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第十章 奴隷世界スレッジ編

第48話 子竜の活躍3

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 ルルと黒猫、三人の冒険者は、スレッジ世界の森で、狼型魔獣にとり囲まれていた。

「みんなっ、油断しないで」

 狼魔獣は右周りの円を描きながら、その包囲を縮めていく。
 
「来るわよっ!」

 ガキン

 一匹の魔獣がルルに跳びかかり、彼女は投げナイフの刃でその牙を受けた。
 魔獣はすぐに包囲の輪に戻った。
 どうやら、じわじわ獲物を痛めつける気らしい。

「ぐっ!」

 一人の冒険者が、上腕部を切りさかれる。
 このままだと、なぶり殺しにされるのは時間の問題だった。

 冒険者が思わず言葉を漏らす。

「も、もう、お終いだ……」

 すかさず強い口調でルルが冒険者を励ます。
 
「諦めないでっ!」

 彼女の声に、魔獣たちがその動きを停める。
 次の瞬間、それらは一斉に襲いかかろうとした。
 ところが、跳びかかろうと身を低くした姿勢から、なぜか魔獣はころんと横になる。そして、お腹を上に向けてしまった。
 
「な、なにが起きた?」

 あまりに意外な出来事に、デデノが呆然としている。
 それはそうだろう。
 服従の姿勢を取った狼魔獣の間を、二匹の小さな魔獣がぴょんぴょん跳ねながら近づいてくる。
 ルルはそれを見た覚えがあるから、なおさら驚きが大きかった。

「ナルとメルの、ぬいぐるみ!?」

 熊とウサギのぬいぐるみは、ルルの前まで来ると、彼女の胸にぴょんと飛びこんだ。

「マンマ!」
「マーマ!」

 その声を聞き、ルルはぬいぐるみの正体に気づいた。
 真竜廟で彼女が育てた子竜に間違いなかった。
 姿は違っても、なぜか彼女にはそれが分かったのだ。
 
「あなたたちなのね!」

 ルルは、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる。
 ぬいぐるみも、ルルにぎゅっと抱きついた。

「ルルさん、それは一体?」

 その姿を見たデデノが呆れている。

「説明は後で。
 とにかくこの場を離れましょう」

 両腕にぬいぐるみを抱いたルルは、三人の冒険者と黒猫を引きつれ、森の中を貫く道を歩きだした。

 ◇

 その頃、真竜となり空を飛んでいたナルとメルは、草原に降りたち、人へとその姿を変えた。
 彼女たちが前足に掴み、運んできたイオ、子どもの姿をした三匹の子竜が、きょろきょろ周りを見回す。

 彼らの周囲には、広大な草原が広がっており、そこに数匹の魔獣がいた。
 魔獣は大きなピンク色の身体をしており、その短い足をちょこちょこ動かし、こちらに近づいてきた。
 魔獣は、人化したナル、メルより背が高かった。
 
 ナルが、その魔獣になにやら話しかけている。
 やがて彼女は大きく頷くと、イオに話しかけた。

「この子たち、たぶんパーパに助けてもらったみたい」

「ナルちゃん、その子と話せるの?」

 イオが驚いている。

「うん、普通に話せるよ」

「いや、私、その子が何言ってるのか、全然聞こえないよ」

「えっ?
 そうなの?」

「うん」

 その時、メルが背筋をピンと伸ばすと、驚いたような顔をした。

「メルちゃん、どうしたの?」

「イオちゃん、マンマがこの世界に来たみたい」

「えっ?
 ルルさんが?」

「うん、マンマがいるね。
 魔獣に囲まれているみたい」

 ナルも、何かに気づいたようだ。

「えっ?
 それじゃ、すぐ助けに行かないと!」

「大丈夫だよ。
『ちびドラ隊』の仲間が来てる」

「そ、そうなの?」

 イオは、ナルとメルがどうしてそんなことが分かるのか知りたかったが、なんとなく聞かない方がいい気がした。
 彼女は、ピンク色をした魔獣の頭を撫でた。

「ムグムグッ」

 魔獣が、きもちよさそうな声を出す。
 振り返ったイオは、驚きで思わず声を上げそうになった。

 彼女たちは、どこからか集まってきたピンクの魔獣にとり囲まれていたのだ。
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