19 / 607
第一章 冒険者世界アリスト編
第17話 ドラゴンが棲む山
しおりを挟むいよいよ、山頂へ向けて出発する日が来た。
予定では、今日中にドラゴンを討伐して、山を下りることになっている。
ただ、万一に備えて、山でのキャンプにも対応できるよう準備している。
どうも、「討伐に行ったけど、ドラゴンちゃんは、お留守でした」は、通用しないらしい。
昨夜ブレットたちと、シチュエーション別の安全対策を行ったが、ドラゴンが空を飛べるということがやっかいで、結局は各自が臨機応変に対処するしかないらしい。
とにかく生き残ること。
それをみんなで確認し合った。
山に霧がかかる早朝は避け、昼前の出発となった。
山頂までは、1時間ほどで着くらしい。
山道は、やはり、雨の影響でかなりぬかるんでいた。
途中、二匹のロバ型生物が、荷物ごと谷底へ消えた。
この山は、火山活動があるのか、木が一本も生えていない。
だから、バランスを崩したら最後、谷底までつるべ落としである。
山頂が近づくと、そこかしこに何かの骨が散らばるようになった。
ドラゴンの食事跡かもしれない。
先頭を歩いていた騎士たちから、ゆっくり進むようにと指示が出る。
どうやらドラゴンの棲み処は、すぐそこらしい。
ルルが手を握ってくる。
この温かさだけは、絶対に守る。
行進が止まった。
先頭は、すでにドラゴンを視認しているらしい。
-----------------------------------------------------------------------------
空が突然翳ると、突風が吹きつけた。
見上げると、信じられないほど大きな影が、空を覆っている。
「でたーっ!!」
「うわーっっっ」
ほんの5mほど前で、バランスを崩した隊列が谷底へ落ちていく。
バサッバサッという音がする。
ドラゴンは、上空でホバリングしているらしい。
弓隊から弓矢が飛んでいくが、ドラゴンの翅が引き起こす風で、明後日の方に落ちていく。
魔術隊は、精神集中できていないようで、時々チョロチョロと青い光が飛んでいくが、ドラゴンにダメージを与えた様子はない。
上空が晴れたと思ったら、ドラゴンはあっという間に飛び去って行った。
みんな、泥で汚れるのもかまわず、地面にへたり込んでいる。
まあね。 どうみても命拾いしてるもんね。
ドラゴンがその気なら、すでにみんな生きてないよ。
----------------------------------------------------------------------------------------------
後ろから伝令が来て、山を少し下ったところにある平坦地に、キャンプを張るらしい。
よろめきながら降りていく隊列は、どうみても敗残者の姿である。
ルルは、強く俺の手を握ると、前方に向かった。
ギルド関係者と連絡を取るとのこと。
平坦地へ着くと、ほとんどの人が、崩れるようにしゃがみこんだ。
横になって、体を震わせている者もいる。
今ならブレットが、「銀ランクだからドラゴンにはかなわない」って言ってた意味がよく分かる。
というか、これってランク関係なくない?
こっちがどんなに強くても、無理があるだろ。
数人がよろめきながら、タープテントを設置している。
まあね、この状態じゃ、まともなテント設営も難しいからね。
雨露しのげたら十分だと思わないと。
ギルド関係者が、たむろしているところに向かう。
どうやらギルドメンバーは、自分が最後だったらしい。
「そろったな。 あれがドラゴンだ。
特に強力な、特殊個体に当たったようだ」
えーっ! ただでさえ勝てそうにないのに、特殊個体かよ。
絶望的だな、こりゃ。
「今日は、ここで野営して、明日もう一度攻撃を試みる。
今日は、無理にでも休んでおけよ」
マックが話し終えても、みんな、じっと動かない。
「俺がテント張りましょうか。
割と慣れてるんで」
「お、そうか。 なら頼めるか。
ほかの者は、座るなりなんなり、休んでおけ。
テントに入ったら、すぐに寝ろよ」
ヨレヨレのギルド職員から、テントを受け取ると、さっさと設営を始める。
大型のテントは、複数人いたほうが組み立てやすいが、慣れると一人でも設営できる。
「随分手馴れてるな」
「ブレットか。 まあ、故郷じゃ、随分やってたからな」
くつろぎを求めて、年間50日以上キャンプしてたからな。
「それより、ドラゴンって、全部あんなに大きいの?」
「いや、あいつは特に大きいな。
あんなに大きいのは、見たことないぞ」
「やっぱり、大きいほど強いの?」
「まあ、そうだな。
小さくても、特殊個体なら、ありえないぐらい強いらしい」
「らしい?」
「ああ、ドラゴンの特殊個体に出会って、その後も生きてる冒険者は稀(まれ)だからな」
「なるほど」
ていうことは、でかい上に特殊個体って、どうしようもないじゃん。
「まあ、なんとかなるだろう。
俺たちが、討伐するわけじゃないからな」
ブレットは俺の肩をポンと叩くと、食事の用意に去っていった。
そうだった。 加藤がやばいぞ。
何の方策もなく、夜を迎えた。
泥のように眠るみんなを、起こさないように外に出る。
雲間から、美しい星空が出ていた。
この世界には、地球で見るよりやや小さな月が一つある。
もちろん地球と同じ星座は見当(みあ)たらないが。
それにしても、星空は綺麗だなあ、どの世界でも。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
そこらへんをぶらぶらしていると、影の中から人が現れた。
「あのー。 シローさんですか」
「あ、はい。 そうですが」
俺の名前を知ってるってことは、ギルド関係者だと思うんだが、こんな人いたかな。
暗くてよく顔が見えないから、はっきりしないけど。
「ちょっとお話があるのですが、ここではなんですから、こちらに来てもらってもいいですか」
まあ、ここで話してたら、テントの人たちが、目を覚ますかもしれないからね。
「ええ、いいですよ」
女性についていくと、どうも崖に近づいているように思える。
「あー、もうこの辺でいいと思いますよ。
テントからも十分離れたし」
「そうですか」
女性は、急に振り向くと抱き着いてきた。
え!? なに? このイベント。
ちょっと喜んだのは、許してほしい。
なぜなら・・。
いきなりすごい力で抱えあげられ、足が宙に浮く。
女性は崖から身を投げた。
俺を抱えたまま。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる