409 / 607
第十章 奴隷世界スレッジ編
第20話 王都へ2
しおりを挟むシリル皇女一行は、暗くなると道から少し離れた大木の下でキャンプを張ることにした。
「シロー、これは最高に美味いの」
シリルが喜んだのは、アップルサイダーに似た、エルファリアのジュースだ。
「お気に召していただき、嬉しいです」
「それにこの敷物は、ふわふわして気持ちいいのお」
彼女が褒めているのは、現在、商品開発中の緑苔を使ったクッションだ。
皇女でも喜ぶなら、これは商品として売れるかもしれない。
「皇女様、とっておきのお菓子を召しあがりませんか」
俺は、点収納からチョコレートの小箱を取りだす。
「なんじゃこれは?」
「口に入れたら舌の上に載せ、少し待ってください」
「モグモグ……おお!
舌の上で溶けていくではないか。
これは、最高じゃ!
お主をお菓子騎士に任命するぞ」
お菓子騎士ってなんだろう?
「う~む、お茶と一緒に食すると、また格別な味じゃの」
焚火に照らされたシリルが、満面の笑みを浮かべている。
「おい、ボー、ちょっと皇女様を甘やかせすぎじゃないか?」
「う~ん、娘がいるせいか、あの年頃の子をみると、世話を焼かずにおれないんだ」
「家庭での親馬鹿ぶりが、透けて見えるぜ」
「何とでも言え」
俺と加藤がそんなやりとりをしていると、点ちゃんから報告が入る。
『(・ω・)ノ ご主人様ー、二十人くらいが、灯りを点けずに近づいてくるよ』
なにっ!
それは、襲撃だな。
どんな人たち?
『(・ω・) 全員ドワーフみたい』
ただの盗賊だろうか。
とにかく、対処するか。
点ちゃん、どっちから来るの?
『(・ω・) 街の方だよー』
おっ、そうか。
いいこと思いついたぞ。
『( ̄▽ ̄) ご主人様が、また悪い顔してる』
加藤にだけは念話を通し襲撃のことを告げておき、ヤツらへの対処にとりかかった。
◇
盗賊の頭は、これから行う襲撃にワクワクしていた。皇女以外は、殺していいと言われている。場合によっては、皇女に手をかけるのも許されている。
ただ、その場合は、追加ボーナスは出ないが。
暗闇の中に皇女一行が、キャンプしているだろう焚火が見えてくる。
盗賊の頭は、舌なめずりした。
ワンドを取りだし、火属性魔術の用意をする。
念のため唱えた魔術で、ワンドの先に火が灯る。
手下たちも、ワンドの確認をしている。
暗闇の中に、小さな火がいくつも現れた。
その時だ。
突然頭の上からドバっと水を浴びせられた。
水には、独特の臭気があった。
「な、なんだ、いってえ!」
思わず声が漏れる。
「こんなところで火遊びすると、危ないよ。
今は、草が枯れている時期だから」
少年のような声がしたが、何か違和感があった。
声は、頭の上からしていた。
盗賊たちは、ワンドをしまうと、短剣に持ちかえた。
濡れたたワンドで魔術を唱えると、暴走する恐れがあるから、そのための行動だ。
「おめえ、誰だっ?」
「それより、ここに立っていると危ないって、ご主人様が言ってるよ」
ご主人様ってのは誰だ? もしかして皇女か?
盗賊の頭に、そんな考えがよぎったとき、すぐ横を何かの気配がゆっくり通りすぎた。
な、何だ一体。
ところが、彼は、それを確かめることは出来なかった。
なぜなら、物凄い勢いで戻ってきた何かが、彼と手下を跳ねとばしたからだ。
地面に倒れた彼らの上を、それは何度も往復した。
見えない何かに踏まれ、身体のあちこちの骨を砕かれた盗賊たちは、ただ力なくうめき声をあげることしかできなかった。
巨人から小水を掛けられ、しかもカバに踏みつけにされた盗賊たちが、ちょっとだけ気の毒だった。
0
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
異世界楽々通販サバイバル
shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。
近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。
そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。
そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。
しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。
「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる