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第二章 獣人世界グレイル編

第26話 コルナの決断

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史郎が部屋でくつろいでいると、扉がノックされた。


小さな音だから、もう少しで聞き逃すところだった。

扉を開けると、当然の様にコルナが入ってきた。

「え~っと、何のご用ですか?」

「他人行儀は、よさんか。 
それより、そこへ座れ」

俺が椅子に座ると、コルナは眉をひそめて敷物を指している。

仕方ないから、床にあぐらを組む。

案の定、コルナは、俺の膝の上に後ろ向きに収まった。

「で、お主は、どの様に動くつもりじゃ?」

ここは、話す必要は無いだろう。  
ごまかしておこう。

「聖女様が案を出したら、それを実現するために動く予定です」

「嘘を言え。 お主が中心になって、動くつもりじゃな?」

勘が鋭いのか、情報分析能力が高いのか。
何にせよ、ある程度こちらのことがばれているらしい。

それでも俺は、白を切ろうとした。

「非力な俺一人で、何ができます? 
とにかく、聖女様の決断を待ちましょう」

コルナは、しばらく目を閉じて何か考えているようだったが、意を決して話し始めた。

「私に嘘は通用せんぞ。 
神樹様の加護を受けておるからな」

何? 彼女も、加護持ちだったか。

「加護というと?」

「特別な状況での未来予測じゃ」

予知能力か。

「それで、何を見たと?」

「それは、神樹様との約定で話せぬ」

それでは、本当に未来予測できてるかどうか、分からないんじゃ・・

「胡散臭そうな顔で見るでない!」

だって、本当に胡散臭いんだもん。

「とにかく、わらわは、そちと一緒に行動すると決めたのじゃ」

えっ!?

「しかし、コルナ様は獣人会議の議長でもありますし、今は大事な時。
いくら何でも、それはちょっと・・」

「ふふふ、見ておれ。 
その内、驚かせてやるからの」

いや、もうすでに、いろいろ驚いてますけどね。

「ふむ、今日も良い座り心地であった。 
また、座らせてくれ」

まあ、いいですが。  
何なんですかね、この子は。
椅子マニアですか?

「それでは、また、すぐに会おうぞ」

そう言うと、彼女は出て行った。


呆れと疲れで、史郎は、すぐに寝てしまうのだった。

----------------------------------------------------------------

翌日、史郎は舞子から、お説教をくらっていた。


昨日、去り際に念話で『後でな』と言ったのを、彼女は、その後すぐだと思っていたらしく、部屋でずっと俺を待っていたそうだ。

コルナ様のことを話すのも、なぜか躊躇われたので、俺はひたすら頭を下げていた。

今日は一日、舞子の相手をさせられることになった。

といっても、熊人の護衛が四人ついているから、二人きりというわけではない。 
熊人の顔の違いは、まだよく分からないが、どうやら駕籠を担いでいた四人の様である。

俺は舞子に引っ張られるようにして、商店が並ぶ地区へとやってきた。

ここの商店は、戸口を開け放って商品を並べるスタイルだ。

舞子は、簪やブローチを売っている店の前で足を止めた。

目をキラキラさせて、品物を見回した後、俺の方を見る。

あー、これは、あれだね。 

買わなくちゃいけないパターンだね。

俺がそう思った時、突然、左手が引っ張られた。

「お兄ちゃん、私これにする」

そちらを見ると、俺の左手にコルナ様がぶら下がっており、手には碧色の簪を持っている。

それより・・

「コルナ様、お兄ちゃんというのは・・」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもん」

「あのー、言葉遣い、そんな風でしたっけ?」

「私・・いや、ウチは、お兄ちゃんとはアレだから」

俺は、右手に違和感を覚え、ギギギギと右を見た。

舞子が、目を吊り上げ、鬼のような顔をしている。

それ、君のキャラじゃありませんよね。
鬼聖女、絶対ダメ!

「史郎君、この子いったい、誰?  史郎君の何?」

「えー、この方は、狐人族の族長で、コルナ様という・・」

「違うよ、お兄ちゃん。 
ウチ、もう族長じゃないもん。 フフフ」

フフフじゃないですよ。
何ですか、それは。
まさか・・

「族長は妹に任せて、お兄ちゃんと一緒にいることにしたの」

な、何ですか、それは! 
そういえば、どっかのギルマスが、似た行動とったことがあったな。
これはもう、異世界仕様ですか?

「あなた、いったい何のつもり?  
史郎君は、私の・・だから」

舞子も、誤解を招く言い方、止めてください。

板挟みって、こういうこと言うんだろうね。

『ご主人様ー、板を出すの?』

いや、点ちゃんまで・・。 

もうお腹いっぱいです。



こうして、モメモメの二人に挟まれながら、心をすり減らす史郎だった。
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