487 / 607
第十一章 ポータルズ列伝
銀髪の少女編 第8話 ナルとメル、嬉しくなる
しおりを挟む
『たちあいにん』になった女の人が後ろに下がると、ブロワがこう言ったの。
「サプライズ子爵家当主が一子《いっし》ブロワ、参る」
けっとーって、むずかしい言葉を使うのね。なに言ってるのか分からないわ。
おヒゲはジュモンを唱えてるわね。あれは、火のジュモンね。
ウチのコルナお姉ちゃんが得意だから知ってるの。
でも、呪文を唱えるなんてダメね。
パーパなんて呪文を唱えなくてもすごい魔法が使えるんだから。
ああ、おヒゲのおじさんは、火の玉を飛ばす魔術でメルを狙うみたいね。
まあ、やってみればいいわ。
ブロワは、剣で私にかかってくるみたい、
最初におヒゲの火の玉が、メルに向かって飛んだわ。
メルは、ひょいってよけてる。
当り前よね。あんな遅い魔術なんて、当たるはずがないわ。
よそ見してたから、ブロワがすぐ近くに来てたの。
剣で私に切りかかってきたけど、それは遅すぎて、あくびが出るくらいだったわ。
剣をかわした私が、ブロワの胸をちょんと押すと、彼はころころ転がって、輪になって見ている人たちの外まで出ちゃった。
ブロワは倒れたままだから、あとはおヒゲのおじさんね。
あれ?
メルしかいない。
あー、あんな遠くの木から足が生えてる。
私とメルは、本当はエインシェント・ドラゴンだから、人族より少し力が強いの。
(作者注:エインシェント・ドラゴン=古代竜、竜の上位種、人化能力を持つ)
周りを取りかこんでいた生徒たちから、すごいハクシュ。
お姉ちゃんたちが、メルにお菓子を渡してる。
あんなに食べるとママにしかられちゃうから、半分もらってあげるわ。
◇
私たち二人がみんなに取りかこまれていると、まっ赤な顔をした、太ったおじさんがドスドス走ってきたの。
誰だろう。
「決闘は中止じゃ。
いや、やり直しじゃ」
『たちあいにん』をした女の人が、前に出てくる。
「私は今回の決闘の立会人ですが、あなたは?」
「ワシは、サプライズ子爵じゃ。
お前は誰じゃ」
「分からないの?」
あれ? よく聞くと、この声、どこかで聞いたことある。
「どこの馬の骨とも知れぬ者を、知っとるはずがなかろうが!」
女の人は、少し笑ったように見えたわ。
それから、ゆっくり帽子を取ったの。
きれいな長い黒髪がふわりと広がった。
やっぱり。
あの声、どこかで聞いたことがあると思ったんだよね。
「サプライズ、主《あるじ》の顔を忘れたか」
「ゲッ!
じょ、女王陛下……」
私、「ゲッ」って言った人、初めて見た。
「あっ、じょおーさまー」
メルが女王様にくっついてる。
私も、女王様にくっついちゃお。
「二人とも大変だったね」
女王様が、私たちの頭をいい子いい子してくれたの。
「あ、パーパ!」
急にすぐそばにパーパが現れてびっくりしたの。
これもパーパの魔法なの。
「ボー、あんたこの子たちに何かあったらどうするの!」
なんかパーパがしかられてる。
「い、いや、そうならないように――」
「万一があるでしょうが、万一が!」
「そ、それはそうだけど……」
「まあ、いいわ。
久しぶりに、いい気分転換になったから」
そこで女王様はくるりと振りかえって、膝をついているおじさんの方を見た。
「サプライズ、お前と息子の行状は、本来なら爵位抹消と領地取りあげじゃ」
「そ、それだけは、それだけは、どうかご勘弁を」
サプライズは、女王様の前でガマルみたいになってるの。
青くなってるからよけいにガマル。(作者注:ガマル=地球のカエルに似た魔獣)
「だが、この男がそういう処分は望まぬからの」
女王様がパーパの方を指さした。
「お主の処分は、保留といたそう」
サプライズが、ホッとした顔をしたわ。
こいつ、甘いわね。
「ただし」
女王様が、少し笑いながら次の言葉を言ったの。
すごくきれいな女王様がそうすると、とっても怖い。
「これから、ナル、メルに誰かから決闘の申しこみや襲撃があれば、それが誰であれ、保留は取りけしじゃ」
「ひいいっ!」
「よくよくこの二人の周囲に気をつけることじゃ」
さすが女王様ね。
さっきまで敵だったサプライズ家が、いつのまにか、たのもしい味方になってる。
「ああ、ボー、この後、あんたん家のあれに入りに行ってもいいわよね」
パーパの名前はシローなんだけど、女王様と勇者だけは、ボーって呼ぶの。
女王様がパーパに言ってるのは、屋上にある『おんせんじゃぐじー』ね。
時々おしのびで入りにきてるもん。
パーパは大げさなおじぎをして、こう言ったの。
「かしこまりました、女王様」
「馬鹿っ!」
パーパと女王様は『しんゆー』だから、いつもこんな感じなの。
◇
次の日から、学校では、イジメがなくなったみたい。
キャシーの笑顔がすごく増えたの。
だから、私もメルもとってもうれしいの。
「サプライズ子爵家当主が一子《いっし》ブロワ、参る」
けっとーって、むずかしい言葉を使うのね。なに言ってるのか分からないわ。
おヒゲはジュモンを唱えてるわね。あれは、火のジュモンね。
ウチのコルナお姉ちゃんが得意だから知ってるの。
でも、呪文を唱えるなんてダメね。
パーパなんて呪文を唱えなくてもすごい魔法が使えるんだから。
ああ、おヒゲのおじさんは、火の玉を飛ばす魔術でメルを狙うみたいね。
まあ、やってみればいいわ。
ブロワは、剣で私にかかってくるみたい、
最初におヒゲの火の玉が、メルに向かって飛んだわ。
メルは、ひょいってよけてる。
当り前よね。あんな遅い魔術なんて、当たるはずがないわ。
よそ見してたから、ブロワがすぐ近くに来てたの。
剣で私に切りかかってきたけど、それは遅すぎて、あくびが出るくらいだったわ。
剣をかわした私が、ブロワの胸をちょんと押すと、彼はころころ転がって、輪になって見ている人たちの外まで出ちゃった。
ブロワは倒れたままだから、あとはおヒゲのおじさんね。
あれ?
メルしかいない。
あー、あんな遠くの木から足が生えてる。
私とメルは、本当はエインシェント・ドラゴンだから、人族より少し力が強いの。
(作者注:エインシェント・ドラゴン=古代竜、竜の上位種、人化能力を持つ)
周りを取りかこんでいた生徒たちから、すごいハクシュ。
お姉ちゃんたちが、メルにお菓子を渡してる。
あんなに食べるとママにしかられちゃうから、半分もらってあげるわ。
◇
私たち二人がみんなに取りかこまれていると、まっ赤な顔をした、太ったおじさんがドスドス走ってきたの。
誰だろう。
「決闘は中止じゃ。
いや、やり直しじゃ」
『たちあいにん』をした女の人が、前に出てくる。
「私は今回の決闘の立会人ですが、あなたは?」
「ワシは、サプライズ子爵じゃ。
お前は誰じゃ」
「分からないの?」
あれ? よく聞くと、この声、どこかで聞いたことある。
「どこの馬の骨とも知れぬ者を、知っとるはずがなかろうが!」
女の人は、少し笑ったように見えたわ。
それから、ゆっくり帽子を取ったの。
きれいな長い黒髪がふわりと広がった。
やっぱり。
あの声、どこかで聞いたことがあると思ったんだよね。
「サプライズ、主《あるじ》の顔を忘れたか」
「ゲッ!
じょ、女王陛下……」
私、「ゲッ」って言った人、初めて見た。
「あっ、じょおーさまー」
メルが女王様にくっついてる。
私も、女王様にくっついちゃお。
「二人とも大変だったね」
女王様が、私たちの頭をいい子いい子してくれたの。
「あ、パーパ!」
急にすぐそばにパーパが現れてびっくりしたの。
これもパーパの魔法なの。
「ボー、あんたこの子たちに何かあったらどうするの!」
なんかパーパがしかられてる。
「い、いや、そうならないように――」
「万一があるでしょうが、万一が!」
「そ、それはそうだけど……」
「まあ、いいわ。
久しぶりに、いい気分転換になったから」
そこで女王様はくるりと振りかえって、膝をついているおじさんの方を見た。
「サプライズ、お前と息子の行状は、本来なら爵位抹消と領地取りあげじゃ」
「そ、それだけは、それだけは、どうかご勘弁を」
サプライズは、女王様の前でガマルみたいになってるの。
青くなってるからよけいにガマル。(作者注:ガマル=地球のカエルに似た魔獣)
「だが、この男がそういう処分は望まぬからの」
女王様がパーパの方を指さした。
「お主の処分は、保留といたそう」
サプライズが、ホッとした顔をしたわ。
こいつ、甘いわね。
「ただし」
女王様が、少し笑いながら次の言葉を言ったの。
すごくきれいな女王様がそうすると、とっても怖い。
「これから、ナル、メルに誰かから決闘の申しこみや襲撃があれば、それが誰であれ、保留は取りけしじゃ」
「ひいいっ!」
「よくよくこの二人の周囲に気をつけることじゃ」
さすが女王様ね。
さっきまで敵だったサプライズ家が、いつのまにか、たのもしい味方になってる。
「ああ、ボー、この後、あんたん家のあれに入りに行ってもいいわよね」
パーパの名前はシローなんだけど、女王様と勇者だけは、ボーって呼ぶの。
女王様がパーパに言ってるのは、屋上にある『おんせんじゃぐじー』ね。
時々おしのびで入りにきてるもん。
パーパは大げさなおじぎをして、こう言ったの。
「かしこまりました、女王様」
「馬鹿っ!」
パーパと女王様は『しんゆー』だから、いつもこんな感じなの。
◇
次の日から、学校では、イジメがなくなったみたい。
キャシーの笑顔がすごく増えたの。
だから、私もメルもとってもうれしいの。
0
お気に入りに追加
333
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします
吉野屋
ファンタジー
竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。
魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。
次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。
【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる