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第十二章 放浪編

第33話 ちぐはぐな世界(下)

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 近代的な巨大都市上空から『・』をばら撒いた後、俺は瞬間移動でイスタニアにある軍事施設の一室に戻っていた。
 質素なベッドに横たわり、ここまで集めた情報について考えてみる。

 この世界には、大きな海を挟んで大陸が二つある。                  
 大きな方の大陸には、科学が進んだ巨大都市がある。
 かなり小さなもう一つの大陸には、都市国家が二つあり、お互いに争っている。   

 それにしても、このチグハグな感じはなんだろう。
 二つの大陸で、文明の差があり過ぎる。
 そして、小さな方の大陸には、男だけしかいない国と女だけしかいない国がある。
 どう考えても矛盾が多すぎる。

 点ちゃんは、どう思う?

『(p ω・) 現在、情報を分析しています』
 
 だよね。いくら点ちゃんでも、何でも分かるわけじゃないもんね。

『d(u ω u) 何パターンかの予想はすでにできています』

 えっ!? できてるの?
 教えてください。

『(・×・) まだ情報が十分でないから教えることはできません』

 そ、そんな……ケチ。

『(; ・`д・´) ケチとは何ですか! 少しは自分で考えてください!』

 ご、ごめんなさい。
 とにかくヴァルムと話してみるか。

 ◇

 ヴァルムは任務で街の外に出たとかで、しょうがないから、俺の世話をしている少年兵に話しかけた。
 俺のことを警戒しているのか、最初は口が重かった少年だが、蜂蜜クッキーをごちそうすると、なんとか会話できるようになった。

「俺、シローっていうんだ。
 君の名前は?」

「はっ、ニコ二等兵です」

「いや、俺、君の上官じゃないから、畏まらないでくれる?」

「え、ええ」

「君は、いつ兵士になったの?」

「十二です」

「へえ、そんなに小さなときから。
 お父さん、お母さんは心配しなかった?」

「ええと、お父さんというのは、分かりますが「オカアサン」とは何でしょうか?」

 うーん、女性に偏見がある社会みたいだから、どうやって説明しようか。
 そうだ!

「君はどこで生まれたの?」

「ええと、ウマレルとはどういうことでしょう?」

「……うーん、君は鳥が卵からかえるのは知ってる?」

「それは知っていますよ」

「君はどこで……生を受けたの?」

「ああ、ウマレルって『祝福』のことでしたか」 
 
「その『祝福』ってなに?」

「神様から生を授かることです」

「生を授かる?」

「神殿で、ええと、姿を現すことです」

「ふうん。
 神殿ってどこにあるの?」

「聖なる場所ですから、部外者には教えてもらえないと思います」

「君は知ってるんでしょ?」

「それは、もちろんですよ。
 お祈りにも行きますし」

「お祈りって、何をするの?」

「お祈りはお祈りですよ」

 うーん、とりあえず、この辺でいいかな。

「ありがとう。
 君と話せて楽しかったよ」

「えっ!?
 そ、そうですか」

 なぜか、赤くなったニコ少年は、部屋から出ていった。
 俺はブランの透明化を解いた。
 彼女は、俺が何をしたいか分かっているようで、さっと肩の上に乗り、肉球を俺の額につけてきた。

 ◇

「お父さん、どんな子だろうね!」

 殺風景な街並みを背景に、大きな男性の手を握った自分が、スキップしながら歩いている。

「きっと、いい子にちがいないよ、ニコ。
 俺の息子で、お前の弟だからね。
『祝福』が楽しみだ」

 口髭を生やした大柄な男はそう言うと、朗らかに笑った。

「うわー! 
 早く会いたいなあ!」

 やがて、目の前に白い円柱型の建物が見えてきた。
 建物は二階建てで、その周囲を幅広の道が囲んでいる。
 建物の中は、やはり白一色で統一されており、広いロビーの奥には、大きな金属製の扉があった。

 扉が開き、中へ入る。
 そこは大きな空間になっており、その中央に、天井へと続く円柱があった。 

 自分が手を繋いでいる男が円柱に銀色のカードで触れると、その部分が丸く開き、白いカプセルが押し出されてきた。
 そのカプセルの蓋がゆっくり開く。
 横から覗きこむと、そこには白い布に巻かれた三才くらいの幼子が眠っていた。
 
「ほら、ニコ、お前が抱いてやりなさい」

「はい!」

 男が幼子を抱えあげ、そっとこちらに渡す。
 幼子を包んだ布は温かく、柔らかかった。
 消毒液のような匂いが漂う。

「うわーっ!
 凄く軽いね!
 柔らかい!」

「ははは、ええとね、この子の名前は、ボリスだよ」

 男はカプセルの中から銀色のカードを取りだし、それを読んだ。
 カードには、幼子の名前が書いてあったらしい。   

「ボリス、これからよろしくね!」

 ニコの声で、幼子が目を覚まし泣きだす。
 男が小型のシリンダーをカプセルから取りだし、その端を幼子の口へもっていく。
 コクコクと液体を飲む音がする。

「うわーっ! 
 美味しそうに飲んでるね!」

「そうだな。
 早く大きくなって、イスタニアのために戦う立派な兵士になってもらわないと」

 男が大きな手でニコの頭を撫でたので、視界がぐらぐら揺れた。

 

 記憶を読み、それを受けわたすことができるブランの能力で、俺はニコの記憶に潜ってみた。
 そして、男だけの社会で、どうやって子供を授かるか、その秘密を目にすることができた。
 
「点ちゃん、どう思う?」

『(pω・) カードに書いてある文字は、明らかに『学園都市世界』の文字と似ています』
 
「俺たちが昨日までいた『田園都市世界』と同じように、ここもあそこの影響を受けてるってことだね?」

『(・ω・) ニコの記憶にあった円柱形の白い建物は、『田園都市世界』にあった『旅立ちの森』の建物と、構造が酷似しています』 
 
「なるほど」

『(・ω・)ノ もう一つの大陸にあった都市からの映像も見てみます?』
 
「お願いします」
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