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第十章 奴隷世界スレッジ編
第51話 女王と国王
しおりを挟むアリスト、マスケドニア連合軍は、アリスト東部にある鉱山都市のポータルから、続々と獣人世界グレイルへ渡っていく。
その数、約一万。兵士が通る道沿いの街や村は、連合軍に物資を支給するため、特需に沸いていた。
獣人世界における物資の補給は、獣人会議が受け持つことになっている。そのため、連合軍の行動は、その規模にしては迅速だった。
マスケドニアからアリストまで、湖を船で渡ってきたマスケドニア王と軍師ショーカは、アリスト城で一泊した後、女王畑山と共に、鉱山都市へとやって来た。
すでに連合軍の半数以上は、ポータルを渡った。
マスケドニア王は、黒く渦巻くポータルから少し離れた場所に置いたテーブルに着き、感慨深げな表情をしていた。
「女王よ、それにしても、この面々は壮観だの」
彼が指さした所には、急に今回の遠征に参加したグループが座っていた。
「ええ、私も、まさかこんなことになるとは、思っていませんでした」
女王はちょっと疲れているように見えるが、その目はキラキラ輝いていた。レダーマンは、その理由がこれから行く世界にいる勇者だと分かるだけに、ため息をついた。
「我々の軍勢だけでは、おそらくスレッジのそれに遠く及ばないでしょう。
勇者殿、シロー、そして聖女様の力が勝敗を決めるでしょう」
ショーカはスレッジに関するわずかばかりの情報から、そう結論づけていた。このあたり、さすがは天才軍師だ。
その時、ポータル部屋へ上がってくる階段の方が、騒がしくなる。
現れたのは、荷を背負った背が低い男たちだった。
彼らは、女王と国王がいる、こちらのテーブルはそっちのけで、部屋の片側に座る集団に平伏している。
「女王様、あの者たちは?」
ショーカが尋ねる。
「鎧や武具を用意してくれた者たちです」
「彼らは、ドワーフだと思うが……」
マスケドニア王は、ドワーフたちが十分信頼が置けるか尋ねようとしたが、途中でそれをやめた。
彼らの平伏振りが、あまりにも堂に入ったものだったからだ。
どうやら、出身世界への忠誠がそれほどあるわけではないらしい。
「彼らには、今回の遠征がどういう意味を持つか、内々に伝えてあります」
アリスト女王の言葉で、マスケドニア王は心配を心から追いはらった。
「世界群を救うための遠征ですからね」
ショーカが言葉を添える。
平伏していたドワーフの一人が、やっとこちらにやって来て頭を下げる。
「皆様、お初にお目にかかります。
女王陛下、この度、鎧を作らせていただいたジュガールでございます」
「おお、そなたが」
「はっ、どうかこちらへ」
彼は、たった今、ポータル部屋の隅に立てた衝立の方を手で示す。
女王は女騎士二人につき添われ、衝立の後ろで鎧を着けた。
衝立の陰から出てきた、その姿を見たマスケドニア王が声を上げる。
「そっ、その鎧はっ!」
ドワーフの鍛冶が頭を下げ、それに答える。
「アダマンタイト製の鎧でございます」
ただでさえ見目麗しい女王が黄金色に輝く鎧を着けた姿は、この世のものとは思えぬほど美しかった。
「美しのう!」
マスケドニア王は感嘆した後、軍師の方を向いた。
「ワシの鎧も、あれで造れぬか?」
「陛下、残念ながら……年間の国家予算に匹敵するかと。
材料自体、手に入りませぬ」
「ぬう、女王と並ぶと、ワシが見劣りするではないか、ははは」
こうして準備を整えた彼らは、獣人世界へのポータルを渡った。
彼らとともにポータルを潜ったのは、先ほどドワーフが平伏していた相手、十柱のマウンテンラビット、つまり神獣だった。
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