79 / 607
第二章 獣人世界グレイル編
第22話 衝撃の事実
しおりを挟む村はずれにある牢は、小さく臭かった。
虎人たちの大きな体で、すし詰めになっている。
彼らは、無理やり角のところにスペースをつくっており、そこに人族の男が座っていた。
これだけ見ても、この男と虎人族との関係が知れるというものである。
近づく史郎に気付いた虎人たちが、一斉にぶるぶる震え出した。
「その男を、外に出せ」
俺がそう言うと、虎人達はさっと動いて、男と戸の間に道を作った。
男が自分から動こうとしないので、点をくっつけて、無理やり引っ張り出す。
牢のカギを閉め、崖に続く山道を登っていく。
男は、動かなくても俺が行く方向に引っ張られるので、諦めて自分の足で歩き出した。
崖前に広がる、広場に到着した。
そこには、炎が舐めた跡が黒く残り、焦げた匂いが立ち込めている。
俺は振り向き、男と目を合わせた。
「あんた、誰だ?」
俺が問うが、男は答えない。
「?!」
男が、突然崩れ落ちる。
ちなみに、この男の手足の神経はまだ遮断していない。
いや、していなかった。
今、右足の神経を遮断したところだ。
「次は、左手をもらう。
早く話した方がいいぞ」
それでも、男は口をぎゅっと閉じて黙っている。
「手、手がっ!」
左手が動かなくなって、やっと声を出す。
「話すか? 俺はどうでもいいぞ。
次は、右目だ」
倒れていた男が、急にジタバタし始める。
「や、やめてくれ!
話す、話すから」
やっと、その気になってくれたようだ。
「お前は、誰だ?」
「わ、私は、ミゼットだ」
「どこに所属している?」
「そ、それは・・」
俺が奴の右目を覗き込むと、諦めたように話し出す。
「け、研究所で働いている」
「どこの研究所だ?」
「アルカデミアの研究所だ」
俺は、記憶を探っていた。
アリスト王城の禁書庫で調べたものの中に、その名前があった。
「学園都市世界だな」
「ど、どうして、それを!?」
「なぜ、異世界に来てまで、聖女を狙う?」
「それは、本当に知らない。 上からの命令だ」
嘘は、ついていないようだ。
「猿人たちを使って、獣人の村を襲わせているのも、お前たちか?」
「・・・」
男の顔色が、青くなる。
奴が、一番聞かれたくない話題に触れたらしい。
「どうなんだ?」
「そ、それは・・」
男は、それきり黙り込んだ。
「なるほど、それだけは、話したくないか」
俺は、そう言うと、奴の右目の神経を遮断する。
「目、目がっ」
「次は、左目をもらう」
「しゃ、しゃべる!
何でもしゃべるから、もうやめてくれっ」
「さらわれていく獣人たちも、そう言っただろうな」
「・・・」
「さて、では、左目ももらうかな」
「め、命令した!
猿人に命令してやらせた!」
「何のためだ?」
「そ、それは、学園都市で働く労働力としてだ」
「それだけか?」
俺は、奴の左目に指を近づける。
「ひいっ、や、やめてくれ!
実験・・実験のためもある」
「実験というと?」
「獣人を使って、いろいろ実験する・・」
いろいろね。 つまり、人体実験だな。
俺は、アンデに報告すべく、すぐに山道を降り始めた。
立ち上がれない男は、点で引っ張る。
顔や体が地面に擦りつけられるので、悲鳴を上げ続けているが、そんなことは知ったことではない。
ギルド用の土の家に入ると、アンデに分かったことを報告する。
衝撃の事実に、アンデは呆然としていたが、はっと我に返ると、ものすごい勢いで通信を始めた。
恐らく、コルナだけでなく、全種族の族長に連絡しているのだろう。
史郎は、牢の近くに人族の男用の土牢をつくり、男を放り込んだ。
-------------------------------------------------------------------
史郎に牢に放り込まれた男、ミゼットは、安全なはずのフィールドワークがこんなことになって、心から後悔していた。
この研究成果をもって、学園都市の上層部に食い込むのが男の夢だった。
成果は、間違いなく、それに相応しいものが出ていたのに・・
新しく入れられた牢は、前に入っていたものより狭いが、臭く無かった。
獣人を実験動物として見ている男にとって、そんな奴らと一緒の牢に入るのは屈辱以外の何物でも無かった。
ここは、一人でいい。
片手、片足、片目の機能喪失は、一時的なものではなさそうだ。
時間が経っても、左手はピクリとも動かない。
なんで、こんなことに・・
私が、何をしたというのだ・・
男は、運命の理不尽さを、嘆き続けるのだった。
男が、そのことに気付いたのは、二回の夜を牢で過ごした時だった。
土牢の戸が、ほんの少しだけ開いている。
男は、這い寄って、戸に触れてみる。
戸は、音もなく開いた。
顔を出して、左右を覗う。
二人の犬人が、土牢の壁にもたれて眠っている。
男は、音を立てないように牢から這い出ると、森へ向かって進む。
土牢の戸が開かないようにするための、つっかい棒なのか、60cmくらいの棒が落ちていたので、拾って杖にする。
幸い、牢は集落と森との境界付近に建っている。
男は、すぐに森の木々の間に姿を消した。
------------------------------------------------------------
朝が来て、人族の男が逃げたことが、アンデに報告された。
「で、お前たちは、二人とも眠りこけていたと・・」
二人の犬人が、耳をぴたっと頭につけ、土下座している。
「ふむ・・」
そこに、史郎が通りかかった。
「シロー、人族の男が逃げ出したぞ。
お前、何か心当たりないか?」
アンデは、史郎の目をじっと見ている。
「え? それは大変だな。
まあ、重要な情報は全て引き出してるから、追跡する必要は無いかな」
それを聞いたアンデは、少し考え込む様子だったが、顔を上げると次にすることを伝えた。
「お前たち二人は、聖女捜索に加われ。
シローは、獣人会議に備えて、報告書を作ってくれ」
「ああ、分かった」
史郎が答えるより先に、二人の犬人は、そそくさと外へ出て行った。
「シロー」
「ん? なにか?」
アンデは、何か言いかけたが、そのまま黙ってしまった。
やばいな、やっぱり気づかれてるか。
『そのようですね♪』
おいおい、点ちゃん。 何で嬉しそうなの?
『ご主人様と、いっぱい遊べそうだからですよ』
はいはい、確かにここからは、点ちゃんに頼らないといけないからね。
よろしく頼むよ、点ちゃん。
『ドーンと、任せちゃってください』
まあ、任せるしかないんだけどね。
じゃ、次の準備しよっか。
『オッケーでーす』
扱う事柄の深刻さを考えると、あいも変わらず緊張感に欠ける二人だった。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる