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第十二章 放浪編
第36話 気づき
しおりを挟む「撃てーっ!」
赤い眼帯を掛けた女性がそう号令すると、横一列に並んだ女性兵士たちが、ほぼ同時に発砲した。
ピンポン玉より少し小さな黒い玉が、無数に飛んでくる。
それは俺の周囲でピタリと停まった。
「な、なにっ!?
どういうことだ!」
眼帯の女性が叫ぶ。
「えーと、モラー少佐でしたっけ?
とにかく話を聞いてもらえませんか?」
俺は敢えてのんびりした口調で話しかける。
なぜか、それが彼女の怒りに油を注いだようだ。
「くそうっ!
おい、四式を持ってこい!」
モラー少佐が命令すると、後ろから現れた女性が、長さが一メートルほどある筒型の武器を持ってくる。
それを受けとった少佐は、肩に兵器を担ぎ、俺に狙いを定めた。
バズーカ砲に似た兵器からは、テニスボールサイズの黒い玉が発射された。
その玉も、俺へ到達することなく、宙で停まった。
「ええと、話を聞いてもらえないと、少し手荒なまねをしないといけないんですが」
「黙れっ!
なんで弾が届かない?!」
彼女は、兵士から渡された、二本目の筒型武器を肩に載せた。
このままでは、らちが明かないよね。
俺は腕を伸ばし、右手の人差し指をモラー少佐の方へ向ける。
危険を感じたのか、兵器を担いだまま、彼女は半歩後ろへ下がった。
人差し指で、くいっと上空を指す。
モラー少佐と横一列に並んだ兵士たち全員が、そのままスーッと空へ上がっていく。
「な、なんだっ!」
「あわわわわわっ!」
「いやーっ!」
兵士たちの声が空から降ってくる。
俺は指を下へ向けた。
女性兵士全員が、ビルの三階くらいの高さからまっ逆さまに落下する。
「「「キャーッ!!」」」
顔が地面すれすれで停まった兵士たちは、その多くが気を失った。
「俺の話を聞いてもらえますか?」
「ふざけるなっ!」
モラー少佐の声を聞き、俺は再び指を上に向ける。
「「「あああああ!」」」
意識が残っている兵士が、再び上昇を始める。
彼女らは、ビルの十階くらいの高さまで上がった。
指をくいっと下へ向ける。
「「「ぎゃー……」」」
地面にそっと降ろしたとき、モラー少佐を含む全員が気を失っていた。
「やれやれ」
『(; ・`д・´) 「やれやれ」じゃありませんよーっ!』
◇
モラー少佐は、目を覚ますと、素直に俺の言うことを聞いてくれた。
軍本部の会議室に、幹部たちが集まる。
「では、改めて自己紹介しますね。
俺は異世界から来た冒険者、シローです。
集まってもらったのは、あなた方の現状を知ってほしいからです」
「我々の現状だと?
どういうことだ?
なぜ、『劣性』の話など聞かねばならんのだ?」
幹部の一人が抗議の声を上げる。
「質問や反論は、とにかくこれを見てからにしてください」
俺は壁に点ちゃんシールドを展開すると、白いスクリーンに先日『平和大陸』で記録した映像を流した。
そこでは「C」字型のテーブルに座った、白ローブの人々が映っていた。
『これが今期の『戦争大陸』に関するデータだ』
『ウエスタニア側の人口が、やや多くなりすぎてない?』
『そうなのだ。
今日の議題は、どうやってウエスタニアの人口を間引くかだ』
『イスタニア側の兵器の性能を少し上げたらどうかしら』
その後、イスタニアとウエスタニアの兵士が戦うシーンを、『平和大陸』の人々が賭け事として楽しんでいる映像が流れる。
映像が終わっても、部屋の中は、しばらく音一つしなかった。
「私たちは、何のために戦っていたんだ……」
モラー少佐が、がっくりと肩を落とす。
「しかし、この映像は本物なのか?」
幹部の一人が尋ねる。
「信じられない人には、向こうの都市をその目で見てもらいますが、どなたかそのご希望はありますか?」
俺の問いかけには、誰も答えない。
皆、映像が真実だと分かっているのだ。
「しかし、もう一つ大陸があるとして、そこまでは、ずい分と距離があるのだろう?
どうやって、物資や子供をこちらまで運んでいるのだ?」
年配の女性が、落ちついた口調でそう尋ねた。
「あちらの大陸までは、距離にして、こことイスタニア間の十倍はありますよ。
しかし、空を飛ぶ乗りものがあれば、それほど時間は掛かりません」
「そ、空を飛ぶ……」
会議室がざわつく。
「シ、シロー、さっき向こうの都市を見せると言ったが、もしかして、お前も空を飛ぶことができるのか?」
モラー少佐は、さっき自分が空を「飛んだ」ばかりだからね。
「ええ、飛べますよ」
「「「……」」」
「我々が『祝福』と呼んでいた、子供の授かりは、彼らの手によるものだったとは……!
信じられん話だ!」
モラー少佐は天井を仰ぎ、両手で頭を押さえそう言った。
既成概念がことごとく覆され、テーブルに居並ぶ女性たちは顔色を失っている。
「ただ一つ確かな事は、あなた方がイスタニアと戦争しているのは、『平和大陸』の人々がそう仕組んだものだということです」
静まりかえった会議室で、俺の声が晩鐘のように響いた。
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