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第十章 奴隷世界スレッジ編

第20話 王都へ2

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 シリル皇女一行は、暗くなると道から少し離れた大木の下でキャンプを張ることにした。

「シロー、これは最高に美味いの」

 シリルが喜んだのは、アップルサイダーに似た、エルファリアのジュースだ。

「お気に召していただき、嬉しいです」

「それにこの敷物は、ふわふわして気持ちいいのお」

 彼女が褒めているのは、現在、商品開発中の緑苔を使ったクッションだ。 
 皇女でも喜ぶなら、これは商品として売れるかもしれない。

「皇女様、とっておきのお菓子を召しあがりませんか」

 俺は、点収納からチョコレートの小箱を取りだす。

「なんじゃこれは?」

「口に入れたら舌の上に載せ、少し待ってください」 

「モグモグ……おお! 
 舌の上で溶けていくではないか。
 これは、最高じゃ!
 お主をお菓子騎士に任命するぞ」

 お菓子騎士ってなんだろう?

「う~む、お茶と一緒に食すると、また格別な味じゃの」

 焚火に照らされたシリルが、満面の笑みを浮かべている。

「おい、ボー、ちょっと皇女様を甘やかせすぎじゃないか?」

「う~ん、娘がいるせいか、あの年頃の子をみると、世話を焼かずにおれないんだ」

「家庭での親馬鹿ぶりが、透けて見えるぜ」

「何とでも言え」

 俺と加藤がそんなやりとりをしていると、点ちゃんから報告が入る。

『(・ω・)ノ ご主人様ー、二十人くらいが、灯りを点けずに近づいてくるよ』 

 なにっ! 
 それは、襲撃だな。
 どんな人たち? 

『(・ω・) 全員ドワーフみたい』

 ただの盗賊だろうか。
 とにかく、対処するか。
 点ちゃん、どっちから来るの?

『(・ω・) 街の方だよー』

 おっ、そうか。
 いいこと思いついたぞ。

『( ̄▽ ̄) ご主人様が、また悪い顔してる』 
  
 加藤にだけは念話を通し襲撃のことを告げておき、ヤツらへの対処にとりかかった。

 ◇

 盗賊の頭は、これから行う襲撃にワクワクしていた。皇女以外は、殺していいと言われている。場合によっては、皇女に手をかけるのも許されている。

 ただ、その場合は、追加ボーナスは出ないが。
 暗闇の中に皇女一行が、キャンプしているだろう焚火が見えてくる。
 盗賊の頭は、舌なめずりした。

 ワンドを取りだし、火属性魔術の用意をする。
 念のため唱えた魔術で、ワンドの先に火が灯る。
 手下たちも、ワンドの確認をしている。
 暗闇の中に、小さな火がいくつも現れた。

 その時だ。
 突然頭の上からドバっと水を浴びせられた。
 水には、独特の臭気があった。

「な、なんだ、いってえ!」

 思わず声が漏れる。

「こんなところで火遊びすると、危ないよ。
 今は、草が枯れている時期だから」

 少年のような声がしたが、何か違和感があった。
 声は、頭の上からしていた。

 盗賊たちは、ワンドをしまうと、短剣に持ちかえた。
 濡れたたワンドで魔術を唱えると、暴走する恐れがあるから、そのための行動だ。

「おめえ、誰だっ?」

「それより、ここに立っていると危ないって、ご主人様が言ってるよ」

 ご主人様ってのは誰だ? もしかして皇女か?
 盗賊の頭に、そんな考えがよぎったとき、すぐ横を何かの気配がゆっくり通りすぎた。

 な、何だ一体。

 ところが、彼は、それを確かめることは出来なかった。
 なぜなら、物凄い勢いで戻ってきた何かが、彼と手下を跳ねとばしたからだ。

 地面に倒れた彼らの上を、それは何度も往復した。
 見えない何かに踏まれ、身体のあちこちの骨を砕かれた盗賊たちは、ただ力なくうめき声をあげることしかできなかった。

 巨人から小水を掛けられ、しかもカバに踏みつけにされた盗賊たちが、ちょっとだけ気の毒だった。
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