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第十章 奴隷世界スレッジ編

第76話 報酬と感謝5

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「コルナ、本当にいいの?」

「ええ、ルル。
 きっと族長たちも喜ぶだろうから」 

「でも、私とコリーダは、シローと二人きりだったのに……」

「ふふふ、そんなことを気にしてたの?
 きっと二人きりになるタイミングもあるわよ。
 でも、気にしてくれてありがとう」

 コルナとルルが話しているのは、聖樹様からのお礼を届ける、俺の旅行の事だ。
 すでにエルファリアとマスケドニアへの旅は終えているから、後は獣人世界と竜人世界だけだ。
 最初、獣人世界へはコルナだけ連れていく予定だった。
 けれど、それを耳にしたナルとメルが一緒に行きたいと言いだした。それで先ほどの会話になるわけだ。

「コルナ、ナルとメルを頼みますぞ」

 リーヴァスさんが、コルナの頭を撫でている。

「はい、おじい様」

「シロー、向こうでは、コルナと二人だけの時間をとってあげるといいですな」

「はい、そうします」

 俺の返事に、リーヴァスさんは頷いた。
 
「ナル、メル、用意はいいかい?」

 彼女たちの部屋に続く、パイプ型滑り台に呼びかける。

「「「すぐ行くよー」」」

 ナルの声が滑り台の出口から響いてくる。
  
「「「わーい!」」」

 メルが滑り台から凄い勢いで飛びだしてくる。
 緑苔のクッションが、彼女をパフンと受けとめる。
 続いてナルも降りてきた。

「マンマ、これでいい?」

 ナルが尋ねているのは、彼女が着ている服装のことだ。
 昨日ルルと一緒に準備していたから、動きやすい格好になっている。
 地球で買ったバックパックと水筒、つば広の麦わら帽子をかぶっている。
 ウグイス色の服は七分袖で、首周りに女の子らしいレースの刺繍が入っている。
 下は、ひざ下までのズボンだ。
 今回は、服の色を揃えてある。

 ルルは二人の前に膝を着き、服装を整えてやっている。

「二人とも、パーパとコー姉の言う事をよく聞くのよ」

「うん、分かってる」
「分かったー」

「じゃ、シロー、コルナ、二人を頼むわよ」

「旅行が終わってすぐで疲れてるから、ルルも無理しないようにね」

「三人のことは任せておいて、ルル」

 コルナは、俺の事まで世話するつもりだな。

「では、みんな、行ってくるよ」

「「「よい風を」」」

 肩にブランを乗せた俺は、以前より広くなった中庭に出る。コルナと俺が向かいあい、それぞれがナルとメルと手を繋ぐ。輪になった俺たちは、セルフポータルで獣人世界に転移した。

 ◇

 俺たち四人が現われたのは、ケーナイの郊外、大聖女舞子が住む屋敷から少し離れた草原だ。

「わーい!
 着いたー!」
「こんにちはー!」

 誰も出迎えていないのに、メルが挨拶している。
 俺たち四人は手を繋ぎ、舞子の屋敷まで歩いた。

 ◇

「ようこそ、皆さん。
 お待ちしておりました」

 ドアをノックすると、すぐにピエロッティが顔を出した。
 俺たちは、大きい方の客間に通された。

「姉さん!」

 入るなり、コルナの妹コルネが姉に抱きつく。
 部屋には、ギルマスのアンデや顔見知りの冒険者たちがいた。

「ミミとポルは?」

「ああ、二人は料理を手伝ってるぞ」

 アンデが説明してくれる。
 きっと、ミミパパとミミママが料理をしているのだろう。
 その時、ドアが開き、舞子とイリーナ、ターニャさんが入ってきた。

 冒険者たちが膝を着こうとするのを舞子が止める。

「今日は堅苦しい場ではありませんから、礼は省いてください。
 それから、もう一人ゲストがいます」

 彼らの後ろから入ってきたのは、猫賢者だった。

「真竜様、お久しぶりです。
 シロー殿、コルナ殿も、久しぶりじゃ。ニャニャ」

 杖を手にした彼は、とても元気そうだった。

「賢者様、お久しぶりです。
 お元気そうですね」

 妹から離れ、コルナが挨拶する。

「そうじゃろう。
 この前、コルナ殿を鍛えたじゃろう。
 あれで刺激を受けての。
 久しぶりに自分も修行しておったのじゃ。ニャ」

 確かに、猫賢者は十歳は若返ったように見えた。
 彼は俺に近づいてきた。

「シロー殿、この度は世界群を、そして、我らがグレイル世界を救うていただき、感謝じゃ。ニャ」

「賢者様、コルナから修行の事うかがいました。
 彼女の呪文が無ければ、『神樹戦役』は大変な事になっていたと思います」

「そうかそうか。
 コルナ殿の呪文が役にたったか。ニャニャ」

 猫賢者は目を閉じ、何度も頷いている。

「お姉ちゃん、ホント凄いね!」

 コルネが、また姉に抱きついている。
 この人、獣人会議の議長なのに、姉の事となると甘々だよね。

 その時、メイドが食事の用意ができたことを告げにきたので、皆で食堂に移った。
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