564 / 607
第十二章 放浪編
第34話 ゲーム
しおりを挟む煉瓦がむき出しの壁に縦横一メートルほどの白いスクリーンが現われる。
もちろん、点ちゃんが、シールドに白い色を着け設置したものだ。
もう一つの大陸からの映像が、そこに映しだされた。
それは映画館のような場所で、前にある壁面に映像が映っている。
映像は廃墟を上空から見たもので、深緑色の軍服を着たイスタニアの兵士三人が壁の陰で身を潜めていた。
画像の左上には、緑色と赤色、二つの文字が並んで表示されており、それぞれ「3」と「5」を表していた。
数字は俺が見知った『学園都市世界』の文字だった。
イスタニアの兵士は、少し離れた所にいる赤色の軍服を着た三人を壁の陰からうかがっているようだった。赤い軍服の三人は、くつろいだ様子でおしゃべりしている。
深緑色の軍服を着た男の一人が、右手を大きく振った。
彼らは隠れていた壁から身を起こし、ボウガン型の兵器を構えると、赤い軍服の三人に狙いを定めた。
しかし、次の瞬間、その三人のうち二人が倒れる。画面上では、三人の後ろから急襲した二人の赤い軍服が映っていた。
一人残った兵士の反撃が、赤い軍服の一人を倒したが、もう一人残った方に撃たれてしまった。
おとり役としておしゃべりのフリをしていた三人が、戦闘があった場所に駆けつける。
その兵士がヘルメットを取ると、短く刈ったブロンドの髪が現われた。顔つきからして女性のようだ。
画面の数字は、緑色が「0」、赤色が「4」に変わっていた。
客席から聞こえてきた声には、喜びを表すものと落胆を表すもの両方があった。
「畜生!
こんなことならウエスタニアに賭けときゃよかったぜ!」
「ははは、男が女に勝てるわけないだろう!」
「くそう、ここんところの稼ぎがパーだぜ!」
「また勝っちゃった」
どうやら、観客席に座る人々は、画面の向こうで行われていた戦闘に賭けていたらしい。
点ちゃんシートの映像が一度消え、今度は別の場所が映しだされた。
◇
そこはかなり広い部屋で、大きな「C」字型のテーブルが置かれていた。俺は『田園都市世界』でほぼ同じテーブルを見たことがある。
その外側に沿って、十人程の男女が座っている。
部屋の奥から見た画像には、左側に女性、右側に男性が分かれて座っていた。
二十台後半から、六十代まで、年齢層はばらばらだった。
全員が、ゆったりした白いローブを羽織っている。
男女とも、長く伸ばしたブロンドの髪を、頭の上で冠状にまとめる独特の髪型をしていた。
部屋の前には大きなディスプレイがあり、そこには数値やグラフが表示されている。
右奥、ディスプレイに一番近い所に座る男性が発言した。
「これが今期の『戦争大陸』に関するデータだ」
「ウエスタニア側の人口が、やや多いのではないか?」
左奥に座る、高齢の女性が指摘する。
「そうなのだ。
今日の議題は、どうやってウエスタニアの人口を間引くかだ」
「イスタニア側の兵器の性能を少し上げたらどうかしら」
若い女性が発言する。
「人口調整に兵器改良で対応する案は、すでに何度も考えられたことだ。
武器の性能を上げはじめると、それがエスカレートしてしまう。
お前も、『ゲームオーバー』の事は知ってるだろう」
「はい。
ウエスタニア、イスタニアともに、戦略兵器を使用し、サンプル全てが失われた事件です」
「そうだ。
あれの二の舞は、もうごめんだからな」
「経済活動を活性化させ、過剰人口を処理するためには、あの大陸の『ゲーム』が必要だ」
右奥から三番目に座る男が目をつぶったまま、そう言った。
「そういえば、かつては生まれたものを殺処分していたこともあったらしいですね?」
先ほどの若い女性が尋ねる。
「お前、どうしてそれを……まあ、お前の家柄なら、知っている者もいるだろうな。
とにかく、今では殺処分などという非人道的なことは、この『平和大陸』で行われておらん」
ここで、右の奥から二番目に座る男が、おもむろに発言した。
「ところで、本題に入る前に一つ報告がある」
最初に発言した、左奥に座る年配の女性が、じろりと彼を見た。
「ライナス、いつも黙っているあなたが発言するとは珍しいわね。
いったい、何かしら?」
ライナスと呼ばれた男は、彼女の方は見向きもせず、そのまま発言を続けた。
「イスタニアで、二機の『ハエ』が故障した」
「あなた、そんな取るに足らない事を、わざわざここで持ちだすというの?」
先ほどの女性が、呆れたように言う。
しかし、続いたライナスの言葉で彼女は顔色を変えることになる。
「その『ハエ』の故障には、『稀人』が関わっているらしい」
「なんですって!」
「なんだと!」
「本当か!」
言葉は違えど、全員が驚きの声を上げた。
彼らの言葉で『稀人』というのは、異世界人のことだ。
「もし、それが本当なら、厳しく見張る必要がある」
右奥に座る老人が、厳しい口調でそう言った。
「そういえば、『ゲームオーバー』も、『稀人』が関わっていたらしいですね」
若い女性の発言で、皆の動揺が増す。
「そうなのだ。
万が一、『戦争大陸』のサンプルに、『ゲーム』の事が知られてみろ」
「あそこと、この『平和大陸』は海で遠く隔たっていますから、まさか、彼らがこの都市に攻めてきたりしないでしょうが、万一に備えないといけませんね」
三十代に見える男が、そう発言した。
「そうだな。
警備兵には、重火器を装備させておくか」
「海岸線の警戒網も強化した方がいいわね」
「現地に追加の『ハエ』を送ってはどうかしら?」
各自が口々に対策を出しはじめる。
「とにかく、この事は、ライナス、お前が責任をもって対処しろ」
右奥の老人の言葉に、ライナスが頷いた。
「ウエスタニアの人口調整に関する議論は後回しだ。
ライナスが十分な情報を集めた後、再び『賢人会議』を開こう」
◇
最後に『賢人会議』という言葉まで飛びだした映像に、俺は衝撃を受けていた。
かつて『学園都市世界』において、獣人たちを奴隷として、そして魔道具の材料として利用していた研究者グループが名乗っていたのが、まさに『賢人』だったからだ。
そして、何より、『平和大陸』の人々が、『戦争大陸』の人々をどう扱っているかということに強い嫌悪感を覚えた。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、これはまた遊べそうだね』
まあね、点ちゃんはいつもそんな感じだよね。
いつも変わらない、能天気な点ちゃんに、少し救われた気がした。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる