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第十一章 ポータルズ列伝

プリンス翔太編 第3話 氷の魔女

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 初日の授業が終わると、ボクは数人の男子から呼びだしを受けた。

 日本にいた時は、親の職業からか、こういう事は無かったんだけどね。
 しかし、シローさんは凄い。ボクに、こういうことがあるはずだからとアドバイスしてくれてたんだ。さすが、ボクのヒーローだね。

 呼びだされた場所は、実技棟の裏だった。
 地球と違い、この世界の学校では部活動がないからだろう、そこへ行く途中、運動場には誰もいなかった。

 ヒゲが生えた男の人と、その後ろに同級生の男子が三人いた。全員ボクより年上のようだ。
 ヒゲ男が、さっそく話しかけてきた。

「おい、おめえ、ショータってったか。
 生意気なんだよ、お前!」

 ボクより頭二つ分くらい大きな彼が、こちらを見おろしている。
 でも、ボクは全く怖くなかった。地球にいたとき、もっと怖い思いをしたことがあるからね。
 それにね、こんなヤツには負けられない理由があるんだ。

「あんた誰?」

「なんだとっ! 
 知らねえのか? 
 ペータさんだぞ!」

 取りまきの一人が声を荒げたけど、ボクは思わず吹きだしそうになった。
 だって、ヒゲ男の名前が、昔のアニメに出てくる、『ヤギの大将』に似てたから。
 その上、この人のヒゲもいわゆるヤギヒゲだし。

 怖がらないボクが気に入らなかったのか、ヒゲ男は、ボクの胸を太い腕で突こうとした。
 ボクは、それに合わせて風魔術を発動する。

 普通の人は詠唱しないと魔術が使えないみたいだけど、ボクには関係ないみたい。
 緑のマナが、一瞬でボクの周りに集まってくる。
 ボクの胸を突きとばそうとする男の腕とボクの間に、あっという間に風の壁ができた。

 男は突きだした腕が横に逸れ、驚いている。

「な、なんだ?」

 自分が突きだした手があらぬ方向に向かったのだから、彼が戸惑うのも当たり前だね。
 ヒゲ男は、もう一度ボクを押そうとした。その手が、また横に逸れる。

「ど、どうしたってんだ!?」

 ボクは、自分の前に立っている四人のクラスメートの足元を、風の塊で薙ぎはらった。
 全員の足が宙に浮き、見事に転んだ。
 背中から地面に落ちた人もいた。うわっ、痛そう。

「お話が無いなら、もう帰りますね」

 地面に這いつくばる四人をそのままにして、ボクは家路についた。

 ◇

 次の日、ルイと一緒に学院に行くと、校門の所に昨日の四人が立っていた。
 なぜか、四人とも、体のあちこちに包帯を巻いている。
 あれ? おかしいな。昨日の風魔術で、そこまでひどいケガをするはずないのに。

「「ショータ様、姉さん、お早うございます」」

 四人が腰を直角に曲げて、こちらにお辞儀をしてる。なんなんだろう、これは?

「ルイさん、この人たち、どうしちゃったの?」

「さあ、いったいどうしたのかしら」

 ルイは、まるで四人がそこにいないかのように、さっさと校舎に向かう。
 気に掛かったけど、ボクもその後を追った。
 ルイは、昨日のように教室の入口までついて来た。

 ボクがドアを開けると、教室の中にいたポニーテールのジーナ、眼鏡のドロシー、お姉さんキャラのララーナさんが、ビクッとこちらを見た。

 ルイさんを見ると、ボクの後ろで微笑んでいる。どこかで見たような笑顔だね。
 ああ、そうか。お姉ちゃんが怒ったときにする笑顔に似てるんだ。
 昨日、ボクにやたら話しかけてきた三人は、なぜか座ったままで俯いている。

「ショータ様、では、またお帰りの時に」

 ルイさんは、さっきまでとは違う、優しい笑顔を見せると去っていった。
 ボクの隣に座っている男の子が話しかけてくる。

「ショータ、君って凄いね」

「どうして?」

「ルイさんは、『氷の魔女』って呼ばれていて、下級生はもちろん、上級生も気安く近寄れないんだよ」

「なんで?」

「彼女は、水魔術が得意なんだ。
 特に、氷を使った攻撃魔術がね」

「ふうん、そうなの?」

 ボクは、そのうちルイから水魔術の温度変化について習おうと考えていた。
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