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第十章 奴隷世界スレッジ編
第4話 ドワーフの鍛冶屋
しおりを挟むこの日、俺はリーヴァスさんに連れられ、アリスト東方にある鉱山都市に来ていた。
この都市には獣人国へのポータルがあるため、すでに何度も訪れているのだが、今までは、いつも素通りするだけだった。
しかし、今回はある目的があって来ている。
俺たちは、この街の小さなギルドに挨拶した後、都市から山岳地帯へ向かう山道を歩いていた。
「もう少しです」
リーヴァスさんは、息も切らせていない。
俺も冒険者として鍛えているつもりだが、正直、少し足にきていた。
もうすぐ着くと聞き、ほっと一息つく。
人気の無い山道を急角度に曲がると、山肌にへばりつくような集落が見えてきた。
リーヴァスさんが一軒の小屋のところへ行き、今にも壊れそうな扉をノックする。
「誰だ?」
野太い声と共に扉が開く。
そこには、頬から顎にかけ、褐色の髭を伸ばし放題にした小さな男性が立っていた。
年のころ五十くらいだろうが、やけに背が低い。
俺の胸あたりまでしかない。
その代わり、身体はがっしりしており、特にその右手は恐ろしいほど筋肉が発達していた。
「おう、リーヴァスの旦那か」
「ジュガール殿、お久しぶりです」
二人は、がっしと握手する。
「そっちの若いのは?」
「ああ、私が所属しているパーティのリーダーで、シローです」
「もしかして、パーティ・ポンポコリンの『黒鉄シロー』かい?」
彼は、目を丸くしてこちらを見る。
だけど『黒鉄シロー』って、なんかねえ。
「あー、はい、シローです」
俺は、苦笑いして答えた。
「『黒鉄シロー』に会ったって言やあ、話の種になるぜ。
まあ、とにかく中へ入ってくんな」
建物の中に招きいれられた俺たちは、大きい方の椅子に座った。
『大きい方』というのは、部屋には大きな椅子と小さな椅子、二種類の椅子があったからだ。
一度、奥へ引っこんだジュガールが再び現れ、お茶を俺たちの前に置いた。
「お、旨いですね」
俺は思わず声を上げた。
濃い色のお茶は、どことなくウーロン茶を思わせる味がした。
「そうかい?
嬉しいねえ。
故郷の茶が恋しくなってな。
茶の木を種から育てたんだ。
ドワーフの茶と言えば、この『鉄茶』だな」
その言葉で、彼が初めて見る種族、ドワーフだと知った。
「ジュガール殿、今回はお願いがあって参ったのです」
「雷神殿の頼みとあらば、喜んで引きうけたいが、生憎、ミスリルを切らしちまってな。
それが入るまで待ってもらえるなら仕事を受けるが……」
ジュガールは、本当に残念そうだ。
「金属は、ある程度こちらで用意できます」
リーヴァスさんが、微笑んで言う。
「おっ、そういうことなら、ぜひ引きうけさせてもらいてえ。
金属は持ってきてるんで?」
リーヴァスさんは、彼のマジックバッグに手を入れると、白く輝く金属を取りだした。
「こっ、こいつはっ!」
ジュガールの顔が驚きに固まる。
「ええ、パールタイトです」
「さ、触ってもいいですかい?」
「ええ、どうぞ」
リーヴァスさんは、光沢がある白い金属の延べ棒をテーブルの上に置いた。
ジュガールは、震える指先で延べ棒に触れると、両手で拝むようにそれを顔の前に持っていった。
彼の目からは涙が流れている。
なぜ、ここで涙?
「やっと、やっとこの日が来たか……」
ジュガールは、延べ棒を慈しむように撫でる。
「わしゃ、こいつを使いこなせるような鍛冶屋になるのが夢でな。
それでこの年まで金槌を振ってきたんだ」
彼が感極まった様子で黙りこんでしまったので、リーヴァスさんが本題に入る。
「これで十一人分の防具と四人分の武器を作ってもらえるかな」
「じゅ、十一人!
しかし、旦那、そのなると、これだけじゃ全然足りねえぜ」
リーヴァスさんは、それに答える代わりに、マジックバッグから、さらに四本の白い延べ棒を取りだした」
「げえっ!
こ、これが、全部パールタイト……」
「ジュガール殿以外に、これを頼める者を知らぬのでな」
「だ、旦那……」
リーヴァスさんの言葉に、ジュガールは再び涙を流しだした。
「それと、もしできるなら、これを使い、あと三つの防具と二つの武器を作ってもらいたい」
次にリーヴァスさんが取りだしたのは、黄金色に輝く金属だった。
「ア、アダマンタイト……」
ドワーフの鍛冶は、驚きを通りこし、呆れた顔になっている。
「で、できるかな?」
「で、できるも何も、この仕事を受けなきゃ、ドワーフの鍛冶じゃねえ!
ちょいと待っててくだせえよ」
ジュガールは俺たちが入ってきた扉を開くと、外に飛びだした。
◇
やがて部屋は、ジュガールと同じような背丈の男たちで一杯になった。
ドワーフが二十人近くいるようだ。
部屋に入るなり、全員がテーブルの上に積みあげられた金属に見入っている。
「す、すげえ!」
「おい、夢じゃないだろうな?」
「生きてて良かった!」
なんか、すごい感想だな。
ジュガールが、それに負けないよう大声を張りあげる。
「雷神リーヴァスと黒鉄シローから、鎧と武器の注文が入った。
パールタイトで、十一の鎧と四つの武器。
アダマンタイトで三つの鎧と二つの武器。
俺一人じゃ、到底作れねえ。
皆の衆、手伝ってくれるか?」
「「「おおー!!」」」
こうなると、もう鬨の声だね。
こうしてリーヴァスさんと俺は、仲間のために鎧と武器を作ってもらう依頼を済ませた。
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