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第十一章 ポータルズ列伝

プリンス翔太編 第4話 土の塔

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「さあ、今日は、土魔術を使ってみましょう」

 小太りで背が低い中年女性、メメトス先生が、皆の前で授業を開始の合図をする。
 生徒はそれぞれ、二人ずつになっている。

「初めての授業だから、ショータは見学しておくといいわ」

 先生は優しくそう言うと、皆の実技を指導しに行った。
 実技場の床は地面なんだけど、それを利用して土魔術を唱えているみたい。

 ボクはやることが無いから、みんなの実技を見学していた。
 どうやら、土で塔を造る魔術を練習しているらしい。

 小指の先くらいの小さなものから、コケシくらいの大きさまで、いろいろな塔ができていく。
 できた塔について、パートナーがコメントをしてるみたい。

 コケシくらいまでの大きさしか造らないのは、どれだけ小さな塔を造れるのか競っているのかもしれない。

「ああ悔しい、あんたにだけは負けたくないのに!」

 ジーナとドロシーが、パートナーになっている。

「悔しかったら、私より大きな塔をつくりなさい、ジーナ。
 ホホホホ」

 あれ? おかしいな。塔の小ささを競ってるんじゃないの?
 メメトス先生が近くに来たので尋ねてみる。

「先生、みんなは、なるべく小さな土の塔を造ろうとしてるんですよね?」

「まあ、ショータ君ったら、そんな冗談言って。
 大きい方が良いに決まってるじゃありませんか」

 先生が面白そうに笑う。

「もし、塔が作れるならショータ君も、試していいのよ」

「でも、先生。
 ここで造ると、天井が壊れちゃいますよ」

「ハハハ。
 もう、ショータ君って真面目そうな顔をして面白い子なのね。
 上を見てごらんなさい、あんなに高いところまで塔が届くはずないでしょ」

「で、でも――」

「さあ、先生が見ていてあげるから、土の塔を造ってごらんなさい」

「でも、天井が壊れちゃうから――」

「そんなことありませんよ。
 先生にどーんと任せなさい」

 メメトス先生はそう言うと、ぽよ~んと自分のふくよかな胸を叩いて見せた。
 もしかすると、ここの天井は、無茶苦茶頑丈に造られているのかもしれない。
 それなら、塔が途中で止まるだろうからね。

 ボクは思いきって、小さめの土の塔を造ることにした。
 先生の前だから、詠唱を始める。

「大地の力、我に従え」

 ボクがそう唱え、茶色いマナが一気に集まると、地面から土の塔がすうっと伸びた。
 それは、あっという間に天井に迫る。
 そして、やっぱり天井を突きやぶってしまった。
 天井から、ガラガラといろんなものが落ちてきたから、風魔術で受けとめてゆっくり下に降ろす。

 あーあ、やっぱりね。

 ボクは、すぐに土の塔を消した。
 メメトス先生は、お尻からペタンと地面に倒れて、青い顔をしている。

「な、何が起きたの……?」

 ボクは、先生の手を両手で引っぱったけれど、重くて立たせることができない。
 だから、先生の下から風魔術で支えて、やっと立たせた。

「先生、天井を壊しちゃいました。
 ごめんなさい」

「い、いえ、あなたは悪くないのよ、あなたは……」

 先生は、変なものを見るような顔でボクを見ていた。

 周囲を見まわすと、クラスのみんなが石になったように停まっている。
 みんな、どうしちゃったのかな。

 ◇

 学園からお城へ帰る途中、ルイに土魔術の実習授業であったことを話すと、少し驚いた顔をしてこう言った。

「ショータ様が魔術を使うと、そんなことが起こるかもしれないと、ハートン叔父様からうかがっています。
 プリンスは、遠慮なく魔術の練習をなさってください」

 そうだね。土魔術の練習は実技場の外ですればいいだけだもんね。
 ボクは少し安心した。
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