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第九章 異世界訪問編

第23話 会見と動物園1

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 俺は、ワシントンにある建物の一室に現れた。
 エミリー、翔太、ハーディ卿が一緒だ。
 部屋には、縦長のテーブルがあり、一人だけ座っていた人物が立ちあがった。

「ジョン、シロー、久しぶりだな」

「お久しぶりです、サム」
「ご無沙汰しております」

 俺は、彼に翔太を紹介する。

「こちらは、翔太です。
 エミリーの護衛のような立場です」

「子供が、子供の護衛? 
 よく分からんが、シローの事だから何か意味があるんだろう」

 俺たちは、用意されていた席に座った。
 壁際のSPが無線で連絡すると、すぐに食事の用意がなされた。

「ボーさん、この方って、大統領?」

 翔太は、パーティで一度、大統領に会っているからね。

「そうだよ。
 改めて自己紹介したらいいよ」

 翔太は、多言語理解の指輪を外すと、流暢な英語で自己紹介した。

「ほう! 
 日本人にしては、英語が上手いな。
 君の年で、それだけ話せれば凄いよ」

 トーマス大統領が、感心している。
 食事は、さすがに美味しかった。
 中華風のセイロやツユに入った麺類もあったので、多国籍料理だね。

 エミリー、翔太を別室に送ると、俺は大統領とハーディ卿に、聖樹様の話をした。

「世界群の危機? 
 具体的には、どんなことだい?」

 大統領は戸惑った顔をしている。

「まず、知っておいて欲しいのは、地球もその世界群に含まれるという事です。
 これは、ランダムポータルとはいえ、転移できることからも明らかです」

 そこで、俺は一旦言葉を切った。
 話したことが、二人の頭にしっかり入ったのを見計らい、爆弾を投下する。

「俺が、予想している世界の危機とは、ポータルズ世界群の消滅です」

「……」
「……」

 まあ、そういう反応になるよね。
 余りの事に、すぐには受けいれることができない事柄が、次第に彼らの頭に入っていく。
 二人の顔が、次第に青くなる。

「エミリーだけが、それを救える可能性があるのです」

 二人はさらに青くなり、黙っていた。
 最初に口を開いたのは、ハーディ卿だった。

「なるほど、それが娘が役目を果たすべき理由ですな」

「ええ、そういうことです」

「『皆の役に立つ人になりなさい』、亡くなった妻がいつも言っていたことです。
 シローさん、娘を……娘を頼みます」

 ハーディ卿は、涙を流し、肩を震わせている。

「シロー、我が国ができることはないか?」

 大統領が、いつもと違った厳しい目で俺を見る。

「この国には、世界的な頭脳の多くが集まっています。
 彼らの力を借りたい。
 アフリカの『枯れクズ」研究所を手伝ってくれると助かります』

「よかろう。
 最優先で人材を送ろう」

「彼らには、異世界からその世界の知識を持つ研究者が来ていると伝えてください。
 優秀な人ほど、喜んで参加するはずです」

「うむ、分かった。
 本当なら明日、ワシントンを案内する予定だったが、そうもいかぬな」

「ええ、連絡はハーディ卿を通してください。
 確実に俺に届きます」

「どんな方法で届くか知りたいところだが、ここは聞かずにおくよ。
 では、事態が落ちついたら、また会おう」

「俺もそうなることを願ってます」

 俺は、エミリーと翔太が待つ部屋から、ニューヨークのハーディ邸に瞬間移動した。

 ◇

 エミリーと翔太を連れ、俺が、「地球の家」に帰ってみると、みんなは外に出たくてウズウズしていた。

 各国首脳へはアメリカ大統領経由で俺たちの事を伝えてもらってあるから、このメンバーはポータルズ条約加盟国なら、どこへでも行ける。
 パスポートも不要だ。

 「異世界通信社」の後藤さんが、世界に向けた会見の話を持ってくる。
 場所は、以前「初めの四人」が会見をおこなった、海外特派員協会だ。
 俺は、それを受けることにした。

 ただ、エミリー、翔太は参加させない。
 彼らは、上空に待機させた点ちゃん1号から、会見の様子をライブ映像で見ることになっている。
 会見は二日後の予定だから、それまでは、みんなのしたいようにさせておこう。

 後藤さんに、都心のホテル最上階にあるスイートルームを押さえてもらう。

 俺、ルル、コルナ、コリーダ、ナル、メル、リーヴァスさん、ミミ、ポルの総勢九人は、ブラン、ノワール、コリンを連れ、町へ繰りだした。

 ◇

 俺が最初の目的地に選んだのは、動物園だ。

 ナルとメルを喜ばすのはもちろんだが、どんな生き物がいる世界か説明するのに一番簡単だからだ。
 俺たち九人が入場門を潜る頃には、周りに人垣ができていた。

「おい、あれって映画の撮影か?」
「いや、どう見てもコスプレだろう。
 尻尾や耳がついてる人がいるから」
「あの超綺麗な人って、エルフの仮装?」

 予想していたことだけど、煩いことになった。
 ブランに追いはらわせることもできるが、それだと余計に騒ぎが大きくなる可能性もある。

 俺は、気にしないよう皆に告げると、動物園の中を歩きだした。
 ブラン、ノワール、コリンもフリーパスだ。政府の方から連絡してもらってあるからね。

 檻の中にいる虎が、ちょこちょこ歩くコリンに気づくと、威嚇するように格子の手前まで近づいてきた。ナルとメルを目にすると、さっと横になり、お腹を見せる。

「わーい、かわいいね」
「かわいいー」

 二人は、すごく喜んでいる。

 動物好きな人たちが集まっているのだから、コルナ、ミミ、ポルが注目を集めたのは仕方あるまい。
 皆、動物そっちのけで、三人の方を見ている。
 勝手に写メを撮っている人のスマートフォンは壊しておいた。

「リーダー、地球って思ったより大きい動物がいるのね」

「ミミはそう思うかい?
 だけど、この子たちが実際に住んでいるのは、あまり人がいない地域でね」

「シローさん、どうして動物をこんなところに連れてきてるの?」

「ああ、ポル、それはみんなに見せるためかな」

「お兄ちゃん、何のために?」

 コルナが、不思議そうな顔をする。

「まあ、教育の一環かな。
 普通なら目にすることができない動物を見ることで、野生動物への興味を持ってもらうためだろう」

「うーん、どうもよく分からない」

 動物園という文化がない世界から来た彼女は、納得できないようだ。

 事件は、俺が手洗いに行った隙に起きた。
 動物園の一角から悲鳴が上がったのだ。
 俺はその辺りに瞬間移動した。

 この動物園では、深く掘りこんだ広場でライオンを飼っている。お客さんは、それを上から見る形だ。
 その場所に人だかりがあった。

「こ、子供が!」
「誰か、助けろっ!」
「係の人を呼んでっ!」

 俺が、手すりの上に立ったので、周囲の人がギョッとしたようだ。

「あんた! 
 危ないぞ」

 俺は、親切に注意してくれる人に頷き、下を見た。

 ナルとメルが、スキップを踏みながら、一番大きなオスライオンに近づいていくところだった。

 彼女たちを目にしたライオンは、ぱっと伏せると、やはりお腹を見せ恭順の姿勢を取った。
 二人はそのお腹を撫でながら、ライオンに何か話しかけている。
 ライオンが立ちあがると、二人はさっとその背に乗った。

「わーい、お馬さん」
「わーい」

 ライオンは、立派なたてがみを揺すりながら、場内を何周かした。
 心配して見ていた人々が、呆れたような顔をしている。

「あの子たち、すごーい」

 背伸びしてナルとメルを見ていた女の子が、拍手を始める。
 拍手は次第に大きくなった。
 二人は、俺の方に手を振っている。

 しょうがないので、俺も場内に降りる。
 二人をライオンの背から抱えおろす。
 ライオンは、チラリと俺を見たが、大人しくしていた。

 俺は、おそらくエサをやるためのドアを点魔法で開け、ナルとメルを連れて外に出る。
 もちろん、ドアにはカギをかけておいた。

「パーパ、面白かったよ」
「あれ、何ていう子?」

 説明板があったので読む。

「ライオンっていう動物だよ。
 名前は『レオ』君だって」

 二人が頼んだので、レオが見えるように腕で抱えてやる。

「レオくーん、さよならー」
「またねー」

 二人の声に答え、ライオンが長く咆えた。
 それは、非常に感情豊かな声だった。
 ライオンも、二人との出会いに何か感じたのだろうか。
 二人はそれからも、カバやキリン、象の背に乗った。
 リーヴァスさんが、これ以上ない甘い顔で、それを眺めている。

 俺たちに苦情を言いにきた動物園の人も、最後には呆れかえっていた。

 ◇

 その後、俺たちは銀座を歩いた。

 動物園の時のように、周囲を取りかこまれることはないが、遠巻きにこちらを見ている人が沢山いる。
 ルル、コルナ、コリーダは、それぞれが気に入った店を見つけ、長いこと商品を見ていた。

 俺は眠くなったナルとメルを点ちゃん1号に送り、コケットに寝かせておく。
 機内では、エミリーと翔太がスクリーンに映る映像を楽し気に見ていた。
 映像は、ルルの頭上一メートルくらいのところに設置した点から送られてくる。

 その後は、みんなでデパートに行った。

 ミミとポルは、地下の食品売り場で興奮している。

「なにこれっ! 
 誰がこんなに沢山食べるの?」

「ミミ、見てごらん。
 このお肉は、試食できるみたい」

 二人は、試食コーナーを巡っている。
 二人の耳や尻尾(しっぽ)について話をする売り場の女性もいる。
 どうやってか知らないが、二人はそういう人たちから、確実に何かをもらっていた。

 時々、売り場の女性が、キャッと声を上げているのは、透明化したコリンが足元を通りすぎたからだ。

 コリーダは、チョコレート、コルナはアイスクリーム、ルルはケーキのコーナーで、それぞれ頭を悩ませている。

 三人に全部買うように伝えると、彼女たちの顔がぱっと輝く。
 店の人は、売り物が無くなって困っていた。

 俺たちは、上の階でもいろいろ買い物をしてから、ホテルに向かった。
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