ポータルズ －最弱魔法を育てようー

第一章 冒険者世界アリスト編

第１８話 ドラゴンの願い

気が付くと、焚火のぱちぱちいう音が聞こえてくる。


体には、毛皮のようなものが、掛けられている。
処理の仕方が悪いのか、少し獣臭い。

「気が付きましたか」

焚火の明かりで、浮かび上がった女性の顔は、信じられないくらい美しかった。

「あのような手段で連れて来て、本当に申し訳ありません」

女性が、深く頭を下げる。

「あの、あなたは？」

すでに、この女性がギルド職員でないのは確信していた。
恐らく、人間でもない。

「この山に棲むドラゴンです」

「なるほど」

「驚かないのですね」

「まあ、高位のドラゴンは人化できるって聞いてましたから」

「怖くは、ありませんか」

「あなたが？ 
さすがに崖から落とされたときは怖かったですが、目の前のあなたを見て怖がるということはありませんよ」

たとえ、あなたがドラゴンの姿になったとしてもね。

「思った通りの方ですね」

「思った通り？」

「ドラゴンには、テレパス能力を持った個体が生まれることがあります」

「・・・それが、あなただと？」

「ええ、先ほど上空から、みなさんの心を覗かせてもらいました。
ほとんどの心が、殺そうという衝動や、殺されたくないという恐れで、いっぱいでした」

ああ、あの上空に現れたドラゴンが、あなたでしたか。
って、サイズおかしくない？

「その中で、あなたの心は凪いでいました。
隣にいる方を守ろうという、強い意思は感じられましたが、殺意は全く感じられませんでした」

「それで、話がしたかったと？」

「ええ、お頼みしたいこともありまして」

頼み？ 　最強万能のドラゴンから頼まれるようなことあったかな？

「話の前にまず、こちらにおいでください」

女性は立ち上がると、奥に向かって歩きだした。

「奥」というのは、この場所が洞窟のようになっているからである。

壁を見ても、自然にできた洞窟らしい。

通路が急に広くなると、大きな広間に出た。
ルルと買った新居が、５軒くらいは、余裕で入りそうである。

女性は広間の奥にある、直径２ｍくらいの球状のものに近づいていく。
球は二つあり、表面だけ見ると岩のようにも見える。

大きな光が女性を包むと、昼間に見た巨大なドラゴンがそこにいた。

『ここからは、テレパシーでお話ししますね』

頭の中に、声が響く。

『この二匹は、私の娘です』

二匹？

ドラゴンが翅でやさしくボールを撫でると、ボールが開いて、小さなドラゴンの頭が出てきた。
まあ、小さいっていっても、人よりは大きいけどね。

うはっ、クゥー、クゥーって鳴いてる。
お乳が欲しいのかな。 
めちゃくちゃ可愛い。

『お願いしたいのは、この子達のことなんです。
この子達を、ここから逃がしてもらえませんか』


な、なんですとーっ！！

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母ドラゴンは、次のようなことを伝えてきた。



人間は、一度殺そうとすると、なかなか諦めない。
血に酔ってしまうところがある。

今回の襲撃を彼女が退けても、こちらが死ぬまでつきまとうであろう。
その間に、娘たちは傷ついて、死んでしまうに違いない。

殺意と偏見を持たない、穏やかな心のあなたなら、何とかしてくれるだろう。



まあ、それはそうだよね。　
あの王様が、諦めるとは思えない。

鋭いね。
やっぱり、沢山の人の心を覗いてきたからかな。

『勇者が私を殺せば、人々は満足して山を下りるのではありませんか』

ま、心を読まれちゃってるからね。

残念ながら、その通りです。

『しかし、私の力を、殺意ある人間に渡す気はありません』

なら、どうすれば？

『あなたが、私を殺してください』

はい？ 　ちょっと待ってくれよ。
何の能力もない俺に、それをやれってのか。

『あなたには無限の可能性があります。
すでに、力は目覚めていますよ。
気づきませんでしたか』

目覚めた力ってやっぱりあれかね、点ちゃんのことかね。

『そうです。　点魔法。
私も初めて見る能力ですが、それがものすごい力を秘めていることだけは分かります』

え～っと、誰かとまちがえてません？

『今までも、思い当たることがあったはずです。 
いかがですか』

あー。　そうきますか。
まあ、もしかすると、とは思ってましたけどね。

ちょっと待ってて下さいよ。

おーい、点ちゃん。

「はいは～い、何でしょう」

この状況で軽いな、こいつは。

えっと、ゴブリンキングって聞いて、思い当たることない？

「ああ、あの黒くて大っきなゴブリンのことですね」

そうそう、そいつ。　
そいつに何　かしなかった。

「ご主人様が殺されないように、排除しましたよ」

排除ーっ！！ 　
って、やっぱり、あれ、点ちゃんだったのか。

「ご主人様、怒ってる？」

怒ってない、怒ってない。　
驚いただけ。

でも、一体どうやったの？

「あのときは、私も力が弱かったので、精一杯でしたよ」

いや、だからどうやって、殺し・・排除したの？

「心臓っていうんですか？  
生命維持に不可欠な器官がありますよね」

あるね。

「あれを、キュイって止めました」

へえ～、キュイってね・・ってなんでやねん！

「やっぱり怒ってる」

怒ってないから。　
点ちゃんのこと、大好きだから。

おお、ぴょんチカしてるし。

キュイって、具体的には？

「あの器官は、定期的に電気パルスを出してますよね」

あー、なんかそうだったっけ？

「そこに干渉しました」

干渉？

「電気パルスを、一時的に遮断しました」

なるほど。　板状になって、間に入ったのかな？

「そんな感じです。 
あの個体は、痛みも感じず、すぐに死んだはずです」

なるほどねぇって、点ちゃん怖いよ。

( ;∀;)

嘘、今のは、ほんと嘘だから。
点ちゃん、俺とルルの命、救ってくれてありがとね。

(n*´ω`*n)

ドラゴンさん、今のやり取り聞こえてました？

『いいえ、あなたの話し声しか聞こえませんでしたよ』

点ちゃん最強。　
ドラゴンのテレパシーさえ、シャットアウト！

(∩´∀｀)∩～∩（´∀｀∩）～(∩´∀｀)∩

・・・もういいかい？


ドラゴンさん、頼みは実行可能のようです。

『おお！ それでは引き受けて・・』

でも、それをすると、あなたがいなくなった後の子供達は、どう思うでしょう。

『そ、それは・・・必ず説得します！』

お子さん達を連れて逃げる、というのはだめですか。

『それは、もう何度も考えました。
しかし、どこにいっても人間から追いかけられるという運命は、変わりません。』

それでも・・

『私は自分が送ってきたような一生を、この子達に残したくはないのです』

・・・

『人化の魔術は、すでにこの子たちに授けています。
それが、この子達をあなたに託す私ができる、せめてもの手助けです』

・・・そこまで覚悟があるなら、もう何も言いません。　
私に任せて下さい。

『あ、ありがとう・・』

お母さん、そうと決まれば、私をすぐにキャンプに戻してもらえませんか。

『分かりました』

この一刻が、親子にとってどれほど貴重なものか。
せめて、少しでも長く、子供たちが母に甘えて欲しい。

史郎は、そう願うのだった。

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キャンプ地に戻ると、案の定、暗い中でルルが俺を探していた。

平坦地の隅に連れて行って、ドラゴンとのやり取りを全て話す。
点ちゃんとのやり取りも含め、全てだ。

ゴブリンの集落で、ルルが命を投げ出して俺をかばってくれたあの時から、彼女に隠し事をするのは止めたからね。

「事情は、分かりました。 
私はいつでも、旦那様が、やりたいことを応援します」

ズシーンと、胸に来たよ。

「ルル、明日は何が起こるか分からないけど、できるだけの事をやってみるよ」



ドラゴンのお母さん、子供達、そして、俺達自身のためにね。