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第十章 奴隷世界スレッジ編

第77話 報酬と感謝6

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「リーダー!」
「シローさん!」

 食堂に入るなり、ミミとポルが走ってきた。
 
「二人とも、大聖女様の護衛ご苦労様」

「ねえ、あの後、スレッジはどうなったの?」

「ミミ、それは後でいいでしょ」

「だって、シリルちゃんやおばば様がどうなったか、心配じゃない」

「それは、そうだけど……」

「ミミ、ポル、食事の後で、その辺の事も話すからね」

「えー、早く聞きたいのに――」

「ミミ、わがまま言わないの。
 それに、料理の仕上げが残ってるでしょ」

「そうだった。
 じゃ、リーダー、また後でね。
 ポン太、ぐずぐずしないの」

「ええっ!
 どうしてそうなるの?」

 ミミとポルは、いつも通りだな。
 友人たちに囲まれ、俺は故郷に帰ってきたような感覚を味わっていた。

 ◇

 屋敷に着いてすぐは、見知らぬ人もいたからおとなしくしていたナルとメルだが、食事が始まると、元気いっぱいになった。

「パーパ!
 これ、凄く美味しい。
 なに、これ?」
「美味しーっ!
 んぐんぐ、はーっ!」

 二人とも、目を輝かせて料理を口に運んでいる。
 料理を作ったミミママとミミパパが、目を細めてそれを見ている。

「ナルちゃん、メルちゃん、今日の料理はね、こちらにいらっしゃる猫賢者様のレシピなんだよ」

「猫賢者様すごいー」
「レシピってなーに?
 この美味しいヤツ?」

 ミミの説明に、ナルとメルがそれぞれの反応を見せる。
 なるほど、料理の手が込んでいたはずだ。猫賢者のレシピだったか。
 
「今日は特別なデザートがある。ニャ」

 猫賢者がそう言うと、メイドたちが、果物をワゴンに載せ運んできた。
 その茶色い果物には見覚えがあった。

「あっ、この果物は……」

 俺が名前を思いだせないでいると、ポルが助けてくれた。

「ライコンの実ですよ」

 そうだった。俺とポルが最初に出会ったとき、ミミの両親が営む『ワンニャン亭』で食べたんだ。
 俺は懐かしくて胸がいっぱいになった。

「うわっ!
 すっごく美味しいっ!」
「甘いー!」

 ナルとメルにも好評のようだ。

「そうか、これ食べてから、この世界で一年たつのか……」

 ストローのようなもの果実に差し、そこから上品な甘さの果肉を飲むようにして食べる。懐かしい甘さと酸味が口の中に広がった。
 俺は一口食べた果実をポルの前に持っていく。

「ポル、俺はもうお腹いっぱいなんだ。
 食べてくれないか?」

「いいんですか!?
 じゃ、遠慮なくいただきます!」

 このライコンの実は、ポルの大好物だ。
 彼がおいしそうに食べているのを見ると、こちらも幸せな気分になる。
 ふと見ると、ミミがポルの顔をぽーっと見ている。
 幸せな気分になるのは、俺だけじゃないようだ。

「これは夜食用に用意しました。
 お好きなだけ、お部屋にお持ちください」

 ミミパパが、ワゴンに載せ運んできたものは、飲み物が入っているだろう小さな樽がたくさんと、緑の丸い木の実だった。

「あっ!
 これ、ポコだ!」
「ポコポコ」

 ナルは、木の実のことを覚えていたようだ。
 さっそく一つ口に含んでいる。
 
「甘ーい」

 ポコの実は口に入れてしばらくたつと、溶けて甘い果汁になる。

「二人とも、ポコは三つまでにしなさい」

 コルナが、ナルとメルに言いきかせている。

「「はーい!」」

 二人は俺より『コー姉』の言う事を聞くんだよな。
 
『(・ω・)ノ ご主人様がしっかりしないからですよ』
 
「ミーミー!」(そうそう)

 あちゃー、ブランの言葉が分かるようになったのはいいけど、点ちゃんとブラン二人して責められてる感じがする。
 
 ◇

 コルナは眠くなったナルとメルを連れ、二階の寝室へ行った。
 客室に集まったみんなの前で、『神樹戦役』のあらましと、その後スレッジで起こったことを話す。

「世界群は、本当に危なかったんだな……」

 アンデが静かに言った言葉が、みんなの気持ちを表していた。 

「おばば様……」

 ミミはおばば様の最期を聞き、涙を流している。
 
「真竜の方々が、世界群の崩壊を止めるのに一役買っていたとは。ニャ~」 
 
 猫賢者は、子竜の働きに感心している。

「リーヴァス先生、凄いなあ」

 ポルは剣の師匠が帝国一の剣士を打ちやぶったことに改めて感動している。

「お姉ちゃんが、そんな活躍を!」

 コルネは姉の活躍を喜んでいる。

「デデノたち、いい働きしてんなー!」

 冒険者たちは、仲間の働きを素直に喜んでいる。

「史郎君、世界群の崩壊について、聖樹様はどうおっしゃられてたの?」 
 
 舞子はその顔に一抹の不安を浮かべている。  

「舞子、安心して。
 崩壊の危機は去ったよ。
 聖樹様から、そうお言葉を頂いた」

「そう、良かった……」

 彼女は心底ほっとしたのだろう、体の力を抜き、目を閉じた。

「イリーナ、ターニャさん、舞子がスレッジに行ってる間、ずい分頑張ってくれたそうですね。
 ありがとう」

 イリーナとターニャさんが視線を交わし、にっこり微笑んだ。

「シロー兄ちゃん、こちらこそありがとう」
「そうですよ、シロー様」

 アンデが俺の肩を叩く。

「おい、シロー、小聖女様と従者様にお礼を言うのは、俺たちの役目だぜ」

「ああ、アンデ、今回はルルや家族がギルドに世話になったね」

「おい、水臭い事をいうなよ。
 お前がいなきゃ、今頃この世界は無かったんだぜ。
 みんな、お前やお前の家族のために何かするのが嬉しいんだ。
 礼は不要だぜ」

「ああ、分かってる。
 だけど、聖樹様からのお礼は受けとってもらわないと困るぞ」

「えっ!?
 聖樹様からのお礼?」

「ああ、デデノたちが帰ってきたら、一人一人に渡すからな」

「一人一人にって、一体なんだそりゃ」

「その時のお楽しみだ」

「そうか、まあいいだろう。
 今回はギルドに顔を出せるんだろう?」

「ああ、明日寄らせてもらうよ」

「おお、どうせならお前の部屋もあるんだから泊ってけよ」

「今回は、子供たちがいるから、泊まるのはここにするよ」

「そうか?
 残念だが仕方ないな」

 久しぶりに会った友人たちは、近況を伝えあい、夜が更けていった。
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