇者様です。 どうか拍手でお迎えを」

拍手は、お義理のものではなく、熱狂的なものだった。
俺は、ポータルズ世界における、黒髪の勇者の人気を改めて思い知らされた。

加藤が、手を上げて拍手に応えると、人々の歓声が上がる。

「「「勇者! 勇者! 勇者!」」」

俺たちが演台の後ろの席に座り、初老の男が両手を上げると、群衆は静かになった。

「では、勇者様を迎えた今こそ、式典のカウントダウンに入りましょう」

会場の奥の壁面は、巨大スクリーンになっている。
この世界の文字で、数字の10が、大きく映し出されていた。

「では皆さん、ご一緒に」

司会役の男の合図で、唱和が始まる。

「「「10」」」

画面の文字が9になる。

「「「9」」」

数字がどんどん減っていき、とうとう1となった。

「「「1」」」

「「「ゼロ」」」

周囲の音楽隊が、一斉に音を奏で始める。

「三百年祭開始・・?」

司会の男が絶句する。

なぜなら、ここで上空から映すはずだった学園都市の映像の代わりに、巨大スクリーンに映し出されたのは、暗い部屋にいる一人の年老いた獣人の姿だったからだ。

会場は、一気に凍り付いた。



人というのが、驚くと本当に口をポカーンと開けるんだなあと、史郎は感心していた。
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