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第一章 冒険者世界アリスト編

第20話 家族

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翌日、史郎は風邪で寝込んでいた。
いや、本当は、風邪のふりをして横になっていた。


体調が良くなってから、王都に帰る。
そうギルドマスターに伝え、万事うまく運んでくれたのはルルである。

通常なら許されないのだろうが、ドラゴン討伐成功で、皆が浮き立っていたからか、あっさり許可が下りる。

「おい、早く治せよ」

「無理するな」

マックとハピィフェローのみんなが、戸口のところから、声を掛けてくれた。

近づくと、ばれる可能性があるので、感染性が強い風邪だということにしてある。

ルルさん、マジ頼りになる。


昼頃、そそくさと出発準備を終えた討伐隊が、町を離れる。
見送りの楽の音が、遠くから聞こえてくる。

それが完全に聞こえなくなった頃、ルルが入ってきた。

「旦那様、準備ができました」

外に出ると、二つの背負子が置いてあった。

すぐに背負って二人で山道に向かう。

途中、討伐で通ったのとは別の道に入る。

ある程度進むと、右側に大きな岩が現れる。

斜面を登り、その裏側に入る。

かぶせてあった枝を取り払うと、白く光る魔法陣が現れる。

ルルと手をつないで、魔法陣に触れる。

次の瞬間、二人は洞窟内にいた。
昨夜、俺がお母さんドラゴンに連れて行かれた場所だ。

奥に入っていくと、二つのボールがあった。

気配を感じたのか、頭が現れてこちらを見る。

母親ではなくて、がっかりしたようだ。
俺の姿を見ても騒がないのは、母親から言い含められているからだろう。

ルルが、ポーチから白い球を2つ出す。

二人が一つずつ球を掲げ、それぞれの子ドラゴンに近づける。

白い球が、光となって二匹の中に入っていく。

光は、やがて子ドラゴンを包み込んだ。
それが消えた時、人間の姿をした、7、8才くらいの美しい少女が二人現れた。

二人とも白髪に近い金髪で、瞳の色はそれぞれ青と赤である。

その目には、溢れそうな涙をためている。

さっきの白い球は、お母さんドラゴンが作ったテレパシーの塊だそうだ。

自分は、もう死んでいること。
球を持ってくる人を信頼して生きていくこと。

そういうメッセージが込められている。

昨日、洞窟からキャンプ地に戻る途中で、こういうことを全て打ち合わせてあった。

お母さんドラゴンは、このような日が来ることを見越して、ずっと前から準備していたようだ。

用意してきた服を着せてやる。

その後、ルルと俺の腕の中で、二人の涙が枯れるまで泣かせてやった。

これがお母さんドラゴンの望みでもあったし、俺自身もそうしたかったからだ。

二人が落ち着いてから、静かに話しかける。

「二人は、見知らぬ人にすがることになって、とても不安だろう。
俺自身、君たちのお母さんや君たちに会ったのは、つい昨日だからね。
だけどね、縁、関係って言ってもいいかな。
それは、時間ではないんだよ。
君たちのお母さんに会ったのは、ほんの短い間だったけど、俺は大好きになったんだ。」

二人は目を見開いて、じっと聞いている。

「なぜだか分かるかい。
お母さんが、命懸けで君たちを守る姿を見たからだよ。
約束しよう。
これからは、俺達が命懸けで君らを守る。
何があってもだ。
だから安心して、うちの子になっておくれ」

二人は深く頷いてくれた。

母ドラゴンは、人間の俺にそこまで期待なんてしなかったかもしれない。

だけど、これは俺が本当にしたいことなんだ。

つないだ手から伝わるルルのぬくもりが、何の心配もいらないことを確信させてくれた。



異世界で、家族が出来た。
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