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第十一章 ポータルズ列伝

銀髪の少女編 第2話 ナルとメル、授業見学する

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 大きな建物の中は、広い廊下がずっと続いてた。
 左右には閉まった扉がたくさんあって、中で話し声が聞こえてるから、あれがきっと『きょーしつ』ね。
 でも不思議なことに、聞こえてくるのは一人の声だけだわ。
 誰かが一人だけでおしゃべりしてるのかしら。

 女の人が足をとめて扉を開いた。
 中からおヒゲをはやした男の人が出てきたの。

「ファーグス先生、こちらがお話していた方です」

「ああ、シロー殿ですか。 
 お子様はお二人ですね。
 見たところ、このクラスくらいのご年齢ですね。
 どうぞ、お入りになってください」

 私たちは、パーパとマンマと一緒に教室に入ったの。
 教室は、ウチの庭を半分にして、それをまた半分にしたくらいの広さで、たくさん子供たちが座っていたわ。

 皆がこちらを向いて座っているの。

「今日、ご見学になられるナルさんと、メルさんだ。
 みなさん、仲良くしてあげなさい」

「「「はーい」」」

不思議ね、みんなが同時に声を出したわ。
どういう仕掛けになってるのかしら。

「それでは、教室の後ろでご見学ください」

 先生がそう言ったので、私たちは、並んだ机の間を後ろまで歩いたの。
 みんながパーパの方を向いているの。
 何でだろう。

 子供たちの声に『クロガネ』や『ポンポコリン』っていう言葉が混ざっているから、みんな冒険者としてのパーパを知っているのね。

 クロガネっていうのは、冒険者の階級で一番上なの。
 パーパは若いのにクロガネなんだよ。
 あまりいないんだよ。じーじもクロガネだけど。

 ポンポコリンっていうのは、パーパがリーダーをしている『ぱーてぃ』の名前で、すごく有名なんだって。

 授業が始まって、ファーグス先生が前に立つと、だれもおしゃべりしなくなったの。
 ああ、だから廊下で聞いたとき、一人だけ話してるのが聞こえたんだね。

 授業は、数についてだったわ。

「白い石一つと、青いい石二つ、赤い石三つがある」

 教室の前の黒い壁に、先生が魔道具で絵を描いてる。
 丸が六つあるから、さっき話したことを絵にしたのね。
 なんでそんなことをするのかしら。
 みんな先生が書いた丸を数えているみたい。
 なんでかしら。 

 ここの黒い壁くらいなら、いっぱいに丸を書いても一目で数が分かると思うけど。
 私とメルはパーパがよく連れていってくれる河原で、いつも一目で石ころ全部の数を当てっこしてるの。
 晴れた夜なら屋上で、空に見える星で当てっこすることもあるわ。
 そんなの簡単よね。

 私は、パーパの袖《そで》を引っぱった。

「パーパ、なんでこんなことしてるの?」

 パーパは少し困った顔をしたけれど、にっこり笑って説明しれくれたわ。

「そうだね。 
 ナルには簡単かもしれないけど、人の話をよく聞くのは大事なことだよ」

 なるほどー、そのためにやってたのか。
 私はちょっと納得した。
 分かりきったことを、じっと座って聞くのは大変だもんね。

 それからも、じっと座って聞く授業は続いた。
 メルがあくびしている。
 確かにこれは大変だ。
 授業が終わったとき、メルはほとんど寝ちゃうところだった。

「メル、メル、終わったわ」

 マンマがメルに話しかけている。
 メルは寝ぼけまなこでマンマにくっついている。
 私もそうしたかったけど、我慢した。

 皆が、ノートと筆を持ってパーパの所へ集まってくる。

「シローさん、サインください!」
「私もサインお願いしまーす」

 パーパは嫌な顔もせずに、〇の上に△が二つ付いたサインをしている。

「やったー! 
 クロガネシローのサインだー!」

 サインをもらった子が、叫びながら教室を出ていく。
 でも、私はそれがパーパのサインではなくて、パーパの会社、『ポンポコ商会』のマークだって分かっちゃった。
 パーパって、ときどきこういうイタズラをするんだよ。

 その日は、学校から帰るとき、『カラス亭』っていうところで、すごく美味しい料理を食べたんだ。
 パーパとマンマも料理がじょうずだけど、やっぱりプロの料理は一味違うわ。

 ◇

 次の日起きると、パーパが話しかけてきたの。

「ナル、メル、学校はどうだった?」

「眠かったー」

 メルは正直ね。

「うーん、よく分からない」

 私は、そう答えておいた。

「ナル、メル、学校行ってみたいかい?」

 パーパとマンマも、どうするか決めかねているみたい。
 昨日遅くまで二人の話し声がしてたから分かるんだ。
 私は思いきって言ってみた。

「とりあえず、行ってみる」

 一回だけの見学じゃ、分からないかもしれないからね。

「そうか。 
 じゃ、来週から行ってみるかな」

 パーパはそう言って笑っていたけど、少し心配しているのも分かっていたの。
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