上 下
471 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第82話 報酬と感謝11

しおりを挟む


 コルナ、ナル、メルを連れ、アリストに帰ってきた俺は、家族全員を連れ天竜国へ来ている。
 竜王様に『神樹戦役』の顛末をお話しする必要があるからね。

 俺が竜王様と話している間、ナルとメルは真竜の姿に戻り、他の子竜たちと遊んでいた。
 ルル、コルナ、コリーダは、彼女たちが育てた子竜を甘やかせている。

 竜王様とのお話が終わり、俺が子竜たちの方へ向かうと、三匹の子竜がちょこちょこ走ってきた。
 二体はナルとメルだが、あと一体がよく分からない。
 強いて言えば、真竜であるナルとメルの特徴を半分ずつ持った姿だ。
 こんな子竜いたっけ?

 ナルとメルが人化して俺にぶつかってきたとたん、その子竜が誰か分かった。
 元の姿になってコリーダにまとわりついている。
 猪っ子コリンが子竜の姿になっていたのだ。

 そういえば、コリンは覚醒して『変化者』になっていたっけ。
 どうも、その能力は、コリンが思うような形になれるようだ。

 ウリ坊の姿に戻ったコリンは子竜たちの人気者で、みんなから翼で撫でられ、目を細めていた。

 ◇

 竜王様、天竜の長に、神樹の種を渡した俺は、ナル、メル、リーヴァスさん、そしてあと「一人」を連れ、竜人国に降りた。
 青竜族の都にある、ポンポコ商会を訪れるためだ。
 
 店の前に現れた俺の姿を見て、近所の店主たちが飛びだしてきた。

「シローさん、シローさん、あんた世界群を救ってくれたんだって。
 ホント、ありがとうねえ」
「さすが、ナルちゃんメルちゃんのお父さんだぜ!」
「やっぱり、竜王様に認められる方はどこか違うと思ってたんだよ」

 以前は、俺を畏(おそ)れてぎこちなかった店主たちがみな親しく挨拶してくれる。
 どういうことだろう。
 とにかく、挨拶を返してポンポコ商会の店舗に入る。

「リーダー!
 よくご無事で!」
「お帰りなさい!」
「ナルちゃん、メルちゃん、お帰りー!」

 店員が騒いでいるのを聞きつけ、奥からネアさんとイオが出てくる。

「お兄ちゃん、お帰りーっ!」

 イオはすぐに俺の首に手を回し、抱きついた。 

「リ、リーヴァス様、ご無事で何よりです」

 ネアさんは、リーヴァスさんの前でモジモジしている。

「みなさん、お変わりないようですな」

「はい、元気です……」

 ネアさんは、赤くなって黙ってしまった。

「リーヴァスさん、店の奥で、ネアさんに『神樹戦役』のお話をしてもらえますか?」  
「いいですぞ。
 ささ、ネアさん、ご案内くだされ」

「はいっ!」

 これで二人きりのセッティング完了と。

『( ̄ー ̄) 最近、どうもご主人様が黒いですね』 

「ミミミ」(全くです)

 点ちゃんとブランの会話は相変わらずだな。
 表扉に臨時休業の札を掛け、みんなでおしゃべりしていると、ガラリと引き戸を開け、白竜族のジェラードが入ってきた。その後ろには、黒竜族の女性リニアと赤竜族の族長ラズローもいる。 

「シロー殿、この度のお力添え、感謝いたします」

 ラズローの声に合わせ、彼を含む三人が頭を下げる。

「ははは、お気にせず。
 それより、これからギルドの方へ行こうと思ってたのですが」

「そう思い、急ぎ参りました。
 今、ギルドは建設中でして。
 シローさんがおっしゃっていたように、『デジマ』という区画を造り、そちらに建てることにしました」

 ラズローを含め三人は片膝を着いたままだ。

「みなさん、俺が堅苦しいのが苦手だってご存じでしょう。
 どうか、以前のようにしてください」

「では、そのようにいたします」

 三人は、店員が出してくれた椅子に座った。

「シロー様、スレッジ世界では、仲間の救出、治療にお力を貸してくださってありがとう」

「リニア、まだ堅苦しいよ。
 友達口調でお願いするよ」

「は、はい、でも……」

「ジェラードよ、どうしたのだ?」

 ラズローが話しかけても、ジェラードは動かない。じっとある人物を見つめている。
 それはコリーダだった。

 整った白い顔を赤く染めたジェラードが、椅子から立ちあがる。
 彼はコリーダの前にひざまずくと、大胆にも彼女の手を取り、それに口づけした。

 何で俺が黙って見てるかって?

 コリーダは、口づけを受けた手をさも嫌そうに振ると、その手でジェラードの額をドンと押した。

「うへっ!?」

 ジェラードが後ろに倒れる。

「コリン、おいで」

 俺の声で、コリーダに変身していた猪っ子コリンが元の姿になり飛びついてきた。
 鼻面を俺の手に押しあて、フゴフゴ言っている。
 彼の好物であるイモに似た植物を出してやる。
 コリンは目を細め、それを食べている。

「コリーダ様が、コロンに!?」

 ジェラードが倒れたまま、呆然とした顔をしている。
 コロンと言うのは、この世界にいる猪に似た魔獣のことだろう。
 
「では、そこのマヌケは放っておいて、『神樹戦役』のことをお話ししますよ。
 大方は、リニアから聞いていると思いますが……」

 俺が話しおえると、ラズローはため息をついた。

「世界群は、本当に危なかったのですね」

「そうなんです。
 聖樹様によると、一応、危機は脱しました」

「しかし、神樹様を伐採するような不届き者がまた現われたら……」

「そうです。
 再び世界群に危機が訪れるでしょう」

「シロー殿、ギルドへの指名依頼ですが……」

「ああ、ラズローさん、分かっていますよ。
 この世界における神樹の調査ですね。
 それは、ある人物がいた方がいいので、また日を改めて行います。
 ギルドの建物ができたら、すぐに期限なしの指名依頼を出しておいてください」

「パーティ・ポンポコリン宛てですな?」

「ええ、それでお願いします。
 それから、聖樹様から、ご褒美として神樹の種を頂いておりますから、適当な場所に植えてください」

 点収納から神樹の種を五つ取りだすと、それをラズローに手渡した。

「こ、このように貴重なものを……」

 神樹の種を載せたラズローの手が震えている。
 しっかり者のリニアがさっとそれを受けとり、袋に入れた。
  
「しかし、シロー殿。
 我ら竜人は、あなた方にあれだけ酷い事をしたのに、どうして行く先の分からぬポータルを渡ってまで、囚われた竜人をお救いくださったのですか?」

 彼が言う「酷い事」とは、黒竜族が俺たちに散々悪さをしたことだろう。
 ラズローが真剣な目で俺を見ている。

「俺たちの仲間であるリニアとエンデもさらわれましたから。
 まあ、彼女たちがいなくても同じことをしたと思いますが」

「どうしてそこまで竜人のために?」

「いや、俺はなんとなくやりたいからやってるだけですから。 
 それに、救いに行かないと加藤が許さないでしょう」

「英雄と勇者。
 まさしく、その名にふさわしいですな」

「ちょ、ちょっと待ってください!
 英雄という言葉だけは使わないように。
 これだけはくれぐれも頼みますよ」

「しかし、スレッジ世界から帰還した者たちが、皆その話をしていますから、もうすでにその名が広まっていますよ」

 えっ!?
 なんでそんなことに?

 俺と目を合わせたリニアが、いまだに床に腰を着き、アワアワ言っているジェラードの方を見る。
 また、ヤツか!
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

処理中です...