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第十章 奴隷世界スレッジ編

第81話 報酬と感謝10

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 パレードの日、俺たちは当事者ということで、朝早くから起こされた。
 アンデに呼びだされ、細かい打ちあわせに付きあわされる。朝方の会議は勘弁してほしい。大体、会議って俺の天敵だし。

 パレードは正午開始なので、その少し前に、馬車三台に分かれて乗った俺たちは街の中心にある聖女広場へ向かった。  

 街には横断幕が張られており、その下を馬車が進んだ。
 すでに人々が道の脇にぎっしり立ちならんでいた。

 聖女が乗った馬車に盛大な拍手があるのはいつものことだが、今回は、コルナ、ナル、メルが乗る馬車も、凄い拍手と声援を浴びた。

 聖女広場に着くと、俺たちは馬車を降り演台に登った。
 デデノたち冒険者四人もその上に建てるように、演台はいつもの三倍くらい大きかった。 
 ウオオーン
 ウオオオオーン

 アンデの遠吠えに、住民が遠吠えで答える。
 これは、俺にとっても初めての体験だった。
 なかなか味がある、犬人らしいやり取りだね。

「この度、スレッジ世界の二つの国が、異世界を侵略するために手を結びました。
 そして、その世界にある神樹様の森を伐採する目的で軍を進めたのです」

 アンデのよく通る声が会場に広がる。
 
「そして、それを防ぎ、世界群を侵略と崩壊から救ったのが、パンゲア世界のアリスト国、マスケドニア国、そしてここグレイル世界の冒険者たち、聖女様だったのです」

 観客からの歓声は、耳を押さえておかないと鼓膜が破れかねないレベルだ。

「元獣人国会議議長であり、今は冒険者シローと行動を共にするコルナ様より、現地でのお話をうかがいましょう」

 割れるような歓声が静かになるのを待ち、コルナが話しだす。

「この度訪れた世界群の危機、それをひも解くには、二百年前に遡らなければなりません」

 この言葉で始まったコルナの話は、世界群が神樹の激減で危機に瀕していたこと、それを救うために立ちあがった人々の事を情感豊かに描写していた。
 話に取りこまれた人々は、戦闘場面では手に汗握り、おばば様がお亡くなりになる場面では涙を流した。
 
 話が終わるタイミングで、俺は大きな魔術花火を打ちあげた。
『神樹戦役』で活躍した人々の姿が、名前つきで空に花開く。
 特に、デデノたち獣人の冒険者四人は、何度も花火が上がった。
 彼らの名前は、『英雄デデノ』のように名前の前に『英雄』をつけてある。

 最期のとどめが、聖女舞子が『神樹戦役』に直接関わった者、一人一人に神樹の種を渡す行事で、聖女が登場すると、いつもなら大騒ぎになる広場が、静まりかえっていた。
 これは、獣人世界の人々が、神樹様を神聖視しているからだろう。ましてや、今回は、神聖神樹様から直接頂いたご褒美だ。
 人々が厳粛な気持ちになるのは、当然だろう。
 この授与式の最後には、デデノたち四人の冒険者に特別な神樹の種が渡された。これは、『枯れクズ』を加工して作ったピカピカのペンダントで、中央に白い玉と、ギルド章をはめ込む部分がある。白い玉は、神樹の種だ。
 その派手な演出に、会場が再び盛りあがった。

 舞子がそれを手渡しするとき、俺は四人だけに聞こえる声で、次のように伝えておいた。

「君たち四人の英雄に、神聖神樹様の名において命ずる。
 外出するときには、必ず周囲からこれが見えるように身に着けるように」

 デデノたち四人は、ここまでの展開にぼうっとしているから、俺の言葉は頭に入ってこないようだ。
 視界の隅に頭を抱えたアンデの姿が映ったが、ここは無視しよう。

 ◇

 聖女広場で行われた行事の後、俺たちは、馬車で舞子の屋敷までゆっくり走った。俺たちは屋根つきの客車に乗っていたからまだいいが、冒険者たちは、ミミ、ポル、デデノたちを含め、大きな木を模した山車の上に載せられ、一際大きな観客の声援を浴びた。
 デデノたちは、胸元でピカピカ光るペンダントがいかに民衆の注目を集めるか気づいたようで、絶望的な表情を浮かべていた。

 さすがにこのままでは、可哀そうだから、彼ら四人には、ミスリル製の武器と防具でも渡してやろう。

 それによって、彼らがさらに衆目を集めても俺の責任じゃないよね。

『( ̄ー ̄) 本当ですかねえ、ブラン。ご主人様はダメだよねえ』

「ミー!」(ホント、そうですよね!)

 ◇

 さて、パレードの翌日、舞子の屋敷で帰り支度をしていると、一人のメイドが現れた。

「シロー様、聖女様がお呼びです」

 俺は彼女に案内され、舞子の私室に通された。
 そこは、上品な内装が施された部屋で、俺は舞子の美的感覚の高さに驚かされた。
 家具はもちろん、一つ一つの可愛い置物に至るまでよく吟味してある。
 奥の扉から出てきた舞子は、珍しくピエロッティを連れていなかった。

「史郎君、もう帰るの?」

「ああ、イリーナたちをよろしく頼むよ」

「うん、もちろんよ。
 次は、ルルさんやエミリーも連れてきてね」

 エミリーは彼女にとって妹のような存在だからね。

「うん、気が利かなくてごめん。
 次はエミリーも連れてくるよ」

「ありがとう。
 それでね……」

 舞子は、なぜか黙りこんだ。

「昨日コルナと話したんだけど……」

 昨日、コルナは舞子の部屋に泊まると言っていたからね。 
 
「あの、その、コルナと星空デートしたって本当?」

 あちゃー、そう来ますか。

「うーん、デートかどうか分からないけど、星空は見たよ」

「こ、今度、私とも……」

 舞子の目からは涙がこぼれ落ちそうだ。
 俺は彼女の肩を抱き、頭を撫でた。

「落ちつけ、舞子。
 星空なんとか、必ずするから」

「ほ、本当?」

 舞子は、とうとう涙をこぼしてしまった。
 ああ、そうならないように、星空なんとかをひき受けたのに……。

『( ̄ー ̄)つ ブランちゃん、ご主人様は?』

「ミミー」(有罪)

『( ̄ー ̄) だよねえ』

 えっ!
 点ちゃん、ブラン、何でそんなことに!?

『へ(u ω u)へ やれやれ』

「ミー」(やれやれ)
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