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第九章 異世界訪問編
第29話 異世界科2
しおりを挟む異世界科の授業は、林先生の質問で始まった。
「まずは、先生から質問するぞ。
シロー、異世界を結びつけるポータルについて教えてくれ。
生徒たちは概念としては知っているが、どうも実感が持てないようなんだ」
「そうですね。
トンネルが世界間を繋いでいると考えるといいでしょう。
トンネルの入口と出口がポータル、つまり、門というわけです。
異世界を渡るときの感覚は、エレベーターが降りるときに似ているかもしれません」
生徒たちは、目を輝かせ頷いている。
俺の言葉が終わると同時に、ほとんどの者が手を挙げた。
林先生が指名した女子生徒が立ちあがる。
「皆さんの故郷は、どんな世界ですか?」
まず、コルナが答えた。
「私がそこから来た世界グレイルは、大きな大陸が一つと、小さな大陸が二つあるわ。
私が住んでいた大陸の北東部は緑が多いけれど、大陸中央は砂漠が広がっているの。
全体で見ると、乾燥した大陸と言えるでしょうね。そこに様々な獣人が住んでいるの」
コルナがそこで、ミミとポルを手で示した。
次にコリーダが答える。
「私の故郷、エルファリアという世界は、大きな大陸が四つあるの。
最近まで、大陸は三つだと思われていたけれど、シローが四つ目を見つけたのよ。
それはもう大騒ぎだったわ。
そこに、エルフ、ダークエルフ、フェアリス、北部原住民が住んでいるの。
少ないけれど、人族もいるわよ」
最後に、ルルが答える。
「私の故郷はパンゲア世界。
シローを含めてここにいる家族も、今はそこに住んでいるの。
彼に言わせると、この世界の『中世』という時代に似た文化らしいわ」
「分かりやすいご説明ありがとうございました」
次は、小柄な男子生徒が、元気よく質問した。
「魔法があるって本当ですか?」
再びコルナが答える。
「あるわよ。
ただ、魔法ではなく魔術ね。
いろいろな属性の魔術があるわよ。
さっき、シローがこの子たちを透明にしていたでしょ。
あれは闇魔術ね」
「先生から、シロー先輩は魔法が使える、って聞いてるんですが……」
「ああ、彼は特別。
私が知っている人で、魔法を使えるのはシローだけよ」
「どんな魔法なんですか?」
「こら、スキルの事について、あまり突っこんだ質問をしてはいけないと言ってあっただろう」
林先生が、すぐに指摘する。
「あー、先生、そのとおりなんですが、ここは少しだけ俺の魔法を見せましょう」
俺が言うと、教室中がどよめいた。
黒板に白いシート三枚を大きく展開し、グレイル、エルファリア、パンゲア各世界の風景を映す。
「うわっ、すげーっ!
本当に中世っぽい街だな」
「きゃー、ケモミミがいっぱいいる!」
「すごい!
みんなエルフだ」
全員が腰を浮かせ、それに見入っている。
俺はそれぞれの世界を写した風景を何枚か見せてから、シートを消した。
「魔法ってすごいんですね」
「君、彼は最初からいろんなことができたわけじゃないんだよ。
努力と工夫で、魔法が上達したんだ」
リーヴァスさんが、すぐに釘を刺した。
「ボ、ボクもいつか、魔術が使えるようになりますか?」
俺と先生が視線を交わす。
「実はな、今日この場で発表があるんだ。
この地球世界から、パンゲア世界への魔術留学第1号が決まった」
「「「おおーっ!」」」
生徒から歓声が上がる。
「せ、先生、誰です?」
「残念ながらこのクラスの生徒ではないが、君たちもよく知っている人物だよ」
「誰だろう」
「見当もつかないや」
「きっと偉い人だよ」
翔太が瞬間移動で、俺たちの横に現れる。
今日の彼は、スーツ姿の正装だ。
一瞬の静かになった後、クラスから歓声が上がる。
「キャーっ!
リアル翔太君よっ!」
「プリンスー!」
「翔太く~ん」
あちゃー、女の先生まで声かけちゃってるよ。
「畑山翔太です。
姉はこの学校にいました」
「「「知ってるー!」」」
「女王畑山様よね」
「そうそう、女王様」
みなさん、必要以上に知っていませんか?
「お姉ちゃんのコネじゃねえの?」
当然、そういう考えを持つヤツもいるだろうね。だから、翔太をこの場に呼んだんだ。
「翔太、水玉を頼む」
「はい、ボーさん」
翔太が魔術を詠唱すると、空中に直径一メートルくらいの水玉ができた。
彼は、自由自在にそれを動かした。
「翔太、凄いっ!」
エミリーが歓声をあげる。
俺が手で合図すると、翔太が水玉を消した。
「まあ、魔術留学するっていうんなら、これくらいはできないとね」
さっきコネ発言をした生徒の目を覗きこむ。
彼は、まっ赤になった。
「いいか、すぐに魔術留学は無理にしても、異世界へ留学するチャンスが生まれたことには変わりはない。
そして、そのチャンスが世界中で一番あるのが、お前らだ」
林先生の声に、生徒たちの興奮が高まる。
「先生、俺、頑張る!」
「私もっ!
異世界で翔太君とデート、ムフフ」
「異世界留学っ!
夢みたい。
異世界科に入って良かった!」
中には不純な動機もあるようだが、彼らの学習意欲が一気に高まったのは間違いない。
校長先生を始め、先生方がニコニコしている。
それからも、ポルの耳や尻尾が本物かとか、異世界の食事事情とか細かい質問が続いた。
先生が時計を見て、授業を閉めようとする。
「それでは、最後に俺から言っておくことがある。
お前ら、地球上で異世界人と直接話したり、会ったりした者がどれほどいると思う?
恐らく百人もいまい。
その中にお前らも入ってるんだ。
そのことの意味をよく考え、人類に貢献するように。
では、授業を終わる」
生徒たちからはもちろん、先生方からも盛大な拍手が上がった。
この後、俺たちは、生徒たちと食事をする予定になっている。
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