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第十章 奴隷世界スレッジ編
第82話 報酬と感謝11
しおりを挟むコルナ、ナル、メルを連れ、アリストに帰ってきた俺は、家族全員を連れ天竜国へ来ている。
竜王様に『神樹戦役』の顛末をお話しする必要があるからね。
俺が竜王様と話している間、ナルとメルは真竜の姿に戻り、他の子竜たちと遊んでいた。
ルル、コルナ、コリーダは、彼女たちが育てた子竜を甘やかせている。
竜王様とのお話が終わり、俺が子竜たちの方へ向かうと、三匹の子竜がちょこちょこ走ってきた。
二体はナルとメルだが、あと一体がよく分からない。
強いて言えば、真竜であるナルとメルの特徴を半分ずつ持った姿だ。
こんな子竜いたっけ?
ナルとメルが人化して俺にぶつかってきたとたん、その子竜が誰か分かった。
元の姿になってコリーダにまとわりついている。
猪っ子コリンが子竜の姿になっていたのだ。
そういえば、コリンは覚醒して『変化者』になっていたっけ。
どうも、その能力は、コリンが思うような形になれるようだ。
ウリ坊の姿に戻ったコリンは子竜たちの人気者で、みんなから翼で撫でられ、目を細めていた。
◇
竜王様、天竜の長に、神樹の種を渡した俺は、ナル、メル、リーヴァスさん、そしてあと「一人」を連れ、竜人国に降りた。
青竜族の都にある、ポンポコ商会を訪れるためだ。
店の前に現れた俺の姿を見て、近所の店主たちが飛びだしてきた。
「シローさん、シローさん、あんた世界群を救ってくれたんだって。
ホント、ありがとうねえ」
「さすが、ナルちゃんメルちゃんのお父さんだぜ!」
「やっぱり、竜王様に認められる方はどこか違うと思ってたんだよ」
以前は、俺を畏(おそ)れてぎこちなかった店主たちがみな親しく挨拶してくれる。
どういうことだろう。
とにかく、挨拶を返してポンポコ商会の店舗に入る。
「リーダー!
よくご無事で!」
「お帰りなさい!」
「ナルちゃん、メルちゃん、お帰りー!」
店員が騒いでいるのを聞きつけ、奥からネアさんとイオが出てくる。
「お兄ちゃん、お帰りーっ!」
イオはすぐに俺の首に手を回し、抱きついた。
「リ、リーヴァス様、ご無事で何よりです」
ネアさんは、リーヴァスさんの前でモジモジしている。
「みなさん、お変わりないようですな」
「はい、元気です……」
ネアさんは、赤くなって黙ってしまった。
「リーヴァスさん、店の奥で、ネアさんに『神樹戦役』のお話をしてもらえますか?」
「いいですぞ。
ささ、ネアさん、ご案内くだされ」
「はいっ!」
これで二人きりのセッティング完了と。
『( ̄ー ̄) 最近、どうもご主人様が黒いですね』
「ミミミ」(全くです)
点ちゃんとブランの会話は相変わらずだな。
表扉に臨時休業の札を掛け、みんなでおしゃべりしていると、ガラリと引き戸を開け、白竜族のジェラードが入ってきた。その後ろには、黒竜族の女性リニアと赤竜族の族長ラズローもいる。
「シロー殿、この度のお力添え、感謝いたします」
ラズローの声に合わせ、彼を含む三人が頭を下げる。
「ははは、お気にせず。
それより、これからギルドの方へ行こうと思ってたのですが」
「そう思い、急ぎ参りました。
今、ギルドは建設中でして。
シローさんがおっしゃっていたように、『デジマ』という区画を造り、そちらに建てることにしました」
ラズローを含め三人は片膝を着いたままだ。
「みなさん、俺が堅苦しいのが苦手だってご存じでしょう。
どうか、以前のようにしてください」
「では、そのようにいたします」
三人は、店員が出してくれた椅子に座った。
「シロー様、スレッジ世界では、仲間の救出、治療にお力を貸してくださってありがとう」
「リニア、まだ堅苦しいよ。
友達口調でお願いするよ」
「は、はい、でも……」
「ジェラードよ、どうしたのだ?」
ラズローが話しかけても、ジェラードは動かない。じっとある人物を見つめている。
それはコリーダだった。
整った白い顔を赤く染めたジェラードが、椅子から立ちあがる。
彼はコリーダの前にひざまずくと、大胆にも彼女の手を取り、それに口づけした。
何で俺が黙って見てるかって?
コリーダは、口づけを受けた手をさも嫌そうに振ると、その手でジェラードの額をドンと押した。
「うへっ!?」
ジェラードが後ろに倒れる。
「コリン、おいで」
俺の声で、コリーダに変身していた猪っ子コリンが元の姿になり飛びついてきた。
鼻面を俺の手に押しあて、フゴフゴ言っている。
彼の好物であるイモに似た植物を出してやる。
コリンは目を細め、それを食べている。
「コリーダ様が、コロンに!?」
ジェラードが倒れたまま、呆然とした顔をしている。
コロンと言うのは、この世界にいる猪に似た魔獣のことだろう。
「では、そこのマヌケは放っておいて、『神樹戦役』のことをお話ししますよ。
大方は、リニアから聞いていると思いますが……」
俺が話しおえると、ラズローはため息をついた。
「世界群は、本当に危なかったのですね」
「そうなんです。
聖樹様によると、一応、危機は脱しました」
「しかし、神樹様を伐採するような不届き者がまた現われたら……」
「そうです。
再び世界群に危機が訪れるでしょう」
「シロー殿、ギルドへの指名依頼ですが……」
「ああ、ラズローさん、分かっていますよ。
この世界における神樹の調査ですね。
それは、ある人物がいた方がいいので、また日を改めて行います。
ギルドの建物ができたら、すぐに期限なしの指名依頼を出しておいてください」
「パーティ・ポンポコリン宛てですな?」
「ええ、それでお願いします。
それから、聖樹様から、ご褒美として神樹の種を頂いておりますから、適当な場所に植えてください」
点収納から神樹の種を五つ取りだすと、それをラズローに手渡した。
「こ、このように貴重なものを……」
神樹の種を載せたラズローの手が震えている。
しっかり者のリニアがさっとそれを受けとり、袋に入れた。
「しかし、シロー殿。
我ら竜人は、あなた方にあれだけ酷い事をしたのに、どうして行く先の分からぬポータルを渡ってまで、囚われた竜人をお救いくださったのですか?」
彼が言う「酷い事」とは、黒竜族が俺たちに散々悪さをしたことだろう。
ラズローが真剣な目で俺を見ている。
「俺たちの仲間であるリニアとエンデもさらわれましたから。
まあ、彼女たちがいなくても同じことをしたと思いますが」
「どうしてそこまで竜人のために?」
「いや、俺はなんとなくやりたいからやってるだけですから。
それに、救いに行かないと加藤が許さないでしょう」
「英雄と勇者。
まさしく、その名にふさわしいですな」
「ちょ、ちょっと待ってください!
英雄という言葉だけは使わないように。
これだけはくれぐれも頼みますよ」
「しかし、スレッジ世界から帰還した者たちが、皆その話をしていますから、もうすでにその名が広まっていますよ」
えっ!?
なんでそんなことに?
俺と目を合わせたリニアが、いまだに床に腰を着き、アワアワ言っているジェラードの方を見る。
また、ヤツか!
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