94 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第37話 家族との再会
しおりを挟む史郎達は、アリストのギルドへやって来た。
俺がギルドの入り口から入ると、部屋いっぱいの冒険者達が拍手で迎えてくれた。
俺は恥ずかしくて、小さな声で「ただいま」と言った。
人ごみの間から、小っちゃな女性のギルマスが、ちょこちょこ近づいてきた。
彼女は、相変わらず妖精みたいだ。
「おかえりー」
「キャロ、帰ったよ」
「ふふふ、獣人世界はどうだった?」
「そのうち、詳しく話すよ」
「向こうのギルマスから、何か預かってない?」
「あ、これね」
背中の袋から小さな紙袋を取り出し、キャロのモミジの様な手の平に載せた。
キャロは紙袋の中に手を突っ込むと、黒いギルド章を両手でぱっと頭の上に掲げた。
「黒鉄ランク昇格、おめでとう!」
皆が総立ちで拍手している。
アンデの奴、やってくれたな。
「すげーな、黒鉄だってよ!」
「あれって、二国以上の王の承認が必要なはずだぜ」
「いつ以来だ?」
「雷神リーヴァス以来、誰も取ってないはずだぜ」
周りは、大騒ぎである。
「ガハハハ。 とうとう兄貴に追いつきやがった。
大した奴だぜ」
マックが、また大きな手で、背中をどしどし叩いてくる。
「くそー、やっと追いつけたと思ったのに」
ブレットは悔しそうだ。
ミミとポルは、初めて見る黒鉄のギルト章を取り合っている。
まあ、みんながニコニコしているなら、それでいいかな。
こうして、史郎は「黒鉄の冒険者」となった。
----------------------------------------------------------------------
ギルドから家へ続く、通い慣れた道を一人で歩く。
コルナ、ミミ、ポルは、「今日は、家族水入らずで」と言って、ギルドの歓迎会に出ている。
部屋もギルドが用意してくれるそうだ。
遠くに小さく家の灯りが見えてきただけで、俺の胸はいっぱいになった。
家のドアを開ける。
「ただいま」
奥から、ものすごいスピードで二人の少女が走って来て、ドーンドーンと俺にぶつかる。
「パーパッ」
「パーパ、おかえりー」
俺の腰にぐりぐり押し付けてくる、二人の頭を優しく撫でてやる。
「ただいま。 二人とも元気そうだね」
ナルとメルは頭を擦り付けるのに忙しく、黙っている。
ふと気が付くと、薄紫のドレスを着たルルが目の前に立っていた。
髪には、セイレンの花を付けている。
ルルは記憶の中の彼女より、さらに美しく可憐だった。
「お帰りなさい・・」
そういうと、そっと俺の胸に顔を埋めて来た。
「ただいま、ルル。
二人の事、ありがとう」
史郎は、ルルを強く抱きしめるのだった。
---------------------------------------------------------------
史郎が居間に入ると、リーヴァスが出迎えた。
彼はルルの祖父であり、この国の建国の英雄でもある。
さっき分かったけれど、「黒鉄の冒険者」の先輩にもなる。
俺たちは、がっしり握手する。
「お帰りなさい。
また一回り大きくなられたようですな」
リーヴァスさんは俺の目を見ると、そう言った。
五人でソファーに座り、ルルが入れてくれた香草茶を飲む。
子供たち二人は、ミルクである。
ナルとメルは、俺のところにミルクの白い輪っかが付いた口を突き出してくる。
俺が拭いてやると、すごく嬉しそうな顔でルルに抱き着いている。
「みんな、庭に出てもらっていいかな」
五人で家の庭に出る。
皆が庭の端の方に寄るのを確認してから、点ちゃん1号を出した。
今日は、白銀色にしてある。
「「うわーっ!」」
子供たちが歓声を上げる。
俺は、四人を中に案内した。
中は、ふかふかの敷物やソファーが置いてある「くつろぎ」仕様である。
「旦那様。 これは、一体?」
ルルが驚きのあまり、元の呼び方になっている。
「これね、点ちゃんと作った、飛行機なんだ。
せっかくだから、ちょっと飛んでみようよ」
点ちゃん1号は俺たちを乗せ、音もなく上空へ。
ある程度上がったところで、俺は壁を透明にした。
「「うわーっっ!!」
子供たちは、上空から見るアリストの夜景に夢中である。
月明かりに照らされた、お城やその城下町、湖が箱庭のように眼下に広がっている。
「これは、壮観ですな」
リーヴァスさんも、感動している。
史郎はルルの手を取ると、この世界の美しさを一緒に味わうのだった。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる