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第十二章 放浪編

第27話 夜明け

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 銀さんから散々引きとめられ、予定より七日程遅れて、俺は出発を決意した。
 この世界に残れば、すべきことは山ほどあるが、自分を待ってくれているだろう家族のことを考えると、いつまでも滞在を引きのばす訳にもいかない。
 銀さんには、この社会の指導者として、これからどう振舞えばいいか、できる限りのアドバイスはしておいた。
 
 出発の朝、別れがつらかったのだろう、小屋の部屋に籠っていたタムが、泣きはらした目をして表に出てきた。

「に、兄ちゃん、ヒック、ほ、本当に、ヒック、行っちゃうの?」

 その声を聞くと、後ろ髪を引かれる思いがつのる。

『(*'▽') きっと、近いうちに、また会えますよー』  

「て、点ちゃん、本当?」

 タムが俺の胸にすがりつく。

『(・ω・)つ 頼りないご主人ですが、やるときはやりますから』

「兄ちゃん、本当にまた来てくれる?」

「ああ、そうなるように全力を尽くすよ」

「絶対だよ!」

 俺は濃いブロンド色の髪を優しく撫でてやった。

「お好み焼きとカニ、また食べような」

「わーん!」

 慰めるつもりで掛けた言葉は、かえってタムを悲しませたようだ。

「シローさん、本当にありがとう。
 無理やりあなたを召喚した私たちに、こんなに良くしてくださって。
 お礼の言葉もありません。
 私たちには、豊かな世界から来たあなたに何も差しあげられるものがありません。
 せめて、これを持っていってください」

 銀さんは、布製の小袋に入れたものを俺に手渡した。
 中を見ると、虹色に輝く小石がたくさん入っている。
 
「これは、タムが見つけてきたものです。
 彼が宝物にしていたんです。
 どうか受けとってやってください」

 宝物か……ここは受けとらないと、かえって失礼だな。

「タム、ありがとう!
 大事にするよ。
 では、二人とも――」

 俺の別れの言葉は、銀さんにさえぎられた。

「そう言えば、私はあなたを救世主として召喚したのですが、最近、書物を調べていて、もっとよい呼び方を見つけました」

 銀さんは、小袋を持つ俺の右手を両手で包んでこう言った。

「英雄です。
 英雄シロー、本当にありがとう」

「え、英雄……」

 がっくり両膝を着いた俺に、銀さんが慌てて声を掛ける。

「ど、どうされました?
 急に具合でも――」

『(*´з`) 銀さん、これはもうほっとけばいいんだよ』

「そうは言っても、いったい――」

『<(`^´)> さっさと立て! 銀さんとタムが心配するだろう!』

 ひいっ! 点ちゃんが、いつになく厳しい……。

 俺はよろよろと立ちあがり、点ちゃん1号を出す。

「スゲー!」

 タムがキラキラした目で、白銀色に輝く1号の機体を見ている。
 少し元気になった彼をみて、俺はどん底の心境から少し救われた。

「じゃ、銀さん、タム、またね」

『(*'▽')つ またねー!』
 
「ミィミ!」(バイバイ!)

 ブランを肩に乗せ1号に乗る。
 機体を上昇させ、海底洞窟の方角へ向かう。
 窓から下を見ると、姿が見えなくなるまで銀さんとタムが手を振っていた。

 ◇

 点ちゃん5号『マンボウ』に乗った俺は、巨大生物やカニの攻撃を受けることなく、無事に海底洞窟までやって来た。

 ポータルの前で足を停め、点ちゃんに話しかける。

「点ちゃん、俺、タムにまた来るなんて言ったけど……」

『(・ω・) ご主人様らしくないですよ。それにきっと実現可能です』

「なんで?」

『d(・ω・) この世界は、元々ポータルズ世界群だったようですから』

 うーん、それは俺も考えていたけど。

『d(u ω u) 各種魔道具の類似性、そして学園都市世界とよく似た言語』

 それが何を意味してるの?

『(Pω・) 恐らく百五十年から二百五十年ほど前に、あちらの世界群から離れたと思われます』

 うーん、なんでそんなことに?
 まてよ、その頃って、神樹様の数が急に減った時期だよね。
 とすると、ポータルズ世界群からこの世界が切りはなされたのは――

『d(・ω・) 気づきましたか。恐らく世界群が崩壊しないよう維持するため』

 なるほど、世界群の規模を小さくして維持しやすいようにしたわけだね。
 しかし、聖樹様はその事についてお話しになられなかったよね。
 
『(・ω・) 話しても今更なにもできないし、こちらが不安になるだけですから』

 それはそうだね。
 あっ、それじゃあ、この世界にも神樹の種を植えた方がいいんじゃないの?

『d(u ω u) 小屋があった森に、すでに植えておきましたよ』 

 さ、さすが点ちゃん。
 頼りになる~。

『(n*´ω`*n) えへへ』

 では、ポータルを潜りますか。
 一方通行じゃなければいいけど。

『(・ω・)ノ 次の世界、行ってみよう!』 
「ミミー!」(おー!)

 俺はどこへ行くかも分からない黒いもやに足を踏みこんだ。
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