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第十二章 放浪編
第42話 白い悪魔
しおりを挟むポータルから出た俺たちは、石でできた遺跡にいた。遺跡は古いもので、今にも崩れおちそうだ。
遺跡の外へでると、周囲は草原が広がっており、遠くに森が見えた。
草原を渡る微風が肌に気持ちよい。
「うーん、平和そうな世界……でもないか?」
森の方から、こちらに白い波が草原を押しよせてくる。
どうやら、何かの大群に目をつけられたらしい。
「おそらくあれが『白い悪魔』だな」
「ミュ~」(そうみたい)
俺は肩のブランを撫でると、白い何かが近づいてくるのを待った。
問題は、転移直後で点ちゃんがいないことなんだよね。
◇
近づいてきたそれは、巨大な白い綿のようなものだった。
二階建ての家くらいあろうかという巨大な白い玉が、もの凄い勢いでこちらに近づいてくる。
それも一つではなく、無数にだ。
視界いっぱいに、白い綿が草原を埋め尽くしていく。
とうとうそれが俺の所まで来た。
ぽわん
そんな感覚で、白いふわふわが俺に触れる。
ふわりと浮いた身体が、白いものの上に乗る。
身体が下から押しあげられる。
ぽわ~ん
かなりの高さまで跳ねあげられるが、落ちる所には白いふわふわがあるので、それに柔らかく受けとめられる。そして、身体がふわふわの何かに沈みこむと、その反動でまた身体が宙に浮く。
ぽわ~ん ふわん
ぽわ~ん ふわん
ぱわ~ん ふわん
俺の横では、白猫ブランも一緒に上下しているが、彼女はご機嫌のようだ。
「ミュ~!」(これ、楽しい!)
ええ、楽しいですよ、それなりに。
でも、こう何度も上下すると、なんかだんだ船酔いのような症状が……。
空中で、突然身体が停まる。
『(^▽^)/ 適応完了!』
お帰り、点ちゃん。
停めてくれてありがとう。
『(・ω・)ノ 楽しそうなことしてますね。中断させない方がよかったですか?』
いや、そろそろ気持ち悪くなってきたところだし。
ブランちゃんも、さすがに上下運動に飽きたみたいだね。
白いふわふわに、しがみついてる。
『(Pω・) これは魔獣の一種ですね。敵意は全くないようです』
「きゅぅー!」(遊んでー!)
「きゅぅー!」(遊んでー!)
「きゅぅー!」(遊んでー!)
俺とブランが、上下運動しなくなったからか、魔獣たちからそんな声が聞こえてくる。
今の俺は、聖樹様から頂いた加護で、動物や魔獣の声が理解できるようになってるからね。
しかし、身体の大きさの割に、むちゃくちゃカワイイ声だな、この魔獣。
『(Pω・) それはそうでしょう。だって、この魔獣――』
白いふわふわ魔獣が、上下運動をやめたと思うと、突然、彼らの身体で隠されていた草原が現われた。
魔獣が消えた? いや、はじけた?
草原のそこかしこに、バレーボールほどの白い綿のようなものが落ちている。
ブランは大丈夫みたいだね。まあ、猫(スライム)だから。
地上に降り、白い玉に触れようとすると、それがふわふわと動いた。
あれ?
よく見ると、白いふわふわの中からつぶらな黒い目が二つこちらを見上げている。
「きゅぅ~?」(遊んでくれないの~?)
悲しそうな鳴き声がする。
俺はそれを抱きあげ、撫でてやった。
「きゅきゅきゅ~!」(気持ちいい~!)
「「「きゅっ?」」」(ホント?)
白いふわふわ玉が俺の周りにどんどん集まってくる。
結局、その玉を全て撫でてやることになった。
「(・ω・) ご主人様が、珍しく働いた!」
まあね、今回はただモフモフするだけという美味しいお仕事でしたよ。
「ミュ~?」(私は?)
ブランちゃんが残っていましたか、もちろんモフモフさせてもらいますよ。
◇
点ちゃんが分析したところによると、この魔獣は興奮すると自分の体内に空気を取りこみ、膨れあがるらしい。
気性の穏やかな魔獣のようだ。
俺の姿を見て集まってきたのも、遊んでほしかったらしい。
だけど、あんな目に遭ったら、普通の人は恐ろしい魔獣に襲われたと思うんじゃないかな?
だからきっと、『白い悪魔』って名づけられたんだと思う。
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