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第十章 奴隷世界スレッジ編

第68話 帰郷と報酬1

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 俺の家族は久しぶりにアリストの我が家へ帰ってきた。

「お帰りなさい」
「お久しぶりです」

 庭から家に入ると、デロリンとチョイスが迎えてくれる。

「外交官のお二人もお待ちですよ」

「外交官?」

 なんじゃそりゃ?
 俺たちが入ってきた庭側のドアを開け、二人の人物がリビングに入ってくる。

「お帰りなさい」
「お帰りじゃ」

 えっ? 
 なんで君たちが?

 そこにいたのは、竜人エンデとドワーフ族の皇女デメルだった。

 ◇

 エンデは、いずれ別棟に住んでもらうつもりだったから、部屋も用意してある。だけど、なんでデメルまでここにいるのか?

「アリスト軍と一緒に来たのじゃ」

 あー、この人、加藤と同行したかったんだな、きっと?

「デメル、シリルが君の助けを当てにしてたよ」

「ああ、あの子は大丈夫。
 それは、お主も分かっておるじゃろ」

 いや、分かってはいますがね。
 何してんのよ、この人。

「父に相談したら、外交官としてこの街に赴任するよう勧められての」

 いや、勝手に何やってんのかね、あの前国王。

「私はジェラード様から、正式に外交官として任命されました」

 えっ!?
 エンデもそんなことになってたの?
 ジェラードめ、またまたやってくれたな!

「まあ、エンデの部屋はもう用意してあるからいいけどね」

「ふふふ、私の部屋も用意してもらうぞ」

 デメルがさっそく口をはさむ。
 そんなことを言われてもね。客室として確かに予備の部屋はあるけど、こんなことしてたら部屋がいくつあっても足りないよ。

「正式な屋敷が決まるまでじゃ。
 それに部屋数が足りぬことにはなるまい」

 どういうこと、それ?
 ちょっと強引すぎない?

「シローさん、この手紙を預かっています」

 チョイスが手紙を俺に手渡す。
 それには、すぐに城へ来るよう書かれた畑山さんの筆跡があった。
 くーっ、せっかくこれからくつろごうっていう時に……。

 俺は不平顔でアリスト王城へ瞬間移動した。

 ◇

 手紙に指示されたように、王城の来賓室へ現れた俺は、顔見知りの侍従に連れられ『王の間』に入った。

 そこには、この国の主だった貴族が正装して並んでいた。
 玉座には、女王陛下である畑山さんが微笑みを浮かべ座っていた。その横には、真面目な顔をしたエミリーと翔太が立っている。
 ことさらきらびやかな鎧をつけた、騎士レダーマンが口を開く。

「救世の英雄シロー殿!」
 
 貴族たちが全員膝を着く。
 侍従が俺を玉座の前に連れていく。
 俺が膝を着こうとすると、侍従に止められる。

「どうか、そのままで」

 彼はそう囁くと、壁際に下がった。

「シロー殿、この度、世界群を救った功績により、そなたを名誉騎士に任ずる。
 また、『神樹同盟』への参加国では国王と同格とみなし、城への出入り、王との接見の自由を与える。
 他の褒賞は、こちらの目録にある」

 えーっ!
 また来ちゃったよ、名誉騎士。
 こりゃ、またギルドで冒険者たちに罵られるな、褒美がもらえない役職だから。

「なお、同等の褒章は、勇者と大聖女にも与えられるものとする」

 あっ、畑山さん、加藤に自分が会いやすくするために仕組んだな、これ。
 まあ、『初めの四人』が気兼ねなく集まれるのは、ありがたいけどね。
  
 ◇

 謁見の後、俺は城内にある森へ来ている。
 森の中にある噴水広場には、白い丸テーブルと椅子が用意されていた。

「ボー、嫌じゃなかったかな、さっきの?」

 おや、女王様にしては珍しく、その辺を気にしてくれたらしい。

「戦闘に参加した兵士たちからスレッジでの話が広がるだろうから、あれはもうしょうがないね。
 あっさりあれで終わって、かえって助かったよ」

「そう、それならいいけど。
 それから、例の報酬ありがとう」

「報酬?」

「ほら、スレッジでもらったじゃない」

 ああ、加藤とのお月見デートのセッティングか。
 
「気に入ってもらえた?」

「もう最高!
 ぜひ、またやってよ!」

「ああ、君たち二人のタイミングが合えばやるよ」

「やったー!」

 クールな畑山さんらしからぬリアクションだ。
 よほどあれが気に入ったのだろう。

「ああ、そうそう、聖樹様から呼びだしがあるから、近いうちに行ってくるよ。
 君はどうする?」

「さすがに無理ね。
 ここのところ何度も国を空けてたから。
 今回は、あんたに頼むわ」

「分かった。
 じゃ、今回は俺一人で行ってくるかな」

「聖樹様によろしくね」

「ああ」

「だけど、世界群の崩壊はこれで防げたのかしら?」

「うーん、恐らくそうだと思う。
 聖樹様にお目に掛かれば、その辺のことがはっきりするだろうね」

「しかし、また大きな仕事したわね、あんた」

「いや、今回は君や加藤、舞子に助けられたじゃない」

「まあ、それはそうだけど。
 あんたがいないと、どうしようもなかったわね。
『神樹戦役』でこちらが敗れてたらと思うと、今でもゾッとするわ」

 女王畑山は眉をしかめ、自分の体を抱く仕草をした。

「ああ、そうだ。
 さっき言ってた、『神樹同盟』って何?」

「ああ、あれね。
 軍師ショーカの立案で、マスケドニア王が各国に今回の件を連絡したのよ。
 それで神樹様を守ろうという機運が高まってね。
 マスケドニア、アリストを中心に、世界の壁を越えて国が集まったの。
 グレイルの獣人議会や学園都市世界の執政部もすでに参加が決まってるわよ」

「さすがだね、軍師ショーカは」 

「マスケドニア王の働きも凄かったのよ。
 同じ国を治める者として、見習うべきところがたくさんあるわ」

「そうだ、シリルへの指導ありがとうね」

「ああ、あの子は生まれついての女王ね。
 人を惹きつけ、頭の回転が早く、柔軟な思考ができる。
 たいしたもんだわ」

「君がそこまで人を褒めるなんて珍しいね」

「ははは、あんた、私の事どう思ってんのよ。
 とにかく、今日は、わざわざ来てくれて助かったわ。
 ああいうことは、さっさと済ませておきたいでしょ」
 
 まあ、そうだね。
 
「じゃ、家族が待ってるだろうから、すぐに帰ってあげて」

「ああ、ありがとう」

 その時、森から白い魔獣が飛びだしてきた。
 ウサ子だ。
 ところが驚いたことに、彼女の隣にもう一頭、やや小さな神獣がいるではないか。

「紹介するわね。
 ウサ子の恋人、ピョン太。
 スレッジから帰ってきて、この子だけウサ子についてお城まで来ちゃったんだ」

 ウサ子がリア充、いや、ウサ充に!
 ウサ子とピョン太は互いに体を寄せあい、ご機嫌な様子だ。

 はいはい、ご馳走さまでした。
 俺は、そのまま『くつろぎの家』まで瞬間移動した。
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