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第十章 奴隷世界スレッジ編
第66話 終わりと始まり4
しおりを挟む俺は点ちゃん1号で東に飛び、帝国の都上空まで来る。眼下に上半分が吹きとんだ城が見える。そこから北へ進路を変え、街の上を飛んでいく。
白猫を通し、おばば様から教えてもらった、ある場所へ向かっているのだ。
大体、この方角でいいとおもうんだけど……。
『(・ω・)ノ ご主人様ー』
お、点ちゃん、なんだい?
『(・ω・)ノ□ そろそろパレットでレベルと加護を確認してください』
えっ? でも、レベルアップなんてしてないよ。
レベルアップするときは、体が光るでしょ……あっ、もしかして、あの時か?
俺は、『鎮守の杜』で、エミリーが木々に祝福を与えた時のことを思いだしていた。
そういえば杜全体が光ったけど、あのとき自分も光ってたのかな。
レベルアップのタイミングとしては、それ以外考えつかなかった。
パレットを出し、スキルチェックする。
レベル15 付与 拡大縮小
拡大縮小か。
点ちゃん、これってどんなスキル?
『(Pω・) ふむふむ、点をつけたものを大きくしたり小さくしたりできるみたいです』
えっ?
これまでもっと凄いスキルがあったのに、今回はしょぼいね。
『へ(u ω u)へ ふう~、相変わらず、分かってないですねえ』
どういうこと?
『(・ω・)ノ 例えば、この前の戦いなら、敵軍全部を小さくできたってことですよ』
ええっ!?
じゃ、あんなに苦労せずに勝てたってこと?
『d(u ω u) やっとこのスキルの凄さに気づきましたか』
なんか凄いな、このスキル……。
『(; ・`д・´)つ 感慨にふけらず、さっさと加護をチェックする』
へいへい、と。
パレットを出して、ちょんちょん、と。
古代竜の加護 物理攻撃無効
神樹の加護 未来予知(弱)
竜眼 ???
神樹の加護 植物共感
ああ、竜王様がくれた加護、竜眼っていうのか。
『(((@ω@))) どんだけ加護を放置してるんですかっ!!』
そんなに驚かなくても……。
おばば様が下さった加護は、一番下の『植物共感』だな。
なんだろう、これ。
『(・ω・)ノ 目的地の場所があやふやなんでしょ? すぐに加護を利用してください』
へいへい。
『(; ・`д・´) 返事はハイ。そしてハイは一回!』
ハイ……どうもすみません。
◇
点ちゃん1号を帝都北にある丘陵地に降ろした俺は、手近な木に触れてみた。
なんとなく、こうすればいいって分かったんだよね。
あれ、なんかあったかいぞ。それに脈動のようなものを感じる。
お、視界が広がっていく。
ああ、ここだな、おばば様が教えてくれた場所は。
頭の中に、岩肌に囲まれた場所が見えてくる。
それは視覚というにはおぼろげな、もやもやしたものだった。
植物共感の加護で、植物と感覚を通わせることができたようだ。
俺は点ちゃん一号に再び乗りこむと、進む方向をピタリと定めた。
やがて丘陵地が終わり、険しい山岳地帯に差しかかった。
ちょうどその境に、一つの谷があった。
幅はないが、かなり深いもので、一人用ボードで底に降りると薄暗かった。
先ほど木々が教えてくれた場所に近づく。
そこには、巧妙に隠された入り口があった。
植物共感の加護と点ちゃんの能力がないと、これって絶対に見つからなかったな。
苔を張りつけ岩に擬装した扉を開け、中に入った。
湿っぽく狭い通路を奥へと入って行く。
暗いから、『枯れクズ』の明かりを頼りに進む。
どうやら、自然の洞窟に人が手を加えたようだ。
やがて、教室くらいの空間に出た。
周囲の壁には、七、八か所鉄格子が見える。
俺はその一つに近づいた。
近づくと、腐臭のようなものが漂っている。
鉄格子の中を覗くと、剥きだしの岩肌に横たわる人々の姿があった。
俺は、『付与 融合』を使い、人々の体を綺麗にした。
そして、手に入れたばかりの『付与 拡大縮小』を全ての鉄格子に施す。
鉄格子が小さくなると、当然それは埋めこまれた岩から抜けおちた。
中にいる人が怪我をしないように鉄格子を手前に倒す。
すでに点を着けた全員を宙に浮かべ、俺がいる大広間まで移動させる。
「シ、シローさん……」
声が聞こえた方を見ると、それはリニアだった。
ボロボロの服を着た彼女は、ひどく痩せていた。
「リニア!
大丈夫かい?」
「み、みんなは?」
「ああ、すぐに治療するぞ」
倒れている人々が、ぼんやり白く光りだす。点ちゃんが全員に治癒魔術を掛けているのだ。
「ううう、あったかい……」
近くで横たわる一人の竜人少女が、力ない声で、しかし気持ちよさそうに言った。
竜人は百人近くいるようだ。俺は全員をドワーフ皇国郊外に作ってある竜人用の『土の街』に瞬間移動させた。
◇
俺たちが『土の街』広場に現れると、すぐに竜人たちが集まってきた。
「さあ、みんな、この人たちの身体を洗ってあげて。
身体を冷やさないように注意してね。
食べ物は、重湯からあげるよう注意して」
テキパキ指示を出しているのは、俺がこの世界で最初に会った赤髪の竜人奴隷ゾーラさんだ。
この街の運営は彼女に一任してある。
「ゾーラさん、足りないものはないかい?」
「そうですね、食料はシリル陛下が昨日届けてくださいました。
しいて言えば、この方たちに合う服が十分あるかどうか、その辺ですか」
「分かった。
すぐ女王陛下に連絡しておこう。
街の運営ご苦労様、この人はリニアと言って俺の友人だから、彼女が元気になったら助けてもらうといいよ」
「はい、シロー様」
以前会ったとき、諦めの表情だった赤竜族の女性は、活き活きしてまるで別人のようだった。
その時、ポポにまたがった聖女舞子、ナル、メルが広場にやってきた。もちろん、ピエロッティもいる。彼はポポの背で居心地が悪そうだった。
竜人たちが、さっと近寄って行き、四人をポポから降ろす。
「史郎君、この人たちね?」
「そうだよ、舞子。
行方不明だった竜人たちだよ。
容体が悪い人から頼めるかな」
「うん、すぐに取りかかるよ」
町の竜人たちが運ばれて来た竜人を助け、集会用に俺が作っておいた、大きな『土の家』に入っていく。
馬車に乗り、遅れてやってきたドワーフの医師団もそれを手伝いはじめた。
ナル、メルも真竜としての力を発揮し、たくさんの竜人を運んでいく。
◇
数日すると、リニアはかなり元気になった。まだ痩せてはいるが、固形物も食べられるようになっている。
俺がテーブルの上に出した、ポンポコ商会のクッキーを、彼女は精力的に口に運んでいた。
その前に、エルファリアのお茶を出してやる。
「リニア、どうしてあんなところに幽閉されていたんだい?」
「んぐ、ちょっとまって、ゴクゴク。
はあ~、ああ、美味しかった。
牢にいたとき、これの事がいつも頭にちらついてたんですよ」
彼女は、お皿の上にあるクッキーを指さした。
「ええとですね、牢に私たちが入るとき漏れ聞いたところによると、何かの兵器に首輪が必要だったようです。
それで首輪を外された後、私たちは、あそこに入れられました」
なるほど、『異世界侵略連盟』が使った巨大武器に、その首輪に入っていたドラゴナイトが使われたってわけか。
「しかし、食べ物が無いのに、よく生きのびられたね」
「あの牢の壁は、水が染み出す場所があったんですよ。
みんな、それを舐めてました」
牢の施設が谷底にあったことが、彼女たちの命を救ったらしい。
「でも、どうやって、あの場所が分かったんです?」
「ああ、それについては長い話があるんだ。
この世界を去る前に、君たちを救ってくれた、おばば様という方にお礼を言っておくといいね。
俺が案内するから」
「そうですか」
今回、俺は彼女たちの捜索に人から人へ付与されていく点魔法のシステムを使ったが、その時すでに隔絶された牢に囚われていたリニアたちを見つける事はできなかった。
彼女たちを見つけられたのは、おばば様に頂いた植物共感の力による。
俺は彼女に改めて感謝するとともに、点魔法の限界を知らされたことで身が引きしまる思いだった。
点ちゃん、油断大敵だね。
『(・ω・)ノ ご主人様は、油断だらけですからね~』
ガクッ。まあ、そうなんですがね。
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