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第十章 奴隷世界スレッジ編

第41話 大きなるものの国4

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 里長のバルクさんに案内され、俺はブランだけを連れ、おばば様に会いに来ている。
 おばば様は、『鎮守の杜』に住んでいるということだ。

「ところで、シロー殿、その白い生き物は、何ですか?」

「ああ、猫っていう動物なんですよ。
 名前はブラン、俺の友達です」

 ブランは、自分の事が話されていると分かるのか、高い声で「ミー」と鳴いた。

「小さいのに、大きな力を感じますな」

 巨人族は、身体は大きいが、繊細な精神を持っているようだ。

「ええ、小さいけれど、ブランは特別な力を持っています」  

  そういう会話をしながら、俺たちは集落を抜け、『鎮守の杜』までやってきた。
 神樹様の気配が強く漂うその場所は、神聖な雰囲気に満ちていた。
 さすがに神樹様がこれだけ集まると、その気配に触れられそうなほどだ。
 バルクさんは、時々立ちどまり、杜に頭を下げている。

 杜の中に、細い道があり、バルクさんは、木々の間を慎重に一歩一歩中に分けいる。
 斜面を少し登ると、社のような建物が見えてきた。
 特に大きな神樹様の根元と一体となったその建物は、違和感なく杜に溶けこんでいた。
 
 お社の正面、両開きの扉の前で、バルクさんは、膝を着き礼をした。俺もそれにならう。
 バルクさんが、静々と前に出、両開きの扉を開く。
 そこには、驚くべき光景があった。

 ◇

 扉の中には、木肌があり、その中ほどにウロのような裂け目がある。
 そこから、巨大な少女が生えていた。
 それは、まさに生えていると言うのがぴったりで、ヘソのすぐ下は、木肌の中に埋まっている。
 目を閉じ、こちらに向いている少女の姿は、彫像のようだったが、確かに生きている者の気配をまとっていた。
 髪を編みあげた少女は、肩の所がつるりと丸くなっており、両腕とも無かった。

「おばば様、シロー殿をお連れしました」

 低い声で短く何かを詠唱した後、バルク老は、そう言った。
 俯いていた少女の顔が上がり、こちらを向く。

 少女の目が、ゆっくり開いた。
 その目は、美しく澄んだ琥珀色をしていたが、瞳は無かった。

『シロー、よく来たな』

 空間自体を震わせるような声だった。
 それは、とてもゆっくりしており、今まで聞いた神樹様たちの声と似ていた。
 
「初めまして」
「ミー」

 俺と同時に白猫が挨拶した。

『私の事は、おばばと呼べばよい。
 この度は、里の力になるために来てくれたのだな。
 感謝する』

「やりたくてやっていることですから」

『だが、『共感の神樹』によると、人族とドワーフ族が里を攻めてくるそうではないか』

 恐らく『共感の神樹』とは、普通の木々と交信する力を持つ神樹様のことだろう。

「はい。
 なんとしても、ここを守るつもりです」

 ポータルズ世界群が脆くなっている、今この時、この杜にある神樹様が全て失われた時、何が起こるか。
 それを考えると、背筋に冷たいものが走った。

『できるなら、杜の仲間と里の皆を救うてやってくれ』

「はい、おばば様」

 俺の返事を聞いた少女は、小さく頷くと目を閉じた。
 バルクが後ろから、俺の背中に大きな手を載せる。

「おばば様は、お休みになられました」

 こうして、俺は不思議な巨人族の少女と出会った。
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