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第十章 奴隷世界スレッジ編
第21話 王都到着
しおりを挟む皇女シリル一行は、無事旅を終え、王都に入った。
さすがに王都だけあり、外壁も高く門も巨大だった。
一般の通行人は、小さな門を出入りしていたが、皇女一行のために大門が開かれた。
一行は、速度を落とすことなく城下町の目抜き通りに入った。
王家の紋章がついた馬車に気づき、進行方向にいた人や馬車が、道の脇に避ける。
「王家の威光は、なかなかのものだな」
加藤が、感心したように言う。
三十分ほど進み、城の門を抜け城内へと入る。
城はかなり大きなもので、アリストの王城と較べても、数倍の規模がありそうだった。
城内に入った皇女一行は、広い客室に一旦入った。
皇女シリル、侍女ローリィは、二人の騎士に連れられ部屋を出ていった。
加藤と俺、他の従者たちは、軽食とお茶を出され、それを食べた後、ソファーでくつろいでいた。
突然、扉が開くと、若いドワーフ女性が入ってきた。
「シリルが飼うことになった闘士は誰じゃ?」
腰の所できゅっと締まった黒いドレスを着た女性は俺たちを見まわした。
「早う答えい、誰じゃ?」
女性は身体を揺すり、もう一度尋ねた。黒いドレスを縁取った真紅のフリルがひらひらして、俺は金魚を連想した。
その時、扉が再び開き、皇女シリルが入ってきた。
「デメルお姉さま、これは何の騒ぎです?」
シリルは、きっと女性を睨んでいる。
「ちょうど良かったわ、シリル。
あなたの闘士はどれ?」
「お姉さまにお話する必要はありません」
シリルの声は氷のように冷たかった。
「まあ、いいわ。
どうせすぐに分かることだし」
「ど、どうしてです?」
「あら、まだ聞いてなかったの?
父上が『女王選定の儀』を開くとお決めになったのよ」
「えっ!
でも、それは二年後のはずでは――」
「もう決まった事よ。
あんたの闘士なんか、その時、バラバラにしてあげるから」
物騒な言葉を残し、金魚っぽい女性は部屋を出ていった。
「シリル様、今の方は?」
「第二皇女のデメル姉さま。
いつもわらわにイジワルするのじゃ」
皇女は一つため息をつくと、言葉を続けた。
「そちらの部屋が用意できたぞ。
お前が案内しやれ」
侍従の一人が俺と加藤を部屋まで案内してくれた。
石造りの廊下は、天井が低いが、とても立派なものだった。
床も壁も、そして天井さえも、磨かれた石がピカピカ光っている。
「こちらでございます」
俺と加藤は続き部屋に案内された。
中央に共用の部屋があり、両脇にそれぞれの個室がある形だ。
驚いたことに、個室にはバス、トイレまであった。
「なかなかのものだな」
侍従が出ていくと、部屋を見まわしていた加藤が声を漏らす。
「確かにな。
ドワーフは手先が器用で、細工に長けているそうだよ」
リーヴァスさんから聞いた情報を伝えておく。
加藤は自分の部屋に入ると、入浴もせず、すぐに寝てしまった。
俺は、城の上空に浮かばせているゴライアスの部屋に瞬間移動したが、彼も昼寝していたので、ポポの様子を見にいく。
ポポは、王都近くの草原で草を食べていた。
「こんにちは、ポポ」
言葉が分かると知ったので、一応声をかけてみる。
ポポはこちらをちらりと見ただけで、再び草を食べはじめた。
点ちゃん、俺がポポと話せるようにできない?
『(・ω・) ダメみたいですよ』
じゃ、ポポが言いたいことあったら、点ちゃんが聞いておいてね。
『(・ω・)ノ はーい!』
さて、いよいよエンデとリニア、そして他の竜人たちを探さなくちゃね。
◇
第二皇女のデメルは、妹のシリルが自信たっぷりだったのが、気に掛かっていた。
「あいつ、私の前では、いつもオドオドしていたくせに」
まあ、シリルの闘士がどんなに強くとも、たかが人族だ。こちらは、女王選定の儀に備え、三人の竜闘士を揃えている。
あいつが残った一枠に竜闘士を選んだとしても、悪くて二対一で、私の勝ちだわ。
長姉のソラルは、いつもぼうっとしている馬鹿だし、三女のケラル、四女のミラルは、争いごとを好まない性格で、選定の儀には参加しないだろう。
ライバルは、シリルだけだ。
なぜか、あいつは父上の覚えめでたく、民衆のご機嫌取りがうまい。
あいつさえ蹴落とせば、次期国王の座は、間違いなく私のものになる。
デメルは、そうなったとき、どうやってシリルをいじめるか考えると、今からワクワクするのだった。
◇
「姉さま、どうして『選定の儀』にお出にならないのですか?」
シリルは、第一皇女ソラルに抱きついていた。
「あなたが出るのでしょう?
シリル、私は前からあなたが女王にふさわしいと思っていました」
ここは第一皇女の私室だが、調度は質素で、ソラルがそういったものに興味がないと分かる。
「お姉さまが出るなら、私は出なくてもいいの」
シリルは、ソラルの前だけで見せる甘えた表情をする。
「だめよ、あなたが出ないと。
私はね、お国のためにも、デメルが女王になるべきではないと考えてるの」
普段、はっきりものを言わない姉が、きっぱりした口調でそう言ったので、シリルは少し驚いた。
「姉さま、私の味方してくれる?」
「もちろんよ。
表立ってはできないけど、できるかぎりの事はするわ」
「ありがとう」
シリルが、ソラルの体に顔をぎゅっと押しつける。
「もう、シリルは甘えん坊ねえ」
ソラルは、妹の頭を優しく撫でた。
「きっと『選定の儀』は、いままでになかったほど盛大なものになるわね」
落ちついたソラルの声を、シリルは夢心地で聞いていた。
細められた姉の瞳が、冷たく自分を見下ろしていることなど気づかずに。
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