上 下
458 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編

第69話 帰郷と報酬2

しおりを挟む


 スレッジ世界ではお土産らしいお土産も手に入らなかったから、竜人世界で手に入れたハチミツを配ろうと、ご近所のドアを叩いた。ところが、どの家も留守で人がいない。
 不審に思い、通りを隔てた家の人に尋ねると、俺たちの家がある区画に住んでいた人が、みな高級住宅地へ移り住んだと聞かされた。

 どういうこと?
 もしやと思い、家に帰るとリビングのテーブルに城でもらった目録を広げてみた。
 ちょうど食事に集まってきた家族も、それを覗きこむ。

「おや、ここにあるのは、ご近所の住所ですな」

 リーヴァスさんが首を傾げる。
 目録の下の方に、いくつか住所が並んでいる。
 その中には、俺が住んでいる家周囲の住所があった。

「シロー、どうやら、私たちが住んでいる家の区画全部を頂いたようです」

 ルルが目を見開いている。

『(@ω@) なんじゃーこりゃー!』

 でたね、久々の「なんじゃーこりゃー」が。
 しかし、そうなると、かなり有効に土地が使えそうだな。

 もらった土地をどう使うか、俺はウキウキと構想を練った。

 ◇

 スレッジ世界で『おばば様』から言われたように、俺はエルファリア世界へやってきた。
 今回一緒にやってきたコリーダは、この世界に着くと同時にエルフ王城へ瞬間移動させてある。

 俺は白猫だけ連れ、『聖樹の島』にあるギルド本部へやってきた。

「こんちはー」

 一応声をかけ、本部の入り口を潜る。
 今日は、広いホールにギルド職員がたくさんいた。

「みなさん、どうしたの?」

 顔見知りの冒険者に尋ねる。

「あっ、シローさん!」

 彼の声で、みんながバッとこちらを見る。
 真剣な顔が、なんか怖いんですけど……。

 二人の職員を連れ、ギルド長のミランダさんが奥から現れた。
 驚いたことに、彼女は俺の前に膝を着いた。

「シロー殿、この度は神樹様、ひいては世界群を守ってくださり、感謝いたします」

「ちょ、ちょっと、ミランダ様、そ、それは……」

 俺が近づき膝を着くと、ミランダさんが耳元で囁いた。

「感謝と尊敬を受けるべき時には、素直に受けなさい」

 彼女の目が優しく俺を見ていた。
 俺は頷くと、立ちあがった。

「ありがたいお言葉です。
 では、聖樹様にお目にかかって参ります。
 では、後ほど」

「「「ははっ!」」」

 ギルド職員、冒険者が頭を下げる。
 居心地が悪くなった俺は、すぐ聖樹様の近くに瞬間移動した。

 ◇

 聖樹様の側に瞬間移動するなり、俺はかつて感じたことがないほどの波動を感じていた。
 今までも、聖樹様の近くに来るたび感じていた、包みこむような温かさに加え、身体の芯を震わせるような波動がある。
 背筋がゾクゾクし、それが体全体に広がっていく。

「ミー!」

 ブランがいつになく大きな声で鳴いた。 
 
『史郎、そして点の子よ』    

 太く低く、力強い念話が聞こえてきた。

「はい」
『(^▽^)/ こんにちはー!』

『こたびも我が子、神樹たちを救うてくれたな。
 かの世界の神樹たち、世界群の神樹たちになりかわり、礼を言う』

「お言葉ありがとうございます」

『こたびは、世界群そのものも救われたことになる』

 どうやら、世界群が直面していた危機は去ったようだ。

「本当によかったです」

『お主と共に戦うた者たちを含め、礼を渡そう。
 点の子よ、受けとめておくれ』

『(^▽^) 分かったー』 

 次の瞬間、聖樹様が、いや、空間自体が震えるような気配があった。
 空を覆う枝から、無数の何かが落ちてくる。
 それが地面に落ちる前に、点ちゃんが全て回収した。

『わずかばかりのものだが、世界群を救うた者たちに渡すとよい』

「はい、承りました」

『我が力も、ほぼ元に戻った。
 お主らには、加護を与えよう』

「恐れ多い事です」
『(^▽^)/ わーい!』

 俺の体が白く強く輝いた。
 背筋が伸びるような感覚があった。
 心地よさに、ぼーっとしていると、聖樹様のお言葉が聞こえた。

『次は巫女と守り手、他の三人も連れてくるとよい』 

 他の三人というのは、加藤たちのことだな。

「ありがとうございます」

『礼をいうのは、こちらだぞ。
 今はこれまで。
 いずれまた会おう』

「では、失礼します」
『(^▽^)ノ バイバーイ!』
「ミー!」(さようなら!)

 聖樹様との接触でぼんやりしていた心が、点ちゃんに起こされる。

『(・ω・)つ いつまでも、ぼうっとしない!』

 わ、分かりましたよ。
 
 俺は頭を振り、周囲を見回した。
 木々がそれぞれ、違う色を帯びているのが分かる。

 これって、もしかして……。

『(Pω・) 何か見えますね。多分マナでしょう』 

 ああ、翔太が見えるって言ってたやつね。
 魔術が使えない俺に役立つとは思えないけど。

『へ(u ω u)へ 相変わらずだな、この人は』

 そう言えば、なんか点ちゃんの声が今までよりはっきり聞こえるような気がする。

『(・ω・) そういえば、ご主人様の声も、そんな感じで聞こえますね』

 なんだろうね、これは?
 とにかく、今は帰るかな。
 俺は報告をするためギルドへ向け歩きだした。
 え? 瞬間移動すればいいだろうって?
 森を歩きたい気分なんだよね。

『(・ω・) そうですねえ』
 
 お、珍しく点ちゃんが同意してくれたか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...