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第十一章 ポータルズ列伝

プリンス翔太編 第5話 魔術師の誕生

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 次の日は、すごく嬉しいことがあった。やっとボクのローブが届いたんだ。
 ローブ自体は、学校に入る前にできていたんだけど、シローさんがそれにいろんな仕掛けをつけてくれたらしい。
 ヒーローからのプレゼントに、ボクは舞いあがってしまった。
 それだからか、授業で大変な失敗をすることになる。

「今日の授業は、風魔術です。
 エルフが得意な魔術として有名な風魔術ですが、人族でもこのように唱えることができます」

 若い女の先生が、呪文を唱え木の棒をすっと振ると、彼女の前に置いてあった紙が、宙に浮きあがった。
 紙は正方形で、一度四つに折って開いてある。
 そのまん中に、金属のリングが糸で吊るしてあった。

 先生の紙はふわふあ浮くと、金属リングが机から離れた。パラシュートみたいだね。
 みんなから、すごい拍手が湧く。

「カーラ先生、凄いわ」

 ドロシーが両手を胸の前で合わせて、キラキラした目で浮いた紙を見ている。

「では、みなさんも、やってみなさい」

 先生は、一人一人に金属リングがぶら下がった紙を配った。

「よーし、今日こそドロシーに負けないわよ」

 気合を入れるためか、ジーナはポニーテールを結びなおしている。

 ボクは、目の前に置かれた紙を見て困っていた。
 こんな小さなものを浮かせた経験がなかったからだ。

 ボクに魔術を教えてくれた先生が、最初の練習用に渡してくれたのは、金属製のバケツだったしね。
 こんな小さなものを、うまく浮かせることができるだろうか。

「風の力、我に従え」

 ボクは、集まってくる緑色のマナをコントロールし、細く細く絞った。
 それを小さな点のようにして、机の上に置いた紙の下で魔力として解放した。

 ブウォンッ

 はっと気がつくと、ボクは教室の後ろの壁まで飛ばされていた。
 ボクが壁に衝突しなかったのは、シローさんがローブに付けておいてくれた仕掛けのおかげだろう。
 体がローブに包まれるような状態だからね。

 教室を見まわすと、教科書や机が吹きとんで、大変な事になっていた。

 後で気がついたのだけど、マナを絞ったのがいけなかったみたい。
 風魔術とマナの関係が一つ分かったのはいいけど、みんなの授業が無茶苦茶になってしまった。
 ボクは、とても暗い気持ちになった。

 ◇

 その日放課後、ボクは学院長室に呼ばれた。
 部屋には、担任のマチルダ先生、白ひげの学院長、それからシローさんがいた。

「ショータ、頑張ってるみたいだね」

 シローさんは、少しも怒っていなかった。

「でも、シローさん、ボク、いっぱい失敗しちゃって……」

 ボクは思わず涙が出そうになった。

「ショータ、君は俺が特別な魔法を使えると知ってるだろう?」

「はい、知っています」

「その魔法を最初から上手く使いこなせていたと思うかい?」

「よ、よく分かりません」

「そりゃ、酷いものだったよ。
 何度も失敗してね。
 危うく死にかけたこともあるんだ」

「えっ!?」

「だから、君は魔術を使うのを恐れてはいけないよ。
 君がここにいるのは、持ち前の強い魔力をコントロールするのが目的だろう?
 当然、失敗することもあるだろう。
 クラスの迷惑になる事もあるかもしれない。
 だけど、魔術を使いこなせるようになった時、君は多くの人を救うだろう」

 マチルダ先生と学院長も、横で頷いている。

「失敗を恐れない事。
 失敗を後悔しないこと。
 そこから学んで前に進むこと。
 これは、魔法とつきあってきて、俺が感じてることだよ」

 シローさんは凄い人なのに、ボクと同じ目線で考えてくれている。
 ボクは涙が止まらなかった。

 マチルダ先生が、ボクに微笑みかける。

「君の担任になれて、私は光栄だわ」

 学院長が笑っている。

「ふぉふぉふぉ、この学園から偉大な魔術師が誕生しそうじゃの。
 楽しみじゃわい」

 シローさんが立ちあがり、ボクを抱きしめてくれた。
 ボクは、絶対凄い魔術師になってやる。
 きっとこの日が、魔術師としてのボクが生まれた日だったと思う。
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