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第十章 奴隷世界スレッジ編

第75話 報酬と感謝4

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「な、なんんだこりゃ!?」
「どういうこった?」
「どうなってる?」

 八艘ある船の上で同じような問いがなされたが、当然のこと誰も答えない。
 それより、彼らが驚いた原因の方が問題だった。
 各自が手に持っていた筒状の魔道具は、爪の上に載るほどの大きさに縮んでいたのだ。
 手からこぼれた魔道具が湖に落ち、それを追いかけ水に飛びこんだ慌て者もいる。

「全員、甲板に出たようだな」

 頭に茶色の布を巻いた少年が、のんびりした声でそう言った。

「お前らには、貴重極まりない俺とルルのティータイムを無駄にしてくれた、その報いを受けてもらうぞ」

「しゃらくせえ!
 おい、船をヤツのに着けろ!」

 八艘の船が包囲を狭める。
 これでヤツに逃げ道はない。
 チョウガは、ニヤリと笑った。
 こちらには、五十人近い戦力があり、中には高レベルの魔術師もいる。
 ヤツにはどうしようもあるまい。

「ボス!
 なんかおかしいですぜ」

 子分の声でチョウガが振りむく。 
 
「何がおかしいんだ?」

「なんか船が小さくなってる気がしやす」  
 
「てめえ、なに馬鹿なこと言ってんだ!?」

「だけど、見てくだせえ」

 子分が指さしたのは、彼らが乗る船の船尾だ。
 おかしい。確かに乗った時より船が短くなっている。
 半分くらいか。

 しかし、驚くべきことは、それで終わらなかった。
 見ているうちに、舟がどんどん小さくなっていくのだ。

 とうとう、チョウガが乗る船は、乗船している七人がぎりぎり立っていられるぐらいの大きさになってしまった。

「ど、どうなってるんでえ!?」

 船はさらに小さくなる。
 
「おい、お前は泳げ!」

 岩のような体格のチョウガが、下っ端の手下を船から叩きおとす。

「あわわわ……!
 ボス!
 そんな殺生な!」

 落とされた男が、舷側にしがみつきながら、悲鳴じみた声を上げる。
 チョウガは次々と手下を蹴落とし、とうとう、舟の上には彼一人となった。 

「やれやれ、ボスのそんな姿を見たら、お前の手下はもうついてこないな」

 少年の、のんびりした声には、呆れが含まれていた。

「うるせえっ!
 お前なんぞ、俺一人で十分だ」

 チョウガが乗る船は、小さくなりながらも、白銀の船へあとわずかの所まで近づいていた。

 チョウガは、右足を白銀の船に掛けた。
 その時、足元の船がガクンと揺れる。
 見おろすと、彼の舟は足をやっと置けるくらいの大きさに縮んでいた。当然、その船はバランスが崩れる。
 もう、舟と言うより、筒が水上に浮いているようなものだ。

 チョウガは大股開きになったまま、どちらの船に飛びうつることもできなくなった。

「あ、ああ、お、おい!」

「なんだい、チョウガさん」

「助け、助けてくれっ!」

「あんた、俺とこのブランを殺すつもりだったろう。
 そのあんたを助けるべき理由が言えたら、助けてやろう」

「あ、足が!
 ま、股がっ!
 頼む、助けてくれ!」

「それじゃあ、助けるべき理由にはならないな。
 ねえ、ブラン」

「ミー!」(ならないー)

「股が、股が、股が裂けるーっ!」

 叫び声と共に、とうとうチョウガは背中から湖に落ちた。

 ◇

 アリスト王国に帰った俺は、女王陛下にマスケドニア王からの親書を渡すため、お城に来ている。
 場所は、いつもの貴賓室だ。

 お茶を飲んでくつろいでいると、女王畑山が入ってきた。

「ボー、お帰り。
 向こうはどうだった?」

「ああ、凱旋パレードに引っぱりだされて、もうクタクタだったよ」

「ふふふ、あんたらしいわね」

「加藤も元気にしてたよ。
 君によろしくだって」

「そ、そう。
 それならいいけど」

 畑山さんは、赤くなった顔を隠すようにカップを口に運んだ。

「ところで、あんた、帰りに襲われたんだって?」

「ああ、地下組織の連中にね」

「その時、あんたは船に乗ってたそうね」

「ああ、点ちゃん3号に乗ってた」

「それって、加藤が言ってたクルーザー?」

「うん、そうだよ」

「いいわね!
 次のデートセッティングは、それにしてよ」

 先だっての『お月見デート』に味をしめたのだろう、女王陛下はキラキラ光る目でそう言った。

「まあ、それはいいけど」

「それより、マスケドニアで捕まった連中だけど、お互いに相手の事をべらべらしゃべっているみたいよ」

 きっと国王間のホットラインで情報を教えてもらったのだろう。

「まあ、そうなるだろうねえ」

 手下を船から蹴落としていた、チョウガの姿を思いだした。

「相手は八艘もいたんでしょう?
 どうやったの?」

「俺が最近手に入れた能力で、ヤツらの船を小さくしたんだ」

「小さくした?」

「ああ、最後はこのくらいにしといた」

 俺は手で風呂桶くらいの大きさを作った。

「……ホント呆れるわね。
 あんたの魔法なら、もっとあっさりやっつけられたでしょ」

「ああ、だけどあいつら、ルルと俺のお茶を邪魔したから」

「ふう、それが理由でズダボロにされる地下組織って、なんだか可哀そすぎるわね」

「まあ、そうかもね。
 ああ、そうだ。
 ところで、マスケドニア王から、ホットラインで他に何か連絡来てない?」

「いや、来てないわよ」

「そう、それならいいんだけど」

 どうやら、加藤とミツの婚姻についての連絡はまだらしい。

「何かあるなら話しなさいよ」

「いや、これは俺からは話せないんだ。
 きっと連絡があると思うから」

「思わせぶりねえ。
 じゃあ、それを待っておくわ。
 次は、獣人世界に行くんでしょ?」

「ああ、その予定だよ」

「舞子によろしくね。
 これ、獣人会議に渡しといてくれる?」

 俺は畑山さんから封書を受けとった。

「ああ、分かったよ。
 じゃあ、またね」

「デートセッティング、マジ楽しみにしてるから」

 やれやれ、マスケドニア王から加藤とミツの婚礼について聞いたなら、この女王様どうなることか。絶対にその場にだけは居たくないな。
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