上 下
384 / 607
第九章 異世界訪問編

第45話 救い

しおりを挟む


 沖縄で思いっきり楽しんだ家族と、俺が合流したのは、みんなが『地球の家』に帰って一週間後だった。

 家族と仲間たちは、余りに楽しいから滞在を一日伸ばしたそうだ。
 ヴィラは予約してあったからいいんだけどね。俺だけ沖縄を楽しめなかったじゃない。
 ルルの水着が……。

『(^▽^)/ ご主人様といっぱい遊べて楽しかったよー』

 点ちゃんがそう言ってくれるなら、まあいいか。

 ところで、俺の帰宅が遅くなったのは、理由があったんだ。
 その話をしておこうかな。

 ◇

 地球温暖化について国連会議が開かれている会場をいきなり訪れた。

 そこで、俺と俺の家族を狙ったグループがいたことを公表した。
 もちろん、この部分はオフレコだ。
 犯行に加わった十人の名前と国籍を口頭で伝える。

 自国の関係者だと分かった出席者は、まっ青になっている。
 それはそうだよね。
 このことで自国の首脳部が全員消されちゃうかもしれないんだから。
 ある国の女性代表なんか、失禁しちゃった。

 関係国の首脳を消さない代わりに、俺は二つの条件をつけた。
 一つは、彼らの国に対して、十年間『枯れクズ』の値段を三倍にすること。
 もう一つは、国内で武器商人を厳しく取りしまること。

 関係国の出席者は、厳しい条件にも関わらず、涙を流し喜んでいた。
 最後に俺は低い声で、次のように言った。

「武器商人の取りしまりに関しては、本気であるかどうか、こちらには調べる手段がある。
 いい加減な事をすると、こんどこそ首脳部を消す。
 消去に関しては、あくまで一時停止であることを忘れるな」

 これで、関係国から来たほとんどの者が失禁した。俺の家族には内緒だ。

 ◇

 ユーラシア大陸北方に位置する、ある国の病院を訪れた。
 そこは難病にかかった子供専用の医療施設で、入院しているのはほとんどが裕福な家庭の子供だ。

 ある病棟を訪れた俺は、受付で自分の身分と誰のお見舞いに来たかを告げる。
 呆然としている看護師が多い中、ベテランの女性がてきぱきと動いてくれた。
 院長が慌てて駆けつける。

「お噂はかねがねうかがっております。
 今日は、このようなところへ何のご用で?」

「この病院にイリーナと言う少女が入院しているはずですが」

 俺は、『赤いサソリ』のファミリーネームを告げた。
 ベテランの看護師が、すぐに答えてくれる。

「はい、三〇五号室です」

「ありがとう。
 案内してもらえるかな?」

「はい、すぐに」

 中年の女性はそう言うと、先に立って歩きだした。その後を俺が、そしてなぜかその後ろに院長が続く。

「ここです」

 ノックをした後、看護師はドアを開けた。
 個室のベッドには、黒っぽい顔色をした少女が横たわっていた。
 おそらく十五歳くらいだろう。

「彼女の関係者は父親以外にいますか?」

「いえ、書類に父親以外誰の名前は書かれていませんし、お見舞いに来るのも父親だけでした」

「ちょっと、二人とも外に出ていてもらえますか?」

「は、はい。
 おい君」

 院長が看護師を連れ、外に出た。

「イリーナ、聞こえるかい」

 俺は、そっと話しかけた。
 彼女は閉じていた目を薄く開け、光のない目で俺を見た。
 その目は、最初に会った時のコリーダを思いださせた。

「あなた、誰?」

「俺はシロー。
 君のお父さんの友人だよ」

「パパ……パパは死んじゃった。
 私も死んでパパに会いにいくの」

「パパからの伝言を預かっているんだけど、聞きたいかい?」

「ほ、本当!」

「ああ、本当だとも」

「聞かせてっ!」

 暗かった彼女の目に一筋の光が浮かんだ。

「じゃ、話すよ」

『イリーナ、元気になっておくれ。
 そして、幸せになっておくれ。
 それがパパから最後のお願いだ』

 イリーナの目が大きく見ひらかれると、真珠のような涙がぽろぽろとこぼれた。

「パパ……パパッ!」

 彼女は俺の胸にすがりつくと、大きな声で泣きだした。
 恐らく、今の今まで悲しみをこらえていたのだろう。

 点ちゃん、どうだい?

『(Pω・) 体の特定の場所に小さな石のようなものが溜まる病気みたい。
 それを定期的に取りのぞけば大丈夫だよ』

 なるほど、根本的な治療は舞子じゃないと無理か。
 じゃ、点ちゃん、とりあえず石を取りのぞいてあげて。

『(^▽^)/ 分かったー』

 俺の手から、光る点がイリーナの体に入っていく。
 彼女の背中の辺りが二か所、治癒魔術の光に包まれる。

「なんだろう。
 なんだか、あったかくって気持ちいい」

 泣きやんだイリーナが、俺の胸でつぶやく。
 光が消えると、イリーナの顔色は見ちがえるほど良くなっていた。
 俺は部屋の外にいる院長と看護師に声を掛けた。

「入ってきてください」

 二人は入ってくると、イリーナの様子に驚いた。

「イリーナちゃん、すごく顔色がいいわね」

「ターニャおばさん、あったかくって、すごく気持ちがいいの」

 看護師さんが、まだ涙で濡れているイリーナの顔をハンカチで拭いている。

「院長、イリーナを俺に任せてもらえませんか。
 治療は俺が行います」

「そ、そうはいっても……」

「何なら大統領から連絡してもらいますが」

「えっ! 
 い、いえ、それには及びません。
 退院の手続きはこちらでしておきます。
 支払われた金額との差額は、イリーナさんにお渡しします」

「ありがとうございます。
 あと、ターニャさん、ご家族は?」

「私ですか? 
 もう家を出て自立した息子と娘が一人ずついます。
 気楽な一人暮らしです」

「できれば、あなたにもイリーナについてきて欲しいんです」

「し、しかし、それは……」

 さすがに、院長が口を挟む。

「院長、許可して頂けるなら、異世界の医療技術を優先してこちらに教えてさしあげますが……」

「ぜひぜひ、お願いします! 
 ターニャ、イリーナさんを頼むぞ」

 分かりやすい院長だな。

『(・ル・) お髭のマウシーさんみたい』

 いや、点ちゃん、まさにそのとおり。

「ターニャさん、給料の方は心配される必要はありませんよ。
 あと、定期的にお国に帰られるようにこちらで手配しましょう」

「ほ、本当にそんな条件でいいんですか?」

「ええ、任せてください。
 詳しいお話は後ほどしましょう」

 イリーナが元気になるまでは、ターニャさんが側にいた方がいいだろう。
 それにターニャさんのような人材は、お金に代えられないからね。

『( ̄ー ̄) ご主人様は、悪いですね~』

 いや、彼女のような人材の価値が分からない院長がダメでしょ。

 ◇

 二日後、旅行用の荷物を持ったターニャさんとイリーナが病室で待っていた。
 俺は二人の手を取ると、荷物ごと『地球の家』の中庭に現れた。
 二人は何が起こったか分からず、呆然としている。
 中庭に面したドアが開いて、ルルが出てくる。

「ようこそ、わが家へ」

 彼女はそう言うと、にっこり笑った。
 イリーナとターニャさんはルルの笑顔を見て安心したようで、彼女と手を繋いで家の中に入っていった。

 こうして、俺は、自分と家族を殺しに来た男の娘を預かることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...