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第九章 異世界訪問編
第42話 闇の商人
しおりを挟む史郎たちが神樹様を癒す旅に出ているころ、中東のある町に職業を同じくする男たちが集まっていた。
オイルマネーで建てられた大きな屋敷の一室には、十人の男たちがいた。
彼らは表の職業として様々な看板を掲げていたが、裏の稼業は一つである。
死の商人。
つまり、武器商人である。
男の一人が、目の前のテーブルにドンと握りこぶしを落とす。
「これは一体どういうことだ!」
「やはり、お前のところもか」
別の男がため息とともにぼそりと洩らした。
恐らく白人と中国人の混血であるだろう痩せた老人が、テーブルの上を扇子でぴしりと叩いた。
皆の注目が集まる。
「これまで世界のあらゆる場所で、我々は人々の憎悪をかきたて、戦争を促してきた」
他の九人が頷く。
「ところが最近になって、人々が争いを止め、対話を求めはじめておる」
「まさにその通りです。
それが武器の売りあげ減少に影響しています」
サングラスを掛けた若い白人が、少し間を置いたうえで、テーブルの上に組んだ拳の上から発言した。
「原因は、おそらく異世界との接触です」
彼の言葉に、他の九人が目を見開く。
「異世界との接触については知っているが、それがどうしてこの結果と結びつく?」
発言したのは、軍服を着た黒人である。
サングラスの白人は組んだ拳を解くと、こう発言した。
「将軍、あなたは『地球人』という言葉を聞いたことがありませんか?」
「……うむ、最近ちょくちょく新聞で見るな」
「いいですか、人々を争わせることができるのは、隣人と自分たちが違うという考えを持っているからです。
その彼らが、もし、隣人が自分と同じ人間だと気づいてごらんなさい」
「なるほど、そうなると争いの種は生まれないな」
「しかし、彼らが現れて、いくつかの国からの武器購入が増えているぞ」
パナマ帽を頭に乗せた太っちょが、葉巻を振りまわしながら発言する。
二人の男がそれに頷いた。
「ああ、彼らが兵器を消した国ですね」
「兵器を消した?」
サングラスの若者は一人一人と目を合わせた後、こう発言した。
「非公式な情報ですが、異世界からの帰還者が、核ミサイルを含むいくつかの軍事基地を消したようです」
場を沈黙が支配する。
中国系の老人が口を開く。
「私の所にもその情報は入ってきているが、さすがに信じる訳にはいかんと思い、放っておったのだがな」
サングラスの若者が続ける。
「武器を大量に失った国は、一旦それを補おうとするでしょう。
しかし、先ほど言ったように、憎しみの連鎖が作りだせなくなった後でも、同じ量の武器を購入すると思いますか?」
再び静寂が訪れた。
将軍と呼ばれた黒人が発言する。
「ならば、一体どうすればいいのだ」
「消すんですよ」
サングラスの返えは、間髪入れなかった。
「異世界との接触が途切れたら、再び憎しみの連鎖を作りだすのは容易です」
今まで発言していなかった、中南米から来た褐色の肌を持つ男が立ちあがる。
「おい、帰還者はポータルズ条約で守られているんだぞ。
それを狙うとなると、相当の覚悟が必要だ」
相当の覚悟というのが、母国を巻きこむことであるのは言うまでもあるまい。
死の商人は、全員が複数の政府と太いパイプで結ばれていた。政府の協力なくしては、武器など売れないからだ。
ほぼ、全ての紛争、戦争は、権力者と彼ら死の商人が組んで引きおこしたものだ。
「国の首脳部が何人死のうが、我らには何の関係もありません。
違いますか?」
「……それもそうだな」
サングラスの発言に、中南米出身の男も納得したようだ。
「今回は失敗できませんから、『赤いサソリ』を使うつもりです」
サングラスはそう言うと、全員を見回した。
「高くつくのう」
中国系の老人が、ため息をつく。
「しかし、確実ですよ」
「ロン、ここは費用の事は言っておれまい」
パナマ帽の男が、きっぱりした口調で言う。
「では、前回と同じく、費用は十等分という事でよろしいですね?」
サングラスの言葉に全員が頷いた。
武器商人たちは、異世界からの帰還者と異世界人を抹殺することに決めた。
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