上 下
590 / 607
第十二章 放浪編

第60話 ドラゴンの国

しおりを挟む

 王都から南西方向へ一時間ほど飛ぶと、下に山岳地帯が見えてきた。
 さらにしばらく飛ぶと、山肌が次第に赤っぽくなってくる。
 一際高い富士山型の大きな山があり、その赤い山肌に、溝のような太い筋が一本、麓まで走っていた。
 それを眺めていると、下方から黒い影がいくつか飛来する。
 ドラゴンだ。

 大きさは、かつてドラゴニアで出会った天竜くらいだろうか。
 大きさだけでなく、その形まで驚くほど似ている。
 点ちゃん1号を宙に停止させると、その周囲をぐるりとドラゴンがとり囲んだ。 
 
『何者だ?!
 ここは我らドラゴンのテリトリーだぞ』

 ドラゴンの一体が念話で詰問してくる。
 さすが飛行型生物。点ちゃん1号が空を飛んでることには驚かないね。

『俺はシロー。
 大事な話があってここへ来た。
 あなた方の王に会いたい』

『お前、変なものに乗ってるが人族だな?
 アリンにも劣る種族が竜王様になど会えるか!
 身の程を弁えろ!』

 アリンってなんだろう。
 とにかくバカにされていることは確かだな。
 いきなり訪れたこちらも悪いけど、これでは話にならないね。
 
『どうすれば、その竜王様とやらに会わせてもらえるのかな?』
 
『とるに足らないものを、竜王様に会わせるわけにはゆかぬ。
 すぐにたち去れ!』

 ここは、少しだけこちらの力を見せた方がいいかもね。

『分かった。
 少しこちらの力を見せるが、後で愚痴は言うなよ』

『愚か者が!
 そんなことをする前に、お前の命を頂く!』

 機体を囲んだ竜たちが頭を少し後ろへ引く。
 その口の中に炎がちらついている。
 ブレス攻撃をするつもりだな。

 すでに竜たちにつけてあった、重力を付与した点を発動させる。
 全ての竜がきりもみ状態で地上へ落ちていく。

『ぐっ!?』
『ガーっ!』
『ひぐっ!』

 ドラゴンといえども、この高さから落ちたらタダでは済まないのだろう。
 念話を通し、落ちていくドラゴンの恐怖が伝わってくる。
 地上すれすれでヤツらの落下速度を殺し、ゆっくり地上へ降ろした。

 自分自身にも重力付与をおこない、点ちゃん1号の外へ飛びだす。
 落下の恐怖が消えず、ノロノロと動いている、ドラゴンたちのまん中へ着地する。

『い、今のは何だ!?』
『コイツ、本当に人族なのか?』 
『何者だ?!』

 そんな念話が聞こえる中、俺は先ほどの質問をくり返した。

『竜王様に会わせてもらえるか?』

 ◇

 落下のショックでヨレヨレになったドラゴンに案内されたのは、ドーム球場ほどもある巨大な洞窟だった。
 壁面が磨いたように滑らかなのは、ドラゴンが手を加えたからかもしれない。
 壁には、数か所、大きな穴が開いており、洞窟のさらに奥へと通じているようだ。
 一体のドラゴンがその穴から奥へ入り、しばらくすると、それぞれの穴からドラゴンが次々に現れた。
 広大な岩床がドラゴンで埋められていく。彼らの爪が岩床に当たる音だろう、カチャカチャという音が続いている。
 辺りには、線香をたいたような匂いが漂っていた。
 最後に一際大きく黒いドラゴンが現れる。
 そのドラゴンは翼を広げ飛びあがると、高さが二十メートルほどはありそうな場所にある、壁からつき出た岩棚にふわりと降りた。

 グゥオオオオッ

 岩棚の上でそのドラゴンが一声咆える。

 グゥオオオオッ

 他のドラゴンが同じように咆えることでそれに応えた。 
 俺は点魔法のシールドで聴覚を遮断し、その轟音に耐えた。 

『皆のもの、今日集まってもらったのは他ではない。
 そこにいる人族がワシと話がしたいそうだ』 

 ドラゴンたちのざわつく念話が伝わってくる。

『何か考えのある者はおらぬか?』 

 竜王の問いかけに、すぐ答えたドラゴンがいた。

『我に考えがある』

『マズル、またお前か』

 竜王の念話に、並みいるドラゴンたちが一体のドラゴンを見る。
 そのドラゴンは他より大きく、色も黒かった。体についた無数の傷は、そのドラゴンが潜りぬけてきた戦いの証だろう。

『そやつに『試しの儀』をおこなえばよい』

 そのドラゴンは堂々とそう答えたが、それを見ているドラゴンたちの目はなぜか冷たいものだった。
 何か事情があるのかもしれない。

『うむ。
 しからば『試しの儀』を行うとして、誰がその相手をする?』

 竜王の重々しい念話が伝わってくる。

『我が言いだしたのだ。
 我が相手をしよう』

『皆のもの、マズルの意見に賛成するか?』

 グオオオ

 賛成の声は上がったようだが、それは積極的なものとは言いがたかった。
 渋々賛成しているように聞こえる。

『仕方ない。
 マズル、お前に相手をしてもらうが、前回のように相手を殺すような戦いをするな』
 
 なるほど、このマズルと名のドラゴン、前科があるわけか。
 だから、みなに支持されていないんだな。

『分かっている』

 マズルが俺の方へその首を向ける。
 その目には明らかに殺意があった。
 おいおい、言っていることと考えていることが違うじゃないか。

『では、明日、ソルが天頂に昇る刻をもって、『試しの儀』を行う』

 竜王の念話に、他のドラゴンが一斉に咆えた。

 グゥオオオオッ
 
 あなたたち、人族がここにいるんだから、もう少し音量を絞ってもらえませんかね。
 しかし、結局、俺は一言も発言せずじまいか。
 こいつら、自分たちがドラゴンだからって、あまりにも人族を舐めてないか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...