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第九章 異世界訪問編
第50話 新天地へ
しおりを挟む異世界に出発する朝、ポータルを渡る者とそれを見送る者が、『地球の家』に集まった。
異世界に渡る研究者六名は、最終面接で俺が点をつけておいたから、瞬間移動で呼びよせた。
見送りは、加藤夫妻、ヒロ姉、渡辺夫妻、畑山のおやじさん、ハーディ卿、翔太の『騎士』、柳井さん、後藤さん、それと昨日来た三人の研究者だ。
緊急時に備え、『異世界通信社』に残っている遠藤は、映像で参加する。
驚いたことに、飛びいりで林先生が異世界科の生徒たちを連れて現れた。
「生徒たちに転移を見せてやりたくてな」
確かに、最高の実地研修だろう。
生徒たちには、『地球の家』の中も案内してやる。
「うわっ!
なに、このお風呂の広さ!」
「この灯り、なんだろう。
すごく心が安らぐなあ」
「それより、どんだけ広いの、この家!」
ああ、そうそう。彼らには、出発前にサプライズが提供できるな。
このサプライズは今のところ俺とエミリーしか知らないから、家族も驚くはずだ。
全員が出発に備え、『地球の家』が取りかこんでいる、正方形の中庭に集まった。
◇
異世界に渡る人々を庭中央に円形に集め、見送る人々を家の壁際に配置した。
異世界に転移するメンバーに漏れがないか、中央に集まった人々を一人一人確認してく。
俺の家族と仲間だけなら一目で分かるが、今回は研究者もいるからね。
研究者は全員が緊張した顔をしているが、同時に興奮も隠せない様子だった。
これなら安心だなと思った時、一人、そこに居てはならない人物を見つけた。
ヒロ姉だ。
見送り組のはずの彼女が、なぜか転移する研究者の隣に平然と立っている。
俺と目が合うと、あらぬ方を見て口笛を吹くふりをしている。
あんたは子供か!
振りかえると、加藤のおばさんとおじさんが俺に向かい、ごめんなさいのジェスチャーをしている。
彼らが許しているなら、まあかまわないだろう。
ヒロ姉は、向こうに居場所もあるしね。
しかし、ただでさえぎりぎりの人員でまわしている『異世界通信社』の業務に支障をきたすではないか。
ふと、サブローさんの方を見ると、手でオッケーのサインを出している。
彼らがサポートするつもりなのだろう。
全く、ヒロ姉の破天荒な行動には、毎回毎回困らされる。
次はどこで反省してもらおうか。
俺のそんな考えを断ちきったのは、畑山のおやじさんからが発した腹に響く声だった。
「おう、翔太!
しっかりやれよ」
「うん、お父さん、行ってきます」
それをきっかけに、見送り組から次々と声がかかった。
「エミリー!
気をつけてな」
「うん、お父さん、私は大丈夫よ」
ハーディ卿とエミリーの心温まるやりとり。
「シロー、また高校に遊びにこいよ」
これは林先生。
「「「ありがとー、また来てください」」」
異世界科の生徒たち。
「「「プリンスー!」」」
黄色い声は、翔太の『騎士』たち。
最後に残しておいたサプライズのため、円を作った出発組の中央辺りに俺一人が出ていく。
◇
出発組の中央に立った俺は、エミリーを手招きした。
訳知り顔のエミリーが横に立つと、俺は口を開いた。
「みなさん、地球滞在中は、いろいろお世話になりました。
俺たちはパンゲア世界に帰りますが、またこの世界を訪れたときは、仲良くしてください。
懐かしくなったら、もうすぐ発売されるコリーダの曲を聞いてくれると嬉しいです」
コリーダの曲を聞いたことがある異世界科の生徒、『騎士』から歓声が上がる。
「最後に、とっておきのサプライズを用意しました。
二度と見られない光景ですから、心に焼きつけてもらえたらと思います」
エミリーが、しゃがみこむ。
彼女の前には、小さな双葉があった。
俺たちが地球に帰ってすぐエミリーが植えたものが芽を出したのだ。
エミリーの手が輝き、双葉も光りだした。
地球で出会ったどの神樹様より強い光だ。
光が収まったとき、そこには、キラキラ光る透明感に溢れた双葉があった。
聖樹様から頂き、エミリーが植えたのは、『光る木』である神樹様の種だった。
皆がすごく驚いた顔をしたが、それは俺も同じだった。
双葉が神樹様だという事は知っていたが、まさか、『光る木』の神樹様だったとは。
真竜廟で『光る木』の神樹様がこの世を去るときの毅然とした態度を思いだし、俺は胸がいっぱいになった。
まだ念話も出来ない神樹様から、あたたかな波動が皆に伝わる。神樹様の祝福だ。
出発する者、見送る者共に、驚いたような、そして感動したような顔をしている。
「では、行ってきます。
皆さん、お元気で」
見送り組が声を合わせる。
「「「よい風を」」」
転移組が、それに答える。
「「「よい風を」」」
俺はパンゲア世界アリストに照準を合わせ、セルフポータルを開いた。
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「異世界訪問編」終了 「奴隷世界スレッジ編」に続く
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