上 下
117 / 607
第三章 学園都市世界アルカデミア編

第19話 それぞれの事情

しおりを挟む

「ケーシー、助手の行方は、まだ分からんのか?」

賢人会議長ブラムは、苛立っていた。

「は、まだです」

「範囲が限られておるのに、なぜ見つからん?」

「あの区域は、極秘研究が行われる関係上、監視カメラ等を付けておりませんでした。」

まあ、それは当然だろう。
情報漏洩の恐れがあるものは、全て排除せねば。

「それから、学園からの報告があります」

学園からの報告など、重要度は低い。
ブラムは、一瞬、ケーシーの能力を疑った。

「黒髪の勇者が、現れたということです」

「なにっ!?  ダンと言ったか。 奴ではないのか?」

「全くの別人で、少年のようです」

「そうか。 政府は、どうしている?」

「すでに、中央区への招待を決めております」

「ふむ。 何かに利用できるかもしれんな。 調査隊の方は、どうなっておる?」

「すでに、ギルドが調査隊を編成し終わっております。三日後には、獣人世界へ向け、出発の予定です」

さすがに、議長から目を掛けられるだけはある。 ケーシーの答えには、淀みがない。

「引き続き、助手の捜索を怠るな」

「はい」

ブラムは椅子を回し、窓から外を見た。クリスタルガラスごしに見える都市は、陽光をあび、キラキラ輝くダイヤモンドの様だった。手塩にかけて育ててきたこの都市を、何としても守らねばならん。


ブラムは、賢人会議長としての決意を新たにするのだった。

-------------------------------------------------------------------

普段、本格的な依頼が来ない学園都市中央ギルドは、突然の調査依頼に混乱した。


しかも、研究機関からの依頼である。ギルドマスターのマウシーは、ストレスで髪の毛が薄くなったほどである。

しかし、シローが加わってからは、あっという間に調査隊が編成された。獣人世界に必要な物資も、史郎が選別した。

マウシーは、初め、黒鉄の冒険者の能力を疑っていた。
しかし、調査隊編成の手際を見て、今では考えを改めていた。 黒鉄は、名前だけではない。

「シロー様、人員は20名ということですが、名簿には16名しか名前がありません」

だから、このように質問したのも、あくまで形式的なものだった。

「ああ、俺と仲間も参加するから」

そういえば、彼は他の三人の獣人と一緒に、この世界に来たのだったな。

「おお! 助かります。 シローさんが、ご一緒してくださるなら安心です」

「隊長は、カービンに任せてあるから、俺は手伝い程度だよ」

「それでも、安心感が違います。本格的な任務は今回が初めてという者が多いので、心配していたのです」

「まあ、カービンなら、うまくやるだろう」

カービンというのは、俺がこの世界に来た当初に出会った、義手のギルドメンバーである。
ちなみに、俺のパーティ4人が別行動してもよいと、すでに彼から了承を取ってある。

「三日後には、出発するから。 ああ、それと、当日俺はぎりぎりの到着になるから、すぐにポータルが利用できるようにしておいてくれ」

「はい、分かりました」

そうそう、マウシーの口ひげは、また元に戻っていた。
きっと、付けヒゲを探してきたのだろう。

『(・シ)』

お、点ちゃん、カッコいいね。 お髭が、ピンと立ってる。

『エへへへ』

そろそろ、忙しくなるから、また助けてね。

『わーい、また遊べるー』

相変わらずだな


自分の事は棚に上げる、史郎であった。

-----------------------------------------------------------------

パルチザンのダンも、多忙を極めていた。


今まで、首輪の故障によって記憶を取り戻した獣人達をかくまってきたが、今回は彼らにも働いてもらうことになる。

史郎の言葉を疑うわけではないが、ダンは、必ず何らかの危険はあると思っていた。

彼らの安全確保のため、いろいな装備や通信機器を揃える必要がある。
パルチザンの資金は、ここで全て使い切ってもいいと考えていた。

もし、今回の作戦が成功したら、パルチザンの存在理由は無くなる。

しかし、人手不足は、どうしようもない。
彼は、眠たいのを我慢して、壊れた通信機器の修理を行っていた。
ドーラが、食事や身の回りのことをやってくれるから、仕事に打ち込める。
彼女のためにも、何としてでも作戦を成功させねば。



ダンは、愛するドーラを故郷に帰すためなら、自分の命がどうなってもいいと考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...