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第三章 学園都市世界アルカデミア編

第21話 中央政府

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学園都市世界では、各地区にかなりの自治権が与えらている。


それらの地区を、取りまとめているのが、中央政府である。
この機関は、学園都市中央に位置する行政区に置かれており、行政や金融をコントロールしている。
治安維持隊は、この行政区にある本部から、各地区へ派遣されている。

この日、中央政府の首席は、ある学園から思わぬ知らせを受けていた。
首席というのは、学園のシステムに因んだ名付け方である。

「黒髪の勇者だと!?」

初老の首席クエントは、報告に驚いていた。

「どのように見つかった?」

「身分を隠して、一生徒として行動していたそうです」

「見つかったのは、どの学園だ?」

「トリビーナです」

トリビーナか。  学長ターランの得意気な顔が、ありありと思い浮かんだ。

学園に独占などさせるものか。

「政府として、すぐに正式に招待してくれ」

「どういう名目にしましょう?」

ベテランの秘書だけあって、招待の目的など、形式的なものだと分かっている。

「そうだな……。 もうすぐ、都市成立300年祭ではなかったか?」

「はい。 半年後に予定しております」

「予定など、どうにでもなるだろう。それを名目にしろ」

「分かりました」

秘書が出て行くと、クエントは、これからのことに思いをはせていた。
賢人会が、出張ってくるまでに、勇者とのパイプをなるべく太くしておかなければ。

彼は日頃から、政府が賢人会から小間使いのような扱いを受けるのを、快く思っていなかった。
学識が何より重んじられる伝統があるにしても、賢人会はやり過ぎである。
いかに、奴らからの干渉を減らしていくか。
勇者の存在は、その第一歩になるかもしれない。


クエントは、この状況を、自分に与えられたチャンスだと考えていた。

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パルチザンの本部では、やっと装備類の点検を終え、一息ついたダンが食事をしていた。


彼の右腕ともいえるラジ、そして、愛しいドーラが同じテーブルに着いていた。

「ボス。 獣人の人数ですが、あと少し増やせませんかね」

ラジが言っているのは、今回の計画で働く、”非”戦闘系の獣人の事である。

「戦闘力がある獣人を、何人か入れたら、十分な数が確保できるでしょう」

ダンは、それを聞き、少し間をおいて発言した。

「いや。 やはり、女性、子供、老人に絞ろう」

「シローの言いなりになる必要はありませんぜ」

確かに彼が言うことも、もっともである。 パルチザンは、シローの部下ではないのだから。

「彼は、信頼できるわ」

こういう話題で、ドーラが割り込むのは珍しい。

「あねさん。 どうして、そう思われるので?」

ドーラは、微笑みながら答えた。

「私たち獣人はね。 人族から、劣ったものに考えられているの。
どんなに取り繕っても、その考えがどこかに出てしまうものなのよ」

彼女は、ラジの目を正面から見つめた。

「でもね。 彼には、それが全く無かったの」

犬人族は、人族が思いもしない感覚で他人を捉えている。
それでも、史郎の偏見は察知できなかった。

「生まれつき、そういう環境で育ったのか。 家族に獣人がいるのか。
それは、分からないけど。あれほど獣人に対する偏見がない人族は、見たことがないわ」

ドーラの手放しの称賛は、ダンの嫉妬心を掻き立てるほどだった。

「ここは、奴の言う通りやってみようぜ」

ダンがシローを信頼しているのは、彼の計画の完成度の高さを知ったからである。

「奴の計画だ。 小さなことにも、意味があるに違いねえ」

ラジは、あまり人を褒めない二人が、シローを高く評価するのが不思議だった。

そして、狐人の少女が言い残したというセリフを思い出していた。


英雄


まさか、彼が本当の英雄だとは思わないが、もしかすると、今回の計画はうまくいくかもしれない。


ラジは、そう思うと心が躍るのだった。

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史郎の住居にその男性が訪れたのは、これから暗くなろうかという時刻だった。 


ギルドの獣人世界調査に協力していることになっている手前、俺やコルナは部屋から出られない。
結局、加藤が対応することになった。

部屋の一角に置いてあるテーブルに、二人で着いた。

「夜分、恐れ入ります。 私、こういう者でして」

男がテーブルの上に、名刺大の小型シートを置く。
加藤が手に取ると、カードの上に目の前の男性の顔のミニチュアと、職業、名前が浮かび上がった。

「首席秘書のロイさんですか。 どういったご用件で?」

ロイは、咳払いすると居住まいを正した。

「首席から、勇者様を学園都市成立祭へご招待するよう、申し付かってきました」

「成立祭?」

「ええ。 今年は、この都市が出来て、ちょうど300年の節目に当たるのです。
そこで、それを祝う式典が一か月に渡り、催されます」

「なるほど。 で、具体的に、どうすればいいのかな?」

「一週間後に、成立祭を開始する式典が開かれます。それに、ご出席いただきたいのです」

「う~ん、そういう場は、どうもねえ。 苦手なんだよな」

「そうおっしゃらずに、どうかお願いします」

ロイは、机に付くほど頭を下げている。

「まあ、友達と一緒でいいなら、行こうかな」

加藤は、あらかじめ史郎と決めておいたセリフを言った。

「おお! 来て下さいますか」

「ああ。 中央区までは遠いみたいだから、そこは、よろしくお願いしますよ」

「はい。 当日は、乗り物をご用意させていただきます。 では、一週間後、昼前にお迎えに上がります」

「分かったよ」

ロイは、何度も礼を言い、帰って行った。


奥の部屋から、俺とコルナが出ていく。

「今ので、良かったか」

「ああ、助演男優賞くらいはやれるな」

「ははは。 そこは、主演男優賞と言えよ」

「さて、加藤も名演技を見せてくれたから、次はこっちの番だな」

「ボー。 本当に、町の人全員に一度に真実を知らせるなんて事できるのか?」

「まあ、そこは、なんとかなるだろう。一週間後と決まったんだから、準備を万全にしなくちゃな」

「お兄ちゃん、ホントに大丈夫?」

「コルナまで疑うのか?」

「お兄ちゃんが直接関わるところは、大丈夫だと思うけど。
今回は、パルチザンの人達も、参加するんでしょ」

「まあ、そこは、ダンを信用するしかないけどね」

「どうせ、お兄ちゃんのことだから、万一の時にも、手を打ってあるとは思うけど」

コルナのやつ、俺の考えを見透かしているな。 長いこと、一緒にいるからかな。



女心には、どこまでも鈍感な史郎であった。
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