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第十二章 放浪編
第11話 召喚
しおりを挟む深夜になり、カフェ『ホワイトローズ』から、故郷の町外れにある『地球の家』に帰ってきた俺は、ベッドに横になり、これまであったことを思いだしていた。
加藤の不注意から、ランダムポータルを通り、異世界に転移したこと。
アリスト城でルル、リーヴァスさん、点ちゃんと出会ったこと。
パンゲア世界、獣人世界、学園都市世界、エルファリア世界、竜人世界、スレッジ世界と続く冒険者生活で、娘のナルとメルに、そして、コルナとコリーダに出会ったこと。
神樹様、おばば様、聖樹様との出会い。
竜王様や子竜たちとの出会い。
その他、多くの人たちとの出会いと別れ。
俺は今まで縁があった人たちのことを思いうかべながら、眠りについた。
俺がそんなことをするのは、めったに無い事だから、これから起こることに無意識に備えていたのかもしれない。
俺には神樹様から頂いた、『未来予知(弱)』の加護があるからね。
◇
次の日、目が覚めた俺は、朝一で温泉風呂に入ると、林先生が担任する異世界科クラスのために資料を整え、それを高校へ送っておいた。
瞬間移動で沖縄と北海道に跳び、それぞれの地にある別荘をチェックしておく。
そうこうしているうちに、お昼近くなったので、仕事を切りあげる。
さて、そろそろアリストに帰るとしますか。
俺の点収納には、焼きたてのお好み焼きが百枚入っている。
それを食べるナルとメルの顔を想像すると、思わず笑みが浮かんでくる。
さあ、点ちゃん、ブラン、アリストに、『くつろぎの家』に帰ろうか。
『(*'▽')つ 了解!』
「ミー!」(帰ろう!)
俺は左手にブランを抱き、中庭に出ると、その中心に立つ『光る木』の神樹様と、建物の中間辺りに場所を定めた。
そして、頭に浮かんだ世界群の映像からパンゲア世界を選び、『くつろぎの家』の庭をイメージして『セルフポータル』を発動させる。
いつものように、暗闇の中、エレベーターが下降するときの感覚が訪れる。
しかし、今回の転移は、いつもと違っていた。
途中で、強く横から引っぱられるような力を感じたのだ。
これは……。
俺が現われたのは、巨石の柱が円形に並ぶ、遺跡のような場所だった。
◇
「この方が救世主……?」
背後から、恐らく男の子だろう声が聞こえた。
俺が振りかえると、灰色のローブを羽織った人物と、やはり灰色のローブに身を包んだ、少年の姿があった。
背が高い方は銀の仮面を着けているので、性別も年齢も分からない。
「そのはずだ」
銀仮面が話した声は、ボイスチェンジャーを通したような、しわがれ声だった。
「この生き物は?」
いつの間にか、俺の懐から抜けだしたブランが、少年に近づいていく。
ブランは少年が差しだした手を嗅いだ後、彼の足に背中を擦りつけた。どうやら少年を敵対する人物ではないと判断したらしい。
少年の問いかけに銀仮面が答える。
「恐らく伝説にある聖獣だろう」
いえ、ただの白猫(スライム)なんですが……。
「お師匠様、この人、本当に救世主?」
少年が銀仮面に問いかける。
まあ、俺の格好は、頭に茶色の布をまき、カーキ色の長そで長ズボンと言う冒険者姿だからね。
「間違いない。
召喚によって現れたのだから」
えっ!?
今、「召喚」って言わなかった?
じゃあ、この見知らぬ場所に来たのは、この人のせい?
「救世主様、私たちをお救いください」
銀仮面が両膝を石畳に着き、頭を下げる。
この場合、返事は決まってるよね。
「嫌です」
「へっ!?」
銀仮面は地面にひれ伏したままだが、立っていた少年が、そんな声を出した。
「きゅ、救世主様ですよね!?」
少年の言葉を俺が重ねて否定する前に、銀仮面が立ちあがった。
「とにかく、ここでは話もできません。
どうぞ、こちらに」
俺は少し考えた後、すでに歩きだしていた二人を追い、足を踏みだした。
なんで、この緊急事態を点ちゃんと相談しないかって?
点ちゃんが、答えないからだよ。
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